219話、リングの上にペコとニア、勝敗の行方
第五試合には、ペコとニアの姿があり、他の8名が王国騎士団と教会側の騎士となっていた。
「さっきから、教会側からの参加者が多くないですか?」
「そうさねぇ、一般人に紛れて、かなりの数が参加するんだよ。むしろ、今回の大会は一般からの参加者がかなり目立つ印象だけどねぇ」
クスクス笑いながら、俺を見るヒヒ様の顔は、俺のせいで面白くなったと言いたげに見える。
そうして、開始された第五試合。
速攻で動いたのは聖騎士団員だった。既にウィル・アクシオンという、信頼すべき強者の1人が大敗した事実が彼らを鬼神の如く駆り立てているようにすら見える。
ペコとニアは最初に王国騎士達と向き合いそれを薙ぎ倒していたが、背後に回り込んだ聖騎士達があろうことか、不意をついた光魔法の詠唱が始まり、騎士団諸共、2人を場外に吹き飛ばそうと魔法を放っていく。
「聖なる導きに闇は消えよ! 【シャインニングレイ】!」
「光の導きよ! 全てを浄化せよ【ホーリーランス】」
複数の光魔法が一斉に撃ち放たれた瞬間、眩い光がリングを照らし、収束と同時に一気に大質量のレーザーを思わせる輝きがニア達に襲い掛かる。
「ふん! 盾スキル【絶対防御】【魔法防御】【体力増進】【筋力上昇】ハァァァァァッ!」
ペコがニアの前に立ち、盾を構え、槍をリングに突き立てると光の粒子に向けてありったけの盾スキルを発動していく。
会場からは、眩し過ぎる光でリングで何が起きているか分からない様子だった。
俺も“調理用ゴーグル”がなければ、確認できない流れるような試合にペコとニアが心配で仕方ない。
ただ、ペコの盾スキルが弾いた光の粒子は左右に分かれて、真っ二つに割れると2人の背後にいた王国騎士団員を巻き込む形で場外まで伸びていく。
願わくも、聖騎士団員の放った複数の光魔法は結果的に、リングの半数近い選手を場外へと吹き飛ばしていた。ただ、それは聖騎士団員が考えた筋書きと違うものになったようだ。
聖騎士団員からの魔法攻撃が終わった時、盾を構えていたペコがゆっくりと前屈みになるように、足の位置を移動させる。
それを警戒した聖騎士の1人が盾を構えた瞬間だった。ペコが一気に駆け出し、聖騎士に突撃する。
「くらえ! 【シールドバッシュ】!」
盾スキルの基本的な技だが、ペコが使えば、それは強者の一撃に他ならない。
人間用に使ってきた【シールドバッシュ】と魔物を狩るために使い込んできた【シールドバッシュ】では、月とスッポン、いや、銀河と飴玉ほどの馬鹿みたいな威力の差が存在するからだ。
ただ、それは対人用に使ってきた【シールドバッシュ】が弱いと言うわけじゃない。
対人戦に特化した盾スキル【シールドバッシュ】は武器を落下させたり、相手に隙を作らせたりと多様性があり、大型の魔物に当てるよりも人に対して狙った場所に当てることの方が難易度が高く、熟練度が必要な技術スキルとも言える。
互いが正面からぶつかり合い、両者の盾がぶつかったその瞬間、聖騎士が片手の剣を横薙ぎに振り抜こうと力を込めたのが見て取れた。
そんな一連の動作をペコはぶつけた盾を力任せに振り払う形で聖騎士の重心ごとバランスを崩させる。
あり得ない力技に俺も驚いたが何よりもそれをくらった聖騎士が一番驚いていた。
そして、ペコが短い槍を容赦なく握ると、聖騎士の顔面を横殴りにして吹き飛ばす。
バランスを失っていたため、派手に吹き飛ばされた聖騎士が動かなくなると同時に、ニアがペコの背後から魔法詠唱を始めていた聖騎士の1人に向けて拳をめり込ませる。
「ぐはぁ!」と、聞いてて痛々しい声にならない声が聖騎士から放たれると、ニアがニッコリとペコに笑って見せる。
そうしている間に、リングには聖騎士団員が2人とペコとニアの計4人が残されるのみとなり、残った聖騎士の2人を見れば、後衛メインなのか、盾の様な装備はなく、剣もショートソードくらいのサイズに見えた。
そうなるとヒヒ様も小さく「勝負ありだね」と口にする。
後衛メインならば、前衛メインのペコとニアに限られたリングという戦場で勝つことは難しいだろう。
しかし、聖騎士の2人は互いに覚悟を決めたように近づくと俺からでも分かるような魔力の塊を作り出していく。
それを見て、すぐにペコが動き出した。
「ニア様は、下がってください! 巻き込まれたら吹き飛ばされます!」
次の瞬間、ペコがさらに加速すると盾を前に押し込む形で2人の聖騎士に突撃する。
慌てて、溜めていた魔力を放つ2人の聖騎士だったが、ペコが予想外の大技を放ったのだ。
「盾スキル【身代わりの盾】【シールドバッシュ】!」
二つの盾スキルが発動された瞬間、放たれた魔法がペコの盾に直撃したと同時に吸い込まれていくのが分かる。
盾に亀裂が入った瞬間、【シールドバッシュ】が2人の聖騎士を吹き飛ばすと同時に、盾が砕け散り、凄まじい衝撃波が巻き起こる。
ペコが盾スキルで騎士達を吹き飛ばしたが、同時に衝撃波がペコ本人も場外へと落下させる結果となっていた。
途中までは、ペコとニアの一騎打ちで試合が終わるだろうと考えていたが、予想外の結果になってしまった。
ミクロ・フォーノも最初はマイクで盛り上げていたが、蓋を開けてみれば、ニアの棚ぼた勝利になってしまったのでコメントに困っているように感じる。
「ペコ! なんで、そうニャるにゃ! これじゃ! キンザンにいい所が見せられニャイにゃーーーッ!」
会場全体に響くニアの悲痛な叫びは印象的だったとだけ言っておこう。
ペコが吹き飛ばされた衝撃波だが、【身代わりの盾】というスキルが原因だろうと、ヒヒ様が教えてくれた。
「あれは、基本弱い攻撃を盾に蓄積させて、無効化する悪どいスキルなんだよ。武具スキルや防具スキルは使い勝手が悪いが……こりゃ、真似する奴も出るだろうねぇ、怪我人ばかり増えそうで嫌だねぇ……」
嫌だと口にした割に悪徳医師みたいな表情なのが、なんとも言えないが、とにかく、ニアが第五試合の勝者に決まった。
ペコを心配していたが、試合後は自分で立ち上がり、ニアと笑って話していたので問題無さそうで安心した。
そうして、前半戦になる五試合が終わりを迎えたのだが……
「マイマスター、ナギ、お腹空いた……お昼まだ?」と、ずっと待機していたナギから声が掛けられる。
時間を確認すれば昼になっていた。前半戦が終わり試合も昼休憩を挟んでいく。
ヒヒ様もその様子から、昼食にするようだ。
「どうするね? アンタらが良ければ、アタシは飯を一緒にと思うが?」
他の嫁ちゃん達のことが気がかりでその問い掛けに即答できない自分がいた。
「ナギ、良かったらヒヒ様とご飯を食べてきてくれ、俺は少しみんなが気になってるからさ」
「マイマスターがいかないなら、我慢する。ナギも皆が心配、ご飯はバイバイする」
ナギの言葉にヒヒ様が呆れたように頭に手を伸ばす。
「驚いたねぇ、アタシのしってる蛇人族は欲望に忠実なイメージしかないってのに、なら、ナギって言ったね? アンタにはコレを渡しとくよ」
ヒヒ様がナギに渡したのは、一枚の銀細工が掘られたプレートだった。
「なにこれ?」
「そいつは、アタシらの食べる食堂のカードだよ。そいつがあれば、何時でも食事を作ってくれるからね。渡しとくから好きな時に食べに来な。食堂は通路の一番奥に看板があるから分かるさ」
それだけ伝え、ヒヒ様と護衛のナーガ族の戦士達はその場を後にした。
「俺達もバレないように、みんなの様子を見に行こう。そしたら、飯にしないとだしな」
「うん!」とナギが嬉しそうな声を出す。
互いに顔を隠しているため、少し変な感じだが、まぁ仕方ないな。
ついでにナギにもボイスチェンジャーを口元のプレート部分につけさせてもらい、会場を歩いて嫁ちゃん達を探すことにしよう。
なんせ、一度も顔を見せてないから、色々とあるだろうしな……ハァ……
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