223話、ミクロ・フォーノ
私はミクロ・フォーノ。
魔導後方支援部隊、つまりは、王国魔導兵団に籍を置き、今年で十年目になるだろう……そんな私は自身の目を疑う他なかった。
今、目の前で起きている光景だけは、どうにも受け入れ難い……。
私は何を見ている……?
毎年、毎年、大会参加者には規格外の化け物じみた選手などいくらでも現れる。
教会側からは、ウィル・アクシオン、冒険者ギルドからはヴァールハイト、王国側からだって……
だが違うんだ、今目の前にいる2人の少女達は──次元が違う。次元って言葉の重みが別次元すぎるんだよ。
私の人生に、これほどの衝撃があっただろうか。否、否だ!
あれはもう、人間技じゃない、いや、獣人や亜人は本質、つまりはポテンシャルが違うのは当然だが、そんな生易しいものじゃない。
……いや、そもそも、他の試合にもいた……人という枠で語ってはいけないような戦いをする“規格外”って奴らが、本当にこのまま進行していいのか……
最悪の場合、王国、教会、冒険者ギルド、この三竦みの意地をぶつけるための武道大会が無所属の選手達に食い荒らされる結果になるんじゃないか……
私はなんで、司会進行に選ばれたんだ……胃が痛くて吐血したいくらいだ。
早く終われと願うひどい試合なんて、数年も司会進行をしてればいくつもあるんだ。
だが、こんな、国を揺るがすような形の嫌な試合の流れなんてなかった……
本来は冒険者ギルドからの刺客と言えるヴァールハイトが勝って終わると思った試合だった。
進行役が潜入感ありきの話になるが、それだけの化け物がヴァールハイトって男だから仕方ないだろう。
そんな化け物を容易く吹き飛ばして、完璧なカウンターを喰らっても虫が止まった程度に気にしない様子の少女。
そして、王国側から参加した女騎士を吹き飛ばす砂漠の戦闘部族、普通に考えたら騎士とは強いから騎士なんだよ!
しかも、エオナさんは中佐だぞ! 私からしても、その実力は疑う余地なんてないんだよ。
そんな化け物だらけの第七試合もクライマックスだ……
今、眼前に向き合う2人の選手、幼くも強い瞳を突き合わせる両者を、少女なんて呼べるわけがない……
「ここで、両者が向き合った! フライ選手とミト選手、どちらが勝利を掴むのか、第七試合最後のぶつかり合いが今始まる! ラストバトルがここに開幕だぁぁぁッ!」
勢いで言ってしまったが、見てるこっちが目で追うのが必死な試合だ、気を抜けばすべてが終わってるかもしれない。
私が王国軍の依頼で大会の司会進行に選ばれてる理由は特殊な目があるからに他ならない。
“監視眼”──動きをしっかりと見極め、動きをスローに見せる魔眼スキルの一つ、戦闘には不向きな視力強化型の魔眼だ。
そんな私が見ているのに、早すぎて互いの武器がぶつかる瞬間を見ることしかできない。ただ、見れることと説明ができるとでは意味が違う。
台風の日に突風をすべて説明しろと仮に言われて、すべての風の向きと角度を説明できないように……
雨粒のすべての動きに数字をつけて読み上げることなんて無理なように……
「これは凄まじい連撃だッ! ミト選手、ただならぬ速度での猛攻! 巨大なハンマーをまるで棒切れでも振るうように暴れまくる!」
ありえないんだよ! そんな速度で軽く数十キロはあるだろう見た目のハンマーを振り回すなんて……常識の範囲で戦ってくれよ! 私にも限界があるんだよ!
「フライ選手、回避! ここでバックステップからの高速回転、まさに回避の嵐だァァ! ミト選手の鋭いハンマー捌きでリングが既に限界か、足場が次第に悪くなっていく!」
会場からも大きく声が上がる。
「見えるか! まったくだ、音が聞こえるだけで……」
「だよな、ミクロの奴は見えてるんだよな?」
「凄すぎて分かんねぇけど、すげぇ!」
私へのメッセージはいいから、早く終わってくれ、こんな試合実況してたら喉が持たないんだよ!
「おっと、フライ選手、距離をとった! な、なんだあれは! どこから取り出したんだ、フライ選手、初めて武器を取り出したァァ! 女性には秘密が盛りだくさんなんて話があるが! まさに取り出されたのは杖、いや、錫杖だ!」
なんで、ここの場面で錫杖なんだよ? 見た感じ、素手の戦士じゃないのか、まさか、神官なのか……
むしろ、あんな杖で、巨大なハンマーを防げるのか、私の常識が限界の鐘を鳴らしてるってのに、どうなるんだよ、むしろ期待しちまうだろうがァァ!
「さぁ、互いに武器を手にした両者が再度向かい合う、片や砂漠の戦闘部族、砂鮫のミト選手! 防戦特化の華麗な回避とステップで舞い踊るフライ選手! 互いに動いたァァァ!」
フライ選手とミト選手がぶつかり合うように駆け出していく。
互いの武器がぶつかる瞬間、激しい衝撃波が巻き上がり、周囲に広がったそれが観客席の防御魔法のシールドを振動させる。
それだけの衝撃波がぶつかり合う中心で余裕の表情を浮かべるフライ選手が笑うと、その横で同じように笑うミト選手、本当に化け物なんだよお前たちは、ちくしょうが!
ああ、あり得ないだろう……これが予選の一試合にしかすぎないんだぞ! 個人戦なら理解できるが、バトルロワイヤルの一戦でしかないってのに、なんでこんなにワクワクさせるんだ。
「両者が笑う! 互いにまだまだ、余裕が隠されてるのか! ただ、ぶつかり合う衝撃波が会場を震わせていくッ!」
ここまでは拮抗した戦いだ、ただ、会場の観客は気づいていないだろうが、間近で見ている私と戦う2人だけが理解しているだろう、既に勝敗が見え始めている事実を……
「ここで一撃、また一撃とフライ選手が押していく! 攻防が逆転していく! 見れば、ミト選手の巨大ハンマーが錫杖により削られていく!」
鉄の塊であるハンマーを、あんな細い錫杖で耐えていただけでも驚いているってのに……それを削り落とすなんて、これが戦場で対峙した敵なら、鎧ごと細切れにされるって話だぞ。
私はマイクに音が入るかもしれない、そんなことも忘れて、ゴクリと唾を呑み込む。
「凄い連撃による連撃! おぉッ! ミト選手がハンマーを投げ捨てた! フライ選手の懐に!」
ドゴンッ!
フライ選手の腹部に間違いなくめり込む拳、ただ、フライ選手はそんなミト選手の拳を喰らったにも関わらず、錫杖を力いっぱいに振り上げたように見えた。
そして、私は見たんだ。全力で笑うミト選手の顔と、煮え切らない表情の辛そうなフライ選手の顔を……
ダガンッ!
ひどく残酷な音だったように感じた。
吹き飛ばされたミト選手が場外ギリギリに落下する寸前、フライ選手が今までになかったスピードで吹き飛ばしたミト選手を抱きとめた。
「あ、ミト選手、これは戦闘不能! フライ選手の見事な逆転勝利だァァ! 第七試合の勝者、華麗なるフライ選手に決定だァァ!」
私は凄い試合を見せられた。
次の試合を実況することになるが、次の第八試合には、王国側の代表であり、前回の優勝者であるメフィス選手が出場する。
そうして、試合が開始すれば、圧倒的な力でメフィス選手はあっという間に選手達を吹き飛ばし、数十秒もしないうちに勝利を手にしていた。
ただ、もっとひどかったのは、第九試合だろう……
私が試合開始を口にした途端、突風が吹き荒れた。
その途端、私の意識が薄れ、リングに視線を向けると参加した選手達がバタバタと倒れていく。
「こ、これは……」
私のその発言に参加者選手で唯一立っていた選手が軽く笑う。
「私が使う薬品です。ご主人様からは加減するようにと言われましたので、メイドとして守っておりますので、ご安心ください」
頭を下げた選手の姿を確認して、最後の力を振り絞る。
「第九試合……ポワゾン選手のしょうり……」
そうして、完全に私の意識は失われた。
来年はこんなやばい仕事、絶対に断る。絶対に……
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