214話、教会の内側?キンザンのため息と笑うヒヒ様
王宮に着くとヒヒ様から「アンタらは馬車で待機だ。すぐに戻る」と言われてしまう。
ナギは後ろ側の馬車、俺は前方の馬車で待機することになり、しばらくの間、ヒヒ様が戻るのを待つことになった。
気づけば、完全に太陽が顔を出し、薄暗さが残る早朝の空は眩い光が彩りを見せていた。
そうして僅かながらの時の流れを感じていると、馬車の扉が開き、ヒヒ様が戻ってきた。
「またせたね。さぁ、アタシらも会場に向かうとしようか」
馬車が動き出し、王都中央にあるコロシアムまで向かっていく。
こんな形で王都を馬車で移動するなんて考えもしなかったため、なんとも言えない気持ちだ。
後ろの馬車にいるナギが少し気になるが、今は馬車から降りて確認できないため、申し訳ないな。
馬車から見えたコロシアムには、参加選手達の列が確認できた。
嫁ちゃん達の姿は見つからなかったため、既に受付を済ませているのだろう。
俺達を乗せた馬車はそのまま、コロシアムの裏側に移動してから巨大な裏口の門を潜り抜けて中へと通される。
コロシアムの中へと入るとすぐに馬車が教会側の関係者により誘導されていき、人気の少ない一区画へと入ると停車する。
馬車を隠すように左右には壁が存在し、正面には通路という作りになっている。軽く壁を確認するが、長い壁には他の通路などは確認できない。
「驚いたかい? コロシアムには無数のこうした通例が作られていてね、教会側や王族側と決まった出入口が存在するのさ」
「それって、やっぱり?」
ヒヒ様の言葉に頭によぎる疑問を確かめるように口を開く。
「そうさ、誰もが暗殺なんかを恐れて、自分の身内だけが通れる道を用意することになったって話だね……」
聞けば聞くほど、王都の治安が不安になるような話だったが日本でも似たような内容は幾つかあるし、結局は、危険を避けるならば他人を避けるしかないという事なんだろう。
俺は平静を装い、軽く頷くとヒヒ様の後ろを歩いて進んでいく。
ナギもずっと窮屈な馬車から解放されたせいか大きく伸びをすると嬉しそうに俺のすぐ後ろを着いてきている。
そうして、道なりに通路を進む俺達、そんな時、通路の途中で足を止めたヒヒ様が壁を確かめるように手を当てる。
当然ながら、映画などのシーンを思い出した俺は不謹慎ながらに心のワクワクが止まらなかった。
からくり扉だろうか、いや、こちらの世界からしたら、からくりというより、マジックドアみたいな呼び方が正しいのかもしれないな。
「さぁ、中に入りな、その通路は回るようにしてまた馬車を繋いだ通路に戻るようになってるからね。着いてこないと最初からやり直しになっちまうよ?」
ヒヒ様の言葉に慌てて、通路に開いた新たな道に向けて進んでいく。
こんな仕組みも当たり前に存在するコロシアムに最初のワクワクよりも、得体のしれない何かを感じてしまった。
とにかく、はぐれたら終わりなのだと、改めて心に刻み、言われるまま、ついて行った先に光が見え始めると俺達は広い空間に辿り着く。
「さぁ、この部屋でアンタらの装備を整えるよ! しっかり選びな、ただし、顔を晒すんじゃないよ! 良くも悪くもアンタらの顔は売れてるからねぇ」
室内には、大小様々な武器や鎧といった装備品が所狭しと並んでおり、ヒヒ様は顔を隠すためのヘルムからフード付きマントまでを指差して選ぶように指示をしてきた。
ナギの装備品もしっかりと用意されており、ナギはすぐに全身鎧を身につけて、姿を確認しては俺に似合うかの確認をしている。
普段が装備品なしの状態のため、全身鎧に、フルフェイスの角付き兜を被ったナギの迫力は相当のものだった。
俺が最初に行ったのは、まずは着替えだ。コック服を全身に着なければ、全身鎧なんて、俺に扱えるはずがないからだ。
そうして、服を着替えてから次に選んだのは真っ黒な鎧だった。
理由としては、一番しっくりした着心地だったことと指の関節部分が一番スムーズに動いたからだ。
さらに盾として、“買い物袋”から“巨大中華鍋”を取り出して、チーズワイヤーカッターを紐替わりにしっかりと腕部分に固定していく。
こうすることで巨大中華鍋が円盤型シールドになり、調理用のチーズワイヤーカッターもこの場合は絶対に外れない紐として作用する。
武器に関しては、同様にチーズワイヤーカッターをサブ武器として使い、メイン武器はこちらの世界で大型の魔物を切る際に使う巨大な魔物包丁を使わせてもらうことにした。
この魔物包丁がこの場に用意されているかと言えば、その調理器具としては、高すぎる殺傷性にあるからだろう。
刃渡りは、1メートルにもなり、持ち手も合わせれば150センチにはなる。
つまり、子供1人分の長さがある大型武器と言っても過言ではないからだ。そして魔物を裁くための道具であり、その切れ味は並の武器に引けを取らない。
難点を挙げるとすれば、2メートル近い大男が使うとしても簡単には扱えないことと振り下ろした後に隙ができることだろう、実用的ではないことは否めないな。
ただ、そんな問題点は俺のスキル【調理器具マスター】の前では問題ない。
最初、ヒヒ様が呆れて見ていたがすぐに表情が驚きに変わるくらいにはインパクトのある行動だったようだ。
こうして、俺は全身鎧に、腕には盾にしか見えない巨大中華鍋シールド、サブ武器にはチーズワイヤーカッター、メイン武器に巨大魔物包丁という、化け物装備をした“ヒヒ・クラーレ派”の選手として、本戦へと出場することになった。
ちなみに、王国側からは宰相派としてあの“ダープルロンド騎士団”の団長であるダミオ騎士団長が、王国側、ルフレ殿下側からは魔導師として、メフィスも参加するらしい。
俺はそんな大会に教会側の代表選手の1人として参加するんだが、既に胃がキリキリしている。
俺の他にも『アルノ・マーレ派』と『ミトロ・ジーア派』の二つからも何人かの選手が参加するようだ。
ヒヒ様が俺だけを自身の派閥選手としたのは、身内にも正体を隠したかった事実と、同時に参加枠を各派閥が一つまでなら、自由にできるというルールがあったからに他ならない。
本来は王国の各派閥の力を見せつけるための大会であり、そこら辺が一般枠との違いだとヒヒ様は口にした。
今の俺は普段と違い、かなり大柄な戦士にでも見えるのか、ヒヒ様の後ろを歩いているだけで視線を嫌でも集めてしまっている。
そして、何より途中からナギが押している車椅子だ。
車椅子には俺の等身大の人形に細身の鎧を着せた姿で乗せられており、ヒヒ様はこの人形を俺として連れ回して、俺本人が鎧を身につけて観戦している風に装いたいらしい。
つまり、ナギに鎧を纏わせたのも、この雰囲気作りのためだったようだ。
そんな俺はヒヒ様の後ろを歩いて通路奥にあるゲートを抜ける。
既にナーガ族の兵士が隊列を組んでいる状況で出迎えられるとすぐに複数の視線が向けられた。
明らかな嫌悪の視線、その先にいたのは、白い聖職者風の男とその背後に立ち並ぶ白鎧の騎士達だった。
大会というには殺気に近いものを感じるし、本当に王都の正式な大会なのかって、確認したくなるよ、ったく……
これじゃ、通路の暗殺を用心してって話も頷けるな、ヒヒ様には感謝してるが、正直、今すぐに帰りたい気分だよ。
「凄い歓迎だね。あれが強硬派の“アルノ・マーレ”と聖騎士団の連中さ、教会が悪徳ギルドもびっくりな力を持つと本当にろくなことにならないねぇ」
そんなヒヒ様の言葉に内心、ため息を吐きながら、俺は歩を進めて行く。
本当に争いは御免蒙りたいが、今回は無理そうだな……
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