222話、リングの秘密と冒険者ギルドの怪物
勝利宣言が耳に響く。予想外の結果だった……グーが敗北する未来など、一ミリも想像していなかった俺は小さく拳を握った。
もし、グーに怪我があったらと考えると胸が痛くなる。
そんな姿に他の参加者から声を掛けられる。
「なんだ? 知り合いが負けたのか、死んだわけじゃねぇんだから、慌てんなよ。リング内には殺傷無効化の馬鹿げた魔導具が設置されてるんだからよ」
「殺傷無効化?」
「なんだ。なんだ初参加か? 大会の説明を聞いてないのかよ。まぁ、初参加なら焦っても仕方ないか……いいか、殺傷無効化の魔導具って国宝級の魔導具がリングの地下深くに埋められてんだよ」
「そうなのか? 盗まれないのか」
「馬鹿を言うなよ。リングは大会前に作られるが、かなり深くに埋められてるし、それを護るために、各地の警備兵団と騎士団が防衛戦さながらの見張りをしてやがるんだからな、無理無理」
俺の知らなかった情報が語られる。大会参加者は最初に説明されていたようだが、遅れてヒヒ様と裏口から入った俺は知らなかった。
むしろ、知らない方がおかしいらしく、待機室にいる他の2人の参加者からも軽く失笑されたのが分かる。
ただ、生きてると分かれば安堵もするし、戦い方にも余裕が出るだろう。
逆に、だからこそ、ベリーが負けを宣言したんだろうと納得した。
観覧席側にも防御魔法を強化した魔導具と魔導師が配備されたが、やるなら最初からそうして欲しかったな。
まぁ、それでもベリーが最大火力で放った魔法を防げるかと言われたら、なんとも言えないが……
そうしている間に次の試合が始まるようで、説明をしてくれた気さくな男がリングへと続く通路へと向かって行く。
「オレはデフェットだ! 次にアンタが勝てば当たるかもしれない男の名だ! また会おう」
男は名乗るだけ名乗ると笑いながら、リングに消えていった。
ミクロ・フォーノがお約束のマイクパフォーマンスを開始して選手の名前を告げていく。
「さぁ、第六試合の熱気が冷めやらぬリングに次の旋風は吹き荒れるのか、期待の第七試合の開始だ!」
「ワァァァッ!」
「やれ!」
「頑張れぇぇぇぇッ!」
観衆からも熱気に包まれた声援が吹き荒れる。
「今回は花形の試合、美しくも可憐な参戦者が熱い戦いを繰り広げるのか! 期待の選手達の紹介だぁぁぁッ!」
そうして、1人、2人と名前が読み上げられ、3人目に先程の男、デフェットの名が告げられる。
「ここまでが屈強な男性参加者になり、ここからが可憐な戦いを期待させる選手達の紹介となります! なんと大会初の6人が女性の参戦だ!」
会場が再度熱気に包まれているのが、観客側からの声で理解できた。
名前が呼ばれる度にボルテージがぶち上がるような叫び、そうしているとミクロ・フォーノがさらに名を読み上げる。
「次の選手は幼くも、予選を無傷でダントツ一位を決めた奇跡の初参加、誰がこんな幼い幼女にそんな強さがあると思っていたのか、見た目は少女、その実力は大陸を揺るがすのか! 小さきバトルジャンキー──フライ選手!」
おいおい、ミクロ・フォーノ……フライちゃんに小さいだの、幼女だの言ってやがるな……キレたらやばいって話なんだが、その時は骨くらい拾ってやるか。
「続いて、砂漠のオアシス都市[ガルド・ゼデール]の最強部族、砂鮫人族からの参戦者! 砂漠の足場でも高速で敵を喰らい尽くす戦闘部族の女戦士──ミトが大会に殴り込みだァァァッ!」
俺は吹き出しそうになる。フライちゃんとミトが同じ試合に参加なんて予想していなかった。
驚く俺を知らんとばかりに、さらに王国騎士団から女騎士としてエオナ中佐の名前が聞こえて来る。
「どうなってんだ……」
確かに王国側からの参加者はいるだろうが、フライちゃん達と同じリングなんて、可哀想すぎるだろ!
それから、合計で女性参加者が6名読み上げられる。
最後の1人、つまりは10人目の名前がミクロ・フォーノにより叫ばれる。
「最後の1人は、冒険者ギルドから満を持しての参戦、前回は惜しくも、ウィル・アクシオンにより、敗れたが実力だけなら大陸、五本の指に入る実力者、アタンティフ・ヴァールハイト選手だ!」
長ったらしい名前が叫ばれると、待機室から2人の男達の話し声が聞こえてくる。
「危ねぇ、もし、今の試合に参加になってたら、ヴァールハイトにやられてたかもしれねぇな……」
「ふん、あの化け物みたいな奴に前回勝ったウィル・アクシオンがやられてんだ。今回はかなりヤバいやつが多いだろうな」
「だな、まぁ前回の準優勝のウィル・アクシオンが敗北してんだから、俺様にも優勝の可能性が見えてるがな」
「馬鹿言うな、お前が優勝できるなら、俺だってできるさ、それにヴァールハイトの奴は敗北からさらに力をつけてるらしいからな、あの2メートルを超える巨体にスピードと筋力、おまけに魔攻装備の使い手だぞ、化け物すぎるんだよアレは……」
会話から、ヴァールハイトって奴はかなり強いらしい。ただ、そのリングには俺が知る限り、“最強の女神”と“最高に喧嘩ぱやい戦闘狂”が参加している。
仮に賭けに参加するなら、2人のどちらかに賭ける選択肢しかないのだから。
試合開始の合図が鳴る。
盛り上がる観客、最初に仕掛けたのは、噂のヴァールハイトだった。
「仕掛けた! ヴァールハイト選手がデフェット選手に突撃だ! 盾で守るデフェット選手が吹き飛ばされる! うぉ! 凄まじい猛攻、宙に舞ったデフェット選手に巨大すぎる拳の炸裂だァァ!」
デフェット……再会はないらしいな。まぁ、運がなかったんだろうな。
「お、え、ヴァールハイト選手に注目していた横で激しい女の戦い、ミト選手が巨大過ぎるハンマーを手に大暴れだァァァ!」
「これはすごい、女騎士、エオナ選手が耐える、だが既に片手は使い物にならない! 王国騎士が絶体絶命! 砂漠の砂鮫ミト選手が騎士を追い詰める!」
ミクロ・フォーノが叫び、試合がクライマックスに次第に近づくのがわかる。
エオナ中佐はミトと激しい戦闘になっていたようだが、ミトの巨大ハンマーにより、場外の壁に叩きつけられたようだ。
ミクロ・フォーノがそれを告げた時点で、観客側からの叫びが響き渡る。
「な、な、なんだこれはぁぁぁッ! ヴァールハイト選手が、あの巨体が……吹き飛ばされた! いまだに場外にはなっていないが、リング隅へと吹き飛んだ!」
フライちゃんが動いたらしい、巨体と言われるヴァールハイトって選手も可哀想だな……
力だけでフライちゃんには勝てないだろうし、なにより、戦闘経験とかすべてが別次元なんだよな……
「ここでフライ選手が一気に詰め寄る! ヴァールハイト選手、必殺のカウンターが! 決まった、リーチの差が物語る破滅の一撃、小さな少女に炸裂させた絶望! フライ選手! ──え、吹き飛ばされない……耐えている!」
「うおぉぉぉ!」
「あの子、あの勢いの拳を耐えてるよ!」
「やばいぞ! ヴァールハイト、お前に全額賭けてんだ、負けんな!」
「頑張れ嬢ちゃん! 俺はアンタに金貨一枚賭けてんだ! 勝て!」
ヴァールハイトのカウンターを受けても微動だにせず、フライちゃんが相手を最後には殴り飛ばしたらしい。
ここまでのミクロ・フォーノの解説を聞いて、リングにはフライちゃんとミトの2人だけが残っているらしい。
本当にどうなるんだ……実力だけなら、ミトには悪いがフライちゃんが強いだろう。
だが、ミトは諦めの悪さと咄嗟の判断力ではフライちゃんに負けてない。
どちらが勝ってもおかしくない試合だと、俺は固唾を呑んだ。
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