224話、怒れる獣
第九試合の実況が急に途切れたと思えば、待機室に慌てた様子の王国兵士さんが走ってきた。
話を聞けば、第九試合でミクロ・フォーノが攻撃に巻き込まれて、一時的に動けなくなったらしい……
安全確保って言葉が本当に大切だと再確認してしまったが、それ以上に残る一試合、つまりは俺が参加する試合だが、ミクロ・フォーノが復活するのを待つかどうかの確認をされている。
俺はどちらでも構わない。むしろ、戦う側よりも見る側の問題に感じてしまう。
早い話が、いい商品や企画があっても上手く紹介ができないと伝えられないって話になる。
商品紹介の動画なんかに、よくある話に聞こえてしまう。
「俺は構わない。他の参加者に任せるよ」
「すみません。ありがとうございます。すぐに伝えて来ますのでお待ちください」
そうして、兵士が待機室から去っていくのを見送る。
それから数分後、待機室にも響くような放送が会場に響き渡る。
「──えー、第十試合参加の選手方に確認を取らせてもらったのですが……即試合を望む声が九名、進行側に任せると言われた方が1名となりまして、審判であるミクロ・フォーノが不在のままになりますが、試合を再開することとなりました」
なんとも、他の参加者は戦闘狂だな、アニメの戦闘民族だって、時間を与える余裕を見せただろうに……
「すみません。参加者選手はゲートからリングにお願いします」
兵士さんが慌ててやってくると頭をぺこりと下げると去っていった。
今までがミクロ・フォーノの声でリングに移動していたため、なんか変な気分だが、変にマイクパフォーマンスをされるよりマシか……
「行くか。まぁ、殺し合いをするわけじゃないから、気楽にやらせてもらうかな……ベリーの料理も食べたし、一回は勝たないと格好悪いしな」
リングに続く薄暗い通路を歩いていく。
通路の先に差し込む光、その先から聞こえる歓声と熱気が不思議と肌をピリつかせる。
学生時代だって感じられなかった本当の緊張感ってやつだな。スポーツ大会に出てた奴らはこんな気分だったのか、当時は分からなかったけど、学生選手達って、凄いメンタルしてたんだな。
そうして、俺がゲートを通り抜けてリングに足を踏み入れると、歓声が一気に湧き上がる。
だが、俺の後に入ってきた最後の選手がリングに上がると、観客から大ブーイングが始まる。
「お前なんかが、大会を汚すな!」
「騎士団の恥さらしが!」
「アンタなんかやられちまえ!」
“ぶぅぅぅ!”と、怒りと恨みの感情を全力で向けられる先にいたのは、アイツだった……本当に会いたくないランキングがあれば、上位に入る男……
ターブルロンド騎士団──つまりは、王国騎士団の中で強さを絶対とする武闘派騎士団の団長ダミオだ。
ただ、すごい嫌われてるのが分かる。
仮にも王国騎士団長を相手にする行動とは思えないな……
「ダミオ! 国王陛下が庇わなければ、お前なんか縛り首じゃねぇか!」
「宰相の手下が! 大会を汚すな馬鹿野郎!」
「力だけの悪党が! くたばれ!」
さらに加速する罵倒に進行側が慌ててるのが分かる。
そんな時、罵倒されてる張本人が大きく息を吸い込むと会場全てに響くような声を腹から張り上げた。
「うるせぇッ! 文句がある奴は今すぐ、リングに降りてこいッ! 戦うことから逃げる奴が数でイキがるんじゃねぇぞォォォォォォッ!」
荒々しく、両手を広げ、天に向けて叫ばれるそれは、怒号と雄叫びを合わせた戦場での叫びにすら感じる。
圧倒的な迫力と声量が会場を凍りつかせたように静まらせた。
その姿に参加者の1人が呆れたようにつぶやく。
「王国騎士団とは思えない語り草だな……本当に」
その声の主を見て、俺は再度の驚きを顕わにすることになる。
砂漠のオアシス都市[ガルド・ゼデール]の元警備兵団の団長だった女性騎士──アクティだった。
「あんな男が騎士団長とは、ただ、強くても関係ない……私の役目は優勝して恩を返すのみだ。リトと女将さんも喜ぶだろうしな」
アクティさんの声から、星降る砂漠亭の女将さんとリザードガールのリトちゃんも元気そうだな。
見てみれば、他の選手達もダミオに殺気混じりの視線を向けている。
ただでさえ、血液が沸騰しているダミオが苛立ちを顕わにして、アクティ達に視線を向ける。
「おい! 早く試合を開始しないか! 俺は今すぐにアイツらを黙らせないと気が済まないんだ」
ダミオの声にビクッと震える臨時の審判が運営側に視線を向ける。
高い位置に座る国王であるルフレ殿下と他数名の老人達の姿があり、ルフレ殿下は怒りを必死に我慢しているように見える。
ルフレ殿下が老人達が話し合う最中、1人立ち上がり、会場にいる観客全てが見える位置に立つ。
「のぉ──ダミオよ……今しがたの振る舞い、余としては、看過できぬぞ! じゃが、貴様は今、大会の宰相側の代表選手である……
もし、これほどの蛮行を働いたにも関わらず、この大会で敗北したならば、今の立場でいられると思うなよ!」
ダミオが拳を握りしめながらも確かに頷いた。
「余の言葉はこの場にいるすべての民が証人じゃ、ましてや、この第十試合で敗北などしてみよ、貴様が貴族だろうが、関係なく騎士を名乗らせぬぞ!」
「僭越ながら……陛下、発言をお許しいただけますか……」
怒りを我慢している様子のダミオが真っ直ぐにルフレ殿下へと視線を向ける。
本来ならあり得ないだろうが、民の前で一方通行に力を行使することは後の政治に悪影響を与えるだろう。賢いルフレ殿下が無視をするとは考えられなかった。
「なんじゃ! 申してみよ、ダミオ」
「発言の許可に感謝いたします……ならば、この試合に勝ったならば、先程、こちらに向け暴言を吐き、騎士である我が身を汚した輩を捕縛させていただきたいのです!」
「な、なにを!」
「私は騎士の生命を、陛下には勝った際には私の騎士としての尊厳を守っていただきたいのです!」
ダミオが微かに笑った。もし、ここでルフレ殿下がダミオの条件を断れば、すべての約束事を無効にせざるを得ないだろう。
ルフレ・イルミネイトという少女は国王であると同時に平等を大切にする優しい子なんだ。
それを理解しているからこその交渉、いや、交渉という名の脅しだ。
ただ、ルフレ殿下や俺も予想外だったのは、会場から声が溢れ出す。
「やってください! ルフレ殿下」
「殿下が庇う必要ありません! オレらは覚悟してます」
「もう、そいつを庇わないで殿下!」
ルフレ殿下は苦虫を噛みつぶしたように視線を向ける。
「民の声は国の声か……よかろう、ダミオよ。その約束……守ろう、ただ、貴様が敗北したなら、余も容赦せぬ!」
そうして、大会開始の合図が打ち鳴らされる。
一瞬の沈黙にも似た静寂、それをすぐに熱気に変化させたと同時に素早く動き出す複数の足音。
試合開始の合図が告げられるとすぐにダミオに向かって複数の冒険者選手が駆け出していた。
「ダミオ! お前に捕らえられた仲間の恨みッ!」
双剣使いの冒険者が疾風の如き勢いで斬り掛かる。
そんな攻撃を正面から盾で受け止めると手に握った剣が振り上げられる。
「まずは、一匹ッ!」
「させるかよ! マジックバーストッ! 吹き飛べや!」
ダミオと双剣使いがぶつかり合う真横から、別の冒険者が、双剣使いに振り抜かれようとしたダミオの剣に魔法が放たれる。
咄嗟にダミオが双剣使いを手放し、距離をとる。
「すまない、助かった。双剣使いのカレッジだ。アンタは?」
「私はリグレット。魔法剣士だ」
2人が名乗るとダミオが苛立ちを顕にする。
「羽虫の凡人が、群れても偉大なる騎士である俺様に勝てるなんて、思い上がるなよ!」
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