216話、強かなるベリーとドーナの叫び
第三試合に入る前に大会本部側から、ベリーからの忠告についての対策として防御魔導具の追加設置が行われることになった。
既に第二試合まで終わってしまっていたが、本来は武闘大会という名目の大会のため、仕方ないと言えば仕方ないのだろう。
ただ、武器スキルなどのことを考えるとさすがに準備不足というほかないように感じる。
逆に言えば、今の王都にそれほどの実力者がいないのか、本気を出すほどの対戦者同士がぶつかることがなかったのかは分からないが、今回の出来事で次からの大会では、前準備も変わるだろうと思う。
そうして、開始される第三試合に観客側から期待の視線がリングに向けられる。
第三試合のリングに選手が10名並び、選手達が互いを牽制する中、1人マイペースに会場を右に左にと見回しているのは、ドーナだった。
周囲の視線から頭一つ、相手によっては頭二つ視線が低いのが遠目からでも分かる。
そんなドーナだったが、俺の姿が見つからないことにため息を吐くような動作をして、明らかにテンションが下がったのが見て取れた。
会場のリングに視線を向ける俺に席に座り試合観戦をしていたヒヒ様が声をかけてくる。
「正体を隠させてるから、簡単には見つからないだろうさ、それよりも、アンタの嫁から予想外の交渉が届いたよ」
いきなり始まった会話に俺は耳を傾けた。“交渉”と口にされたことが気になり、そのまま話を聞いていく。
「ベリーって、あの第一試合の嬢ちゃんから、会場での食品販売の許可をもらいたいって話があってね、ルフレ殿下には、許可してもらってるから、問題はないが……」
「はあ、なんか、いきなりですみません。ヒヒ様」
「いや、今回は強引に連れてくることになってんだ。アタシ側にも責任があるさ、ただ、いきなり販売許可を寄越せってのがね──アンタはもう少し嫁を教育するべきだと言いたくはないが、素直に思っちまうねぇ」
「何度も、すみません。ただそうなると、正体を隠すのも難しいかと思うんですが?」
「なに、アタシが一回、この場を離れたら問題ないだろう。アンタは後ろを着いてきな、試合開始まで、新しい防御魔導具の説明が入るから、その間に行くよ」
ヒヒ様と最初に通ってきた通路へと向かい、いくつか存在する扉の一つへと案内される。
「この場所を使いな」と通された扉の先には、広く殺風景な部屋になっていた。
バカでかい机が中央に置かれ、他に椅子や家具といったものは一切確認できなかった。
俺が首を傾げると、ヒヒ様は両手を前に組み、鋭い眼光をこちらに向けてくる。
「ベリーって嬢ちゃんから、アンタが“特大サイズの収納袋”を持ってるってのは聞いてるんだ。アタシ以外に誰もいないんだから、気にするこたぁないよ」
ベリーなりに誤魔化してくれたみたいだが、さすがにヒヒ様に嘘の情報ばかり教えているため、罪悪感がやばいなぁ……機会があれば謝りたいよなぁ。
そんな俺の考えなどどこ吹く風か、ヒヒ様からすれば、俺がどれ程の量のものを出すのかが気になるらしい。
とりあえず、ヒヒ様が俺に背を向けた瞬間に【ストレージ】を開いて清潔な布をテーブルクロス代わりに取り出していく。ヒヒ様の視線をわずかに塞ぐようにして、大きな動作でテーブルへと広げ、ヒヒ様は一瞬だが、俺の姿を見失う。
そんな一連の流れの中で“買い物袋”を片手に握り、ヒヒ様側から見えなくさせる。
マジックでも披露するように、自然と布の端からテーブルに調理済みの食材を取り出す。
一瞬でテーブルに並んだのは、揚げたてのラビカラ、オークコロッケ(オーコロ)、オーク肉のフランクフルトの三種類で、オーク肉のフランクフルトは形的に嫁からブーイングをもらった品だが、味は素晴らしく美味いので、今回は取り出すことにした。
同時につけダレ、つまりはケチャップなどと小分け用の紙コップなども取り出してある。
ベリーなら、すぐに理解してくれるだろう……
俺の足がこうなる前段階で、『調理師ギルド』に店を任せる話があった際にすぐに商品補充が出来るようにとベリーの指示で“買い物袋”から取り出せるようにしておいた品だ。
料理人としては、邪道なんだが、ベリーはどちらかと言えば考え方が商売人なため、俺も許可せざるを得なかった。
「ヒヒ様、すみませんがこの品を販売するにはベリーの力が必要です。呼んでいただいてもいいですか?」
「まあ、しゃあないねぇ。しかし、本当に驚いたねぇ、こんな魔法みたいに複数を取り出せる収納袋が存在するなんてね」
ヒヒ様から質問責めになるんじゃないかとヒヤヒヤしたが、そこは敢えてスルーしてくれたようで、俺は室内の奥にある扉に入るように言われて指示に従う。
それから程なくして、ベリーが数名の騎士と共に室内にやってくる。
そこから、ベリーは俺の考えを理解して、商品を小分けにしてから、しっかりと封をすると、テーブルに敷いた布をそのまま持ち運ぶために縛り、部屋を後にした。
話をしていたようだが、俺の入れられた場所までは声は届かなかったため、何を話したかは分からない。
ただ、ベリーが去った後のヒヒ様が浮かべた表情から、あまりいい話はしてなかったようだ。
「アンタの嫁は本当に恐ろしいねぇ……まったく」
「ベリーがなんかしましたか?」
「単純に、アンタを大会後に返さなかったら、王都を火の海にしても取り戻すって、宣戦布告されただけさ、ただ、あの嬢ちゃん……本気の面構えしてるもんだから、笑えないねぇ……ったく」
ヒヒ様がベリーの愚痴を軽く呟く、しかし、次の瞬間──
「あんだけ愛されるってのも、若さかねぇ、女はあれくらいじゃないと、男に首輪を付けられないだろうがね、アハハ」
大きく笑うヒヒ様の楽しげな表情に俺もクスッと笑ってしまった。
不思議な状況だが、これはこれで、悪くない雰囲気だと思えるんだから、なんとも言えないもんだな。
「さて、そろそろ戻るとしようかね……アンタの嫁の一人が戦うみたいだしねぇ、しっかり見てやりな」
そうして、俺は試合の観戦席へと戻ることになる。
試合開始寸前のマイクパフォーマンスをするミクロ・フォーノの姿があり、さらに観客席側のスペースでは、ベリーが屋台でラビカラなどの販売を開始したのが、人だかりからもすぐに理解できた。
「俺の嫁は逞しいなぁ……しっかりと『フライデー』の看板まで書いてるし……ありゃ、勝っても負けてもやる気だったな」
「アンタの嫁は本当にたくましいねぇ、さて、試合が始まるよ。アンタの嫁に賭けさせてもらったからね、第一試合と第二試合は賭けるのをやめたからねぇ、稼がせてもらいたいもんだよ」
「ヒヒ様、立場的に賭けとかいいんですか……」
渋い顔でそう質問をすると悪い表情が返される。
「教会も王国側も冒険者協会も、自分が信じた人材を送り込んで来てるんだ。賭けるのが信頼の証になるし、自陣の関係者って暗黙のルールなのさ」
「そうなんですか?」
「あぁ、だから、第一試合で部下達に賭けた“アルノ・マーレ”の奴は、さぞ、悔しかったことだろうさ、まぁ、宰相殿の騎士団員も同様だろうし、笑いを堪えるのが大変だったねぇ」
そういい笑い出すヒヒ様、そうしてる間に、ミクロ・フォーノのマイクパフォーマンスが終わり、試合開始の合図が鳴り響く。
それと同時に我慢の限界だったのか、ドーナが自身の影を会場すべてに引き伸ばすと、選手達を影に吸い込み出す。
慌てる冒険者達が腕を伸ばしながら、影に吸い込まれると、ドーナが手を外側に向けて振り払うように動かしていく。
会場に広がった影が波打つように動き出すと、場外に向かって参加選手達が勢いよく壁に叩きつけられる。
さすがのミクロ・フォーノもマイクパフォーマンスを忘れて黙ってしまう程の光景で、観客席からも歓声どころか、沈黙だけが流れていく。
「はぁ──ドーナが勝ったのォォォォォォォッ! マスターァァァァァッ! 見てるのォォォォッ!」
全力で叫ばれると、ミクロ・フォーノが慌てて勝利宣言をしたのだった。
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