225話、狂気のダミオ・黒騎士の戦い方
「羽虫共が、俺様の前に飛び出したことを、絶望しながら死んでこいや!」
ターブルロンド騎士団長、ダミオが笑いながら剣を構える。
この場にいる誰もが単なる挑発ではないことを理解していた。
それだけ、ダミオという男は一般の戦士や冒険者からしたら、強いからに他ならない。
腐っても騎士団を束ねるダミオという男も化け物なんだ。
「くっ……」
「悔しいねぇ……仲間の仇討ちだってのにさ」
冒険者達がそうつぶやく最中、不意に俺へと攻撃が向けられる。
突然飛んできたナイフが鎧に命中して、“カン!”と鉄がぶつかる音が鳴る。
「え、ちょ……」
振り向いた先に盗賊風の風貌の女が次のナイフを構えて走ってきている。
「悪いねぇ、あんな化け物と真っ向から戦うなんて、あたしはごめんなんだよ! でも、ギルドから1人選手を倒せば、報酬をもらえるんでね」
咄嗟にどうするか悩みながらも、向かって来る女冒険者に向き直る。
「はぁ、しゃあないな……」
軽いため息を吐いてから、俺は空中に手を入れる。これは比喩だ、【ストレージ】に手を入れた俺の手は向かって来る冒険者からは消えたように見えるだろう。
「なにか、分からないけど……今さら、何ができるってんだ!」
女冒険者は、ナイフを同時に放つと、素早く腰に手を回し、新たなナイフを握る。
走りながら構えられたナイフ、握ったまま加速してくると、一気に飛び、距離を詰めてくる。
ただ、投げられたナイフが俺の鎧に触れた瞬間、突然の粉塵が舞い上がった。
「驚いたかい! これが盗賊ってジョブの戦い方だからね、恨まないでよ、鎧男さん!」
ガギギギッ!
「悪いな……俺の仲間にも粉塵や罠を使う奴がいてな、ましてや……いや、戦うならやるしかないな」
「なんで……後ろからの攻撃に対応できるかなぁ……足音なんかなかったと思うんだけどさ」
そんな、女冒険者の言葉に俺は無言で【ストレージ】から取り出した魔物包丁を力いっぱいに横薙ぎにする。
粉塵が吹き飛ばされたかのように一瞬で消え去り、明らかになる魔物包丁の姿。禍々しく、凶悪なギザ歯のついたそれは包丁というには、あまりに邪悪すぎる。
「マジかよ! あんた、本当にそんなバカデカい武器を、どこに隠してたのさ……それにどうやって、煙を消したってのさ」
「内緒だな……」
「本当に不気味な奴だねぇ、そんな芸当ができるなら、大道芸にでもなればいいのにさ!」
「多分、それは向かないなぁ、どちらかと言えば、解体の方が向いてるからな……」
「解体なんて、あんたみたいな姿の奴が口にすると別の意味に聞こえるねぇ……怖くて震えちゃうってもんさ」
互いに向き合いながら、軽口を叩く女冒険者。
それに対して、俺は何とも言えない気分になっていた。
「悪いな。今はこんな姿だからな、ただ、本来は料理をしていたいんだがな」
「どんな暗黒料理だよ! ただ、そんな趣味があるなら屋台でもしてろっての! 騎士様よう!」
再度、フルアクセルで突撃してくる女冒険者に刃を向ける。
「そうしたいが、それは嫁に任せてるんだわ……はあぁぁッ!」
両手にナイフを構えて突っ込んで来た女冒険者に振り放った斬撃が二本のナイフを砕くと同時に女冒険者が場外に吹き飛ばされる。
「あんたみたいな奴に、嫁って……本当に黒騎士かよ……最悪の悪夢だねぇ」
場外からつぶやかれた言葉に「これでも嫁ラブなんだけどな。俺……」と、つい口にしてしまった。
自分で口にして、顔から火が出るほど恥ずかしい……ミクロ・フォーノがいたら、間違いなく今の言葉を拾われただろうな、第九試合で気絶させてくれたポワゾンに感謝だな。
俺が女冒険者と戦っている間に、試合はかなり動いていた。
元警備兵団の団長──アクティが2人の冒険者を場外に落としていた。
そして、ダミオの方は4人の冒険者から総攻撃を受けていた。
「小賢しいんだよ! ザコが調子に乗ってんじゃねぇぞ!」
怒りを爆発させるダミオが盾を構えて、突撃すると2人の冒険者が吹き飛ばされ、さらに剣を振り上げて、魔法剣士を正面から叩き伏せる。
「ぐあ!」
「ぎゃあ!」
「残り一匹ッ! ザコが群がってもザコでしかねぇんだよ!」
既に最後の1人が双剣を構えるが、ダミオは盾を握った手を力任せに振り抜き、双剣使いを力でねじ伏せる。
「はい、終わりッ! 残り二匹か……詰まらねぇな! 俺様がこんなに手加減してもこの程度の奴じゃ、相手になりゃしない!」
まるで悪鬼羅刹をイメージさせるような表情で笑って見せてくる。
「さて、どうするかね……俺がやるべきだよなぁ……」
アクティに向かって僅かに視線を向ける。
視線に気づき、俺にまで警戒するような仕草を見せる。
「待ってくれ、俺もダミオとは因縁があるんだ。それになんか、嫌な感じがするからな、譲ってくれないか?」
「貴方が戦いたいなら、構いません……ただ、援護なんかはしませんよ?」
「構わないさ。悪いな」
毒気を抜かれたような表情になるアクティが武器に伸ばした手を離す。
「不意打ちくらい警戒した方が良くないか、私がいきなり攻撃するかもしれませんよ」
「その時はその時ですが、アクティさんって、そういうタイプじゃないでしょ? だから、大丈夫かと」
「ふん、私を知らない奴がよく語るものですね……気に入らないです」
「知らないってわけじゃないですが──」
「いつまで、喋ってやがる! 2人まとめて始末してやる。掛かって来やがれ!」
会話を中断させて、割り込んでくるダミオ。
既に血液が沸騰しているようで、鎧から湯気が上がっているようにすら見える。
「話はここまでにしましょう。俺がもし負けてもいいように気を抜かないでいてください」
俺は眼前に武器を構えるダミオに向けて、魔物包丁を構える。
「待たせたな……ダミオ」
「てめぇ……俺様を呼び捨てか? すぐに他の連中みたいにつぶしてやるよ、羽虫ヤロウがァァ!」
「俺もそのつもりだ。色々とお前には、言いたいことがあるしな、鬱憤の一つや二つはあるからな、覚悟しろよ」
ダミオの言葉に冷静な返答を口にすると、ダミオが一歩足を前に踏み出し、盾を前に構える。
「覚悟だァ? 笑わせんな、お前らは俺様の盾すら越えられずにつぶされる運命なんだよ、羽虫が!」
それ以上の問答は無駄だろう、誰も望まないような返事しか返せない存在。
昔、本でかじった程度の知識だが、“人は偏差値が20違うと話が通じない”ってやつだ。
それを身をもって経験している気分だった。単純に考えたなら、話し合いで解決する場面でもないため、どちらにしても、問答無用はここまでだろう。
「来いよ。アンタは突撃するのが好きなのは知ってるからな」
魔物包丁を構えた俺にダミオが口角を吊り上げる。不気味な笑顔の奥にある悪意、そんな言葉が似合う笑みが向けられた瞬間だった。一瞬でダミオに距離を詰められた。
「なァッ!」
突然現れたダミオに、驚く俺は先手を許してしまった。
咆哮を放つダミオが腕を引くような動作をした瞬間だった。
「うりゃあぁーーッ!」
驚き、仰け反った瞬間、ダミオからの盾を使った強烈一撃が腹部に放たれる。
鎧越しに全身を痺れさせるような痛みが駆け巡り、足がふらつき、内側から臓器が飛び出しそうになるような衝撃だった。
そんな俺にさらに剣を握った手が振り上げられる。
「口程にもねぇなぁ、終われよ! 虫ケラがァァッ!」
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