218話、大会の裏の裏?王国と教会
観覧席に戻ると、渋い表情のヒヒ様とアルノ・マーレ大司教の姿があった。
ヒヒ様は、面倒ごとを厄介がっているような視線を俺に向け、アルノ・マーレは、かなり御立腹といった表情が俺にも理解できた。
「貴様ッ! 大会の試合に横槍を入れおって!」
拳を握るその手が怒りに震え、鋭くも見開かれたその目からは恨みにも似た感情が嫌でも感じられた。
「貴様が乱入しなければ、まだウィル・アクシオン聖騎士団長は試合に敗北しても、名誉を失うことなどなかった! 貴様らはこの“アルノ・マーレ派”の代表である私に恥をかかせたんだぞ!」
俺の目の前で立場と地位を語り、ウィル・アクシオンの心配を口にしない男に対して、少なくない嫌悪の感情が湧き上がって、内側で“ふつふつ”と沸騰していくような感覚が込み上げてきていた。
「待ちな、アルノ大司教、今の言い方だと、勝てたって話には聞こえないんだがねぇ。まさか、死んでも構わなかったって話じゃないだろうね?」
「ヒヒ大司教殿、そんなつもりは、ただ、試合を汚されたことにですな、私は、そう! そいつ、そいつに物申したいのだッ!」
ヒヒ様の視線を避け、俺に指を向けてくるアルノ・マーレ大司教。
見た目は英国紳士って感じなのに、頭ザビエルなイケメンが怒り爆発で俺を責めてくるとか、どんな悪夢だよ。
「……」
無言で悩んでいる俺に向かって、頭ザビエルが怒り任せに怒鳴ってくる。
「なによりも、私やヒヒ大司教殿の前でヘルムを被ったままとは、失礼にもほどがあるだろう、ハァハァ……少しは、反応しないか!」
俺が微動だにしないせいで、まさかの“頭ザビエル”からのツッコミをもらってしまったが、とりあえずはスルーしておく。
そうして、俺が無反応、つまりはどうしていいか分からないでいると、不意に頭ザビエルが俺の被るヘルムに手を伸ばしてくる。
「いいから、それを外せ! 身分を考えれば、ヒヒ大司教の従者であろうが、私の前でその姿は許されんのだからな!」
一瞬、ヒヒ様に視線を向けると、かなりキツい視線で“ヘルムを取られるな!”と圧力になって訴えてきている。
正直、それなら助けてくれ! って思うが、そんなことを期待しても無意味だろう。
なんせ、ヒヒ様って、かなりギャンブラーな性格で、今も間違いなく顔は困っているように見えるが、楽しんでるのが軽く想像できる。
正体がバレてもバレなくても、上手く物事を操るタイプの人間なんだよなぁ……
そうして、俺と頭ザビエルでヘルムを取る取らないで揉めている最中、乱暴に扉が開かれる。
「誰か! 今は、誰も入ってくるなと……なッ!」と頭ザビエルこと、アルノ大司教が顔を引き攣らせるのと同じタイミングで、ヒヒ様が素早く膝をついて頭を垂れる。
頭を下げられた側は、ゆっくりと歩みを進めるとゆっくり口を開いた。
「邪魔するぞ! 此度の大会について、いくつか教会側に確認したいことがある、いきなりの無礼は許されよ!」
そう、今いるこの場所に入ってきたのは、ルフレ・イルミネイト国王、その人だった。
って、カッコつけてる場合じゃなかったな……なんでまた、こんな時にルフレ殿下が登場するかなぁ……
ルフレ殿下の後ろにはメフィスとまさかのロゼ君の姿があった。
ちなみにメフィスとロゼ君の2人は俺をガン見しているため、多分、正体がバレてると思う。
そうしてる間に慌てて膝をついたアルノ・マーレが下を向いたまま、質問を口にする。
「な、なぜ、ヒヒ・クラーレ大司教の観覧席にわざわざ、殿下が来られているのでしょうか……」
アルノ・マーレの言葉にメフィスが唯ならぬ殺気を向ける。
「……」
「おやおや、我輩は耳が悪くなったのでしょうか? 発言の許可も待たずに何やら、雑音が聞こえた気がしますなぁ……ヒヒ様ならば分かりますが……その他の大司教程度の存在がまさか……聞き間違いですかなぁ?」
再度の沈黙、そうしなければいらないと直感が働くほどの威圧感にアルノ・マーレはさらに頭を低くする。
ただ、俺は忘れていた。俺自身が膝をついていないことにハッとして、慌てて膝をつこうとすると、ロゼが首を左右に振る。
俺はヒヒ様やアルノ・マーレ大司教が膝をつき、頭を垂れる最中に仁王立ちという、他人が見たら意味が分からない状況になってしまっていた。
「メフィスよ、あまりやりやぎるでないぞ? すまぬな、アルノ大司教。発言してよいぞ。むしろ、この場は謁見の間ではないからのぉ、頭も上げて構わぬ」
「はい、ありがとうございます……殿下」
アルノ・マーレが頭を上げるとメフィスに恨みがましい視線を軽く向けるが、メフィスは気にしていない素振りでルフレ殿下の後ろに立っている。
そんなやり取りを見て必死に笑いを堪える2人、もちろんその2人とは、ヒヒ様とロゼ君だ。
「殿下、なぜこちらに? お呼びいただければ、我々から早急に向かいましたものを」
「よいのじゃ、単なる気まぐれにも似た類の訪問じゃからな、むしろ、驚かせてすまぬのぉ、して、キン……黒騎士よ。其方も大会に参加する選手で間違いないか?」
突然、俺に視線を向けるルフレ殿下に俺はボイスチェンジャーを使ったままの声で返事をする。
「はい、そうなりますね。実際はあまり乗り気ではありませんが」
声が違うことにメフィスやロゼ君まで驚いていたが、ルフレ殿下は微かに笑ったように見えた。
「うむ。そうか、色々とあるであろうが、余の部下も参加しておるのでな、手加減はできぬだろうが、よい試合を期待しておるぞ! して、ヒヒ・クラーレ大司教、よいか?」
「はい、なんでしょうか?」
「どういった経緯かは問わね。ただ、少しズルいのぉ、余も狙っておったというに、本当にヒヒ・クラーレ大司教には叶わぬな」
「お褒めの言葉として、いただいておきますよ。殿下」
「それで構わぬ。邪魔したのぉ、余の知りたかったことは済んだので失礼する」
ルフレ殿下が立ち去ろうと扉の前まで移動して、一旦止まると、独り言を呟くように口を開く。
「そうじゃ、余はやはり、プリンアリャモードを食したいと思う。大会後に食べられたら嬉しく思うぞ」
俺への言葉に小さく頭を下げる。鎧が微かに動く音を聞いて、笑ったような背中を見送り、その場からルフレ殿下は退室した。
ヒヒ様が軽く息を吐くと同時に、アルノ・マーレが俺を睨みつける。
「貴様は殿下と知り合いなのか! なぜ、貴様は頭を下げぬことを許された!」
捲し立てる姿を見たヒヒ様が初めて待ったをかけた。
「そこまでにしな、アルノ・マーレ大司教。殿下が来られた事実を考えてから発言しなさい。殿下を疑う発言と取られれば、大陸全土でアンタは手配首になるかもしれないよ!」
「くっ、えぇい、話は終わりだ! ウィル・アクシオンがやられたとて、私の派閥からは多くの実力ある騎士達が参戦している! 黒騎士、貴様は絶対に我が陣営でつぶしてやるからな!」
怒りを顕わに退室したアルノ・マーレ。
ヒヒ様は呆れたようにその背中を見送っていた。
「困った奴じゃなぁ、ガキの頃は可愛げもあったんだがねぇ、捻くれると色々と薄くなるもんかねぇ?」
「ヒヒ様、そういう煽りが、ストレスになって、薄くさせているんじゃないですか?」
そんな会話が終わるとすぐに次の第五試合が開始される。
大会初日に行われる試合の折り返し地点となる一戦に、観覧席からも期待が集まっていく。
そんな中、選手達がリングへと上がっていくのだった。
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