217話、教会最強戦力?波乱の第四試合
試合で叫んだ後、ドーナはスッキリ笑顔でリングを後にする。
まさかの行動に会場からは同様の声がチラホラと聞こえたが、そんな動揺を吹き飛ばすようにミクロ・フォーノが次の選手達をリングへと入場させる。
ヒヒ様も悪い笑みを浮かべながら、ドーナの勝利を喜んでいる。本当にこの武闘大会は闇が深いと再確認する形になった。
「さて、次は聖騎士側、つまりは“アルノ・マーレ”の陣営で最強って呼ばれてる聖騎士の出番だねぇ、まぁ、今回の第四試合は、ヤツで決まりだろうね」
「そんなに強いんですか?」
「仮にも、聖騎士最強を語ってんだよ。負けるわけにはいかないさ、それに他の選手を見てみな、アンタの関係者も王国騎士側からの選手もいないようだ。勝ちに決まってるだろうさ」
つまらなそうにそう語るヒヒ様。ただ、俺からしたら、嫁ちゃん達と戦うかもしれない相手のため、しっかりとその実力を見ておきたい。
アルノ・マーレ派の代表筆頭であろう聖騎士がリングに上がるとすぐに歓声が湧き上がる。
「見ろ! ウィル・アクシオン聖騎士団長だ!」
「ウィール!」「ウィールッ!」「ウィィィィルゥゥゥゥッ!」
会場が一気にウィル・アクシオンへのコールで湧き上がり、ミクロ・フォーノもそれに追従する。
「会場の皆様もご承知の通りッ! 国を護る王国騎士団と並び、王都の守護を任されし、鉄壁なる盾にして、剣を構えたならば、すべてを斬り伏せる美しき剣ッ! 教会が誇る最強戦力にして──
最終兵器ッ! ウィル・アクシオン聖騎士団長だァァァァァッ!」
「「オオォォォォォッ!」」
再度、一気に盛り上がりを見せる会場、他の選手の説明をしようとするミクロ・フォーノに早く試合をしろと観客席側から声が次第に高まる。
ウィル・アクシオン聖騎士団長の紹介のあと、2人ほどの紹介が終わった時点で、会場が試合開始を望む声で溢れ出し、その光景に選手側も仕方ないといったような表情になっている。
「おかしいねぇ……」と、ヒヒ様が眉間にシワを寄せる。
俺は何がおかしいのか分からず、ヒヒ様の独り言に近い発言に耳を傾ける。
「なんで、運営側は止めないのかねぇ……本来なら、権利に関係なく実力者を、って話なんだがねぇ……」
どうやら、今、会場で巻き起こっている“試合開始しろコール”に対しての意見らしい。
確かに、選手紹介などは長くなるが、それでも最初の1人を紹介してしまったなら、全員の軽い紹介をするのが筋ってもんで、だから本来なら運営側から、注意が入るのが道理なんだろうが……
運営側には、観客を止める気はないらしい。
むしろ、ヒヒ様と俺がいる観覧席から二つほど離れたスペースで観覧していた“アルノ・マーレ”とさらに奥で観戦していた“ミトロ・ジーア”の両陣営から試合開始を指示したようにすら見える。
「本当に何を考えてるんだか……ミトロ大司教側も、そのまま戦わせるって、考えみたいだね?」
こうして、異常な状態での第四試合が開始される。
当然ながら、最初にウィル・アクシオンが全員の的となり、8人の参加選手が一斉に飛び掛かっていく。
そんな複数人からの斬撃と攻撃魔法を容易く回避するウィル・アクシオン、剣をぶつけ合い、一瞬の隙をついてのカウンター、鮮やかにして美しい剣術は観客達を白熱させていく。
「これは、一方的な試合展開だァァァァァ! 誰がこれ程までの一方的な試合を予想しただろうか! 複数の攻撃を掻い潜り、フルカウンターを食らわせていくッ!」
1人舞台になり始めたそんな矢先だった。
戦闘に参加していなかった1人、つまりは十番目の選手が8人が倒れると同時に動き出していく。
ゆっくりとした足取りは単なる散歩をしているようにも観客席から確認できるため、観客からは諦めの声や否定的な意見、つまりは罵倒が聞こえてくる。
「ふざけんなよ! 勝てなくてもちゃんと戦えよ!」
「ありゃダメだ、降参して終わりだな……」
「誰だよ、あんな奴を参加させたの?」
そんな言葉にも動じないようすの参加選手は、フードを深く被り、表情を隠しているため、顔は分からない。
体格からして女性だろうか、または細身で身長の低い男性かの判断ができない。
本来なら、ミクロ・フォーノが選手についてある程度、情報を語るはずがそんな様子は一切ない。
むしろ、ミクロ・フォーノも状況が分からずに困惑しているようにすら見える。
しかし、そんな謎の選手に対しても、ウィル・アクシオンは冷静に距離を保つようにして身構える。
互いの視線が重なり、一直線になった瞬間、ウィル・アクシオンが剣の切っ先を相手に向けて、姿勢を低くする。
突きが放てる体勢のまま、鋭い眼光を向け、剣の間合いに入った瞬間、一瞬の踏み込みが風を切り裂くようにして放たれた。
その一撃がフード姿の選手に命中したように思った瞬間、逆にウィル・アクシオンの巨体が宙を舞い、リングに落下する。
“ズガンッ!”と鉄骨が落下したんじゃないかと思うような凄まじい音が会場に響き渡り、土煙が舞い上がる。
本来ありえない土煙にヒヒ様が慌てて立ち上がると“アルノ・マーレ”に向けて声を上げる。
「マーレ大司教! 今すぐに試合を止めな!」
その言葉に眉間にシワを寄せた表情の男、アルノ・マーレ大司教から、怒号のような言葉がリングに向けられる。
「何をしておるかッ! ウィル・アクシオン聖騎士団長! 王都を護るべき存在が背中を地につけることなど、許されぬぞ!」
ウィル・アクシオンはその言葉を聞いてすぐに立ち上がる。
純白の鎧は酷く歪み、頭部の十字架を思わせるヘルムの飾りは片方が折れ曲がり、無惨な状態になっている。
なによりも、立ち上がったはいいが、足は衝撃で震え、片手は肩が脱臼しているのだろうか、力なく垂れ下がっている。
そして、一番の問題は、口元からは真っ赤な血が流れており、内部、つまりは臓器に深刻なダメージを負っていることは誰の目にも明らかだった。
そんな、ウィル・アクシオンに向けてフード姿の選手は再度ゆっくりとした足取りで近づいていく。
武器を持たず、ただ、立つことしかできないウィル・アクシオンは既に意識すらあるか分からない状態だった。
俺は一瞬悩んでいたが、悩むことをやめる。懲りない馬鹿な男だと言われるだろうし、なんなら、嫁ちゃん達から総出で説教になるだろう。
「ヒヒ様、すみません。いきます!」
俺はそう告げると、即座に観覧席から走り出して、リングへと飛び降りる。
【身体強化】に【リミットカット】、【自己再生】【調理器具マスター】を使い、凄まじいスピードで飛び出した先にはフード姿の選手と微動だにしないウィル・アクシオンがいる。
無言のままに2人の間に飛び出すと、俺は魔物包丁をフード姿の選手に向ける。
試合の際に声がバレないように仕込んでいた“ボイスチェンジャーの玩具”の性能を信じて声を出す。
ロボットボイスのような声が俺のヘルムから放たれる。
「試合は終わりだ。勝負はついただろう……ウィル・アクシオンは既に戦えない」
なるべく単調でストレートな言葉でそう告げるとフード姿の選手は足を止める。
「なら、勝ちだからいいですよ」と予想してなかった女性の声で返される。
俺とウィル・アクシオンが残ったリングで、ミクロ・フォーノがウィル・アクシオンの敗北を宣言した。
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