220話、会場屋台にご用心? ナギと二人で昼ご飯
小さなため息は幸せが逃げるなんて、聞いたことがあるが、最終的にため息を吐いた方がストレス発散になるっていう話を知った時は驚いた。
嫁ちゃん達と会う際も正体をバラせないため、なんとも罪悪感の伴う行動になっちまうが、それでも、どちらかと言えば俺が嫁ちゃん達の顔を見たいのだ。
ナギはそんな俺の気持ちを知ってか知らずか、会場にいくつも存在する屋台に向かって移動していく。
「マイマスター……ベリーの屋台はどこ?」
ナギがボイスチェンジャー越しにアンドロイドボイスで語りかける。
「多分、もっと奥にある店だな。ほら、俺達が試合を見てたのが、あの位置だから、方向的にはあっちだな」
俺が指さしたのは今の地点から見て半周と少し向かったあたりになる。
つまりは意外に距離があるため、ナギには悪いが少し早足になっている。
と言っても、そこは既に腹ペコのナギなため、屋台を見る度によだれを流しているのがよくわかる。
「わかった。口元を外して食べるなら、買っていいよ。ただ、ヒヒ様との約束もあるから、顔は出したらダメだぞ?」
「わかった。なら急いで食べる! なら、あの“リーフ料理”って屋台からにする」
ナギは屋台にグッと近寄る。すると屋台のおばちゃんが、驚いた表情を浮かべる。
「な、なんだい、教会の騎士様がワザワザなんのようなんだい! ちゃんと場所代も払って、屋台をやってるんだからね」
怒るような、怯えるような言葉にナギが不思議そうに首を傾げて、俺を見る。
「買おうとしたら怒られた。マイマスター……ナギ、なんか悪いことしたの?」
見るからに落ち込むナギに鎧の上からになるが、低くした頭を優しく撫でる。
「悪いんだが、客として買いたいんだ? それとも、教会関係者には売れないって、規則でも?」
俺の質問に屋台のおばちゃんが困ったような、疑うような表情を浮かべる。
「うーん、でもねぇ、本当に客なのかい? ウチらは、アンタら教会側から散々な目にあってきたからねぇ。忘れたとは言わさないよ! こちらからしたら騒ぎになっても国王陛下が来てんだ! 正しい決断をしてもらうだけだからね」
和解できたかと思った矢先のデッドヒート……屋台のおばちゃんの勢いは、止まらず周囲からもなぜか賛同した人達から責められてしまう形になる。
そんな俺達に向かって、1人の修道着姿の女性が集まる人々を掻き分けて、俺とナギのもとにやってくる。
「待ってください。皆様、こちらの2人は、ヒヒ・クラーレ大司教の御客人です。失礼があれば、ルフレ国王陛下に対する裏切りにもなりましょう」
突然、出て来た修道着姿の女性に俺は目を疑ってしまった。
「リーフ?」と俺はうっかり、名前を呼んでしまっていた。
俺達が鉱山の街[ボルドール]まで送り届けることになった女性だ。
そんな彼女は俺が口にした「リーフ」と言う言葉に不思議そうに首を傾げる。
「おかしいですね……私は名乗った覚えがないのですが、先程も多分、名前は出なかったと思うのですが? 前にお会いしているのでしょうか」
首を再度傾げると頬に人差し指を当てるような仕草で此方に視線を向ける。
「いや、済まない。店のつまりは、リーフ料理のオススメを頼みたいのだが、いくらかな?」
口調をなるべく紳士的に、棘がないようにして注文を口にする。
正直、リーフ料理の屋台じゃなかったら、誤魔化せないレベルの苦しい展開だと思う。
「教会関係者がリーフ料理をねぇ? アンタ、王都の人間じゃないのかい?」
ついさっきまで、渋っていたはずのおばちゃんが、少しフレンドリーになったきはがする。
「ああ、別の街から来たものでな、名前からもハーブ系の食材なのか気になっていてな」
「はぁ、悪かったねぇ。アンタ達がヒヒ様の御客人だって知ってたら、あんな失礼な態度は取らなかったんだけどね、ちょっと待っとくれよ」
リーフ料理屋台のおばちゃんが手際よく、野菜を包丁で千切りにしていく。
薄い生地を焼いたもの、分かりやすく言えば“トルティーヤ”のような生地に真っ赤なタレと焼いてある肉を乗せて、最後に千切り野菜を乗せ、巻いていく。
早い話が“ブリトー”のような料理が手早く作られ、紙に包まれて二つ手渡される。
「いくらですか?」
「二つで銀貨一枚だよ。会場での販売だから少し割高だけど、街なら一つ、大銅貨三枚(300リコ)って感じかね」
「確かに場所代も含めれば、安いくらいだな。銀貨一枚だな」
俺は悩まずに銀貨一枚を手渡すとおばちゃんは不思議そうな、それでいて驚いたような顔をした。
「アンタみたいに素直な奴ばかりなら、私らも揉めたりしないんだけどね。サービスだよ。ほら、持ってきな」
おばちゃんから、焼いた肉の入った小袋を渡される。
「肉が多い方が力が付くだろう? アンタにはイチャモンつけちゃったからね、悪かったよ」
頭を軽く下げてからその場を移動しようとするとなぜか、リーフが一緒についてきていた。
「先程はありがとう。感謝する。ただ、まだなにか?」
「いえいえ、アナタ方だけでは、また誤解をされるでしょうから、私もついて行って差し上げようかと、ご迷惑でしょうか?」
迷惑というか、正体を隠さないとならないから、正直に言えば、ありがた迷惑なんだよな……ただ、親切心からの提案に俺がそんな事実を言えるわけなんてない。
「そうだな、優しさに感謝する。ただ、既に食事は買えたので問題ないというべきだろうか」
俺はこの一言で諦めてくれと願うが、やはりそう上手くはいかないようで……
「マイマスター、他の屋台で買い物したらダメ? 買えないの悲しい」
うちのナギさんが、腹ペコすぎて、歩きながら、既にリーフ料理を食べきっている。
しかも、まだ食べ足りないらしく俺は仕方ないと感謝の言葉を告げて、同行してもらうことにした。
俺の言葉にリーフは頷くと、ナギが覗いた屋台に一軒ずつ説明をしてくれている。
お節介を通り越して、交渉人にすら見える。
一歩進むごとによだれ。
二歩進むごとに「美味しそう」と呟く。
三歩進む頃には、もう完全に“屋台探知機”と化していた。
そうして、目的のベリーの屋台に到着するまで数件の屋台が並んでいたが、ナギは全てを制覇してオススメの品を買っては食べていた。
「満足したか? 凄い食べてたが」
「美味しかった。マイマスターは食べないの?」
「俺はまぁ、後で食べるさ。さて、目的の屋台だな」
わざとらしくベリーの屋台と言わないのは、リーフもそうだが、ベリーにも正体をバラしたらまずいからだ。
そうして、ベリーとペコの2人がやっている屋台に到着する。
到着はしたのだが、何やら数人の男達の声が聞こえ、それに対してベリーのしっかりとした怒りのこもった声が聞こえた。どうやら揉めているようだな……
「なんなのよ、アンタ達! 許可はもらってるって言ってるでしょうが!」
「前もって許可が出てない店の言葉は信じらんねぇなぁ? とりあえず、来てもらおうか? 抵抗すれば、反逆罪で捕えないとならなくなるぞ?」
ベリーにイチャモンをつけているのは、どうやら聖騎士団員のようで、その鎧に刻まれた印から“アルノ・マーレ派”のようだった。
「これが屋台で俺達が嫌われた理由か……ったく」
本当にくだらねぇ奴らだなぁ。
「おい! 何をしているんだ」
俺の声に振り向いた聖騎士の連中が苛立ちを向けながら、剣に手を掛ける。
それを見た俺は問答無用で、【ストレージ】から竜切り包丁ではなく、魔物包丁を取り出して構える。
巨大な魔物包丁を構えると周囲から、焦るような声が聞こえてくるが、それは聖騎士団員達からも同様だった。
「き、キサマ! 剣を抜いたな! 我々が聖騎士であり、“アルノ・マーレ大司教”傘下であると理解しているのか!」
俺はそんな質問にただ、「いや、知らないけど?」と答えるのだった。
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