212話、思いと想い、ヒヒ様の提案
馬車からこちらに歩み寄り、謝罪したヒヒ様と会話をしていく。
普段の話しやすい雰囲気はなく、重苦しい表情に俺にもわずかながらに緊張が走る。
「今回の襲撃には、少なからず……いや、確実に教会側の関係者がいることが明らかになってね。そんな事実が明らかになった矢先に昨夜の事件を聞いてねぇ、アンタには話すべきだと思ってねぇ」
俺達は全員がそれぞれに違う表情を浮かべていた。
俺やベリー、ポワゾン、フライちゃんといった面々は理解に困りながらも冷静に話を判断しようとしていたが、逆の態度を示す嫁ちゃん達も存在している。
ミア、ニア、ドーナ、ナギの四人であり、ヒヒ様と従者相手に本気の威嚇と殺気すら放っている。
そして、興味なさそうにしているのは、ミトであり、どうするべきか分からずに全員の表情を確認するペコとグーの2人がいた。
ただ、殺気までは行き過ぎだと感じたため、声を掛けようとした時、今まで興味をなさそうにしていたミトが俺の行動を予想したのか、止めに入る。
「やめろよな? お前のためにミア達は怒ってんだからさ、何より、今止められたら、アイツらの怒りってヤツが無価値になっちまう気がするからよ」
本来なら、止めるべきタイミングなのにも関わらず、俺にはそれができなかった。
ミトの言い分は分かるが、それでも止めるべきだと理解はしている、そうできないほどに、ミトの言葉が俺の中に刺さったからだ。
そんな僅かな間の会話を見つめるヒヒ様にフライちゃんが声を掛ける。
「色々と聞きたいことはありますが、今は時間も惜しくあります。なので手短にお願いできると助かるのですが?」
「そうさね、確かにこんな早い時間だってのに、一方的に来てしまったからねぇ。なら手短に話させてもらうよ」
これが話の内容を軽くまとめたものになる。
ここから、ヒヒ様による“教会の内部事情”が語られる。
1.教会には三つの派閥が存在する。
・アルノ・マーレ派:教会第一主義を掲げる強硬派。
・ヒヒ・クラーレ派:教会の回復師ギルドと王族との共存を重視する平和派(ヒヒ様が代表)。
・ミトロ・ジーア派:女神そのものを崇拝する原理主義派。
この三派が、互いに信仰と権利を主張しつつ、“ひとつの教会”という組織を構成している。
思想は違えど、女神への信仰心だけは共通しているのだということらしい。
・2.『教会』には大司教がおり、ヒヒ様や他二つの派閥の代表である『アルノ・マーレ』『ミトロ・ジーア』も大司教の立場にある。
・3.教会の代表者である『教皇』の存在、名を捨て、教皇となった存在が教会のすべての決定権を有しており、ヒヒ様も例外なく教皇の命令には絶対服従の立場にあり従わなければならない。
そこまでが最初に語られたヒヒ様からの教会内部の情報だ。
教会という場所は多くの人間が知っているし、冒険者なら転送陣を使う場合、絶対に利用するし、信仰心がある者も必ず訪れる。
さらに言うならば、赤子が生まれた際にも、教会で祝福を受けてから民間ギルドに向かうのが一般的な流れになっている。
そのため、街や都市に生きる者ならば、大なり小なり、教会という組織に関わることになるのだ。
教会についての説明を聞かされた俺は初めて聞いた情報のため、不思議と頷いていたが、なぜか嫁ちゃん達も軽く驚いたような雰囲気で話を聞いていた。
「なんで、みんなまで驚いてるんだ?」
そんな質問にヒヒ様が答えてくれた。
「当然だねぇ、基本的に教会って組織は内部を語りたがらないからねぇ、中身が見えれば、俗世からの干渉が入る。そうなれば、小さな綻びが生まれていくものだからねぇ」
「つまり、今の話って、あんまり聞いたらよくない内容ってやつなんじゃ……」
「まぁ、普通は教会本部側の人間のみが知る話さ、まぁ、一般的な信徒は教会が一つの組織に見えるようにしてるがねぇ」
マジに怖ぇ話じゃんかよ、どこのカルトだよって話だ。
「逆に、なんでそんな話を俺達に?」
「話したのは単純に今回の件は強硬派の『アルノ・マーレ』が暴走したからだよ。本来は早くに止められただろうが、今も抑えられていない……教会側の完全な落ち度だよ、まったく……」
ヒヒ様は今、教会本部では、新たな“教皇”を選んでいる事実を告げてきた。
この情報もトップシークレットな話なのだろう、ただ、容赦なく俺達に話していくため、聞かなかったという選択すら与えてもらえなかった。
「まぁ、先代の教皇様が、御歳で80歳になられ、めでたく、教皇様の地位から“大教皇”様になられる。これは教会内部でも、異例でね……本来は教皇なんてやってたら、早くに魂の限界がきて、旅立つもんなんだがねぇ……」
今まで教皇という存在は暗殺、寿命、儀式による自身の魂を削り取る行為など、様々な事柄で代替わりがされてきたらしい。
正直、マフィアかよって思ったが、それだけ、教皇という立場は危険なものらしく、ヒヒ様本人はならないために必死に回避していると口にした。
「そして、教会での一番の地位を手に入れるために『アルノ・マーレ』は聖騎士と闇騎士の二つの騎士団を使っているんだよ……本来は教会を守るための力を……何を考えてるんだか、本当に」
ヒヒ様が深々とため息を吐くと次に俺に鋭い視線を向けてきた。
「キンザン、アンタは確か不思議な力で回復薬なんかをまったく同じものを生成できたね? 間違いはないかい?」
いきなり、話が違う方向に切り替わり、俺が動揺するが、否定がないことを確認したヒヒ様が服の袖から小さな小瓶を取り出した。
「こいつが何か分かるかい?」
ヒヒ様の手に握られた小瓶は青く綺麗な液体で、回復ポーションや回復薬といった雰囲気を出してはいるが、更に色濃く神秘的な渦が瓶の中に確認することができた。
「まったく分かりませんが? なんですか、これ……」
「今回の大会の優勝報酬だよ。聞いてるだろう? 『癒しの滴』さ」
「いやいや、なんで優勝賞品をヒヒ様が!」
当然の俺の驚き、嫁ちゃん達もそれは同じであった。
「今、王宮に保管されているのは、外側、つまりは容器みたいなものなのさ、今から教会で管理していたこの『癒しの滴』を届けるのが役目でねぇ……」
ヒヒ様はこの『癒しの滴』について、世界に二つ、存在できないものなのだと語った。
「一年に一度のみ、奇跡の力で生成されるのが、この滴さ、だからこそ古い物から力を失う。使わずにいれば消え去るんだ。だが、もしも、同じものを作れるなら、アンタに使わせてもかわないよ?」
「逆に聞いても?」
「なんだい?」と、不思議そうに首を傾げるヒヒ様。
「仮に作れたとしたら、本当に使っていいんですか? 仮にですが、新しいものが作れて使った場合、消滅する可能性もあるんですよね!」
「そうさねぇ……だから、アンタらには、是が非でも優勝してもらいたいのさ、優勝しちまえば、偽物だろうが、なんだろうが、こちらとしては構わないからねぇ」
少し疲れたような言葉に俺は逆に危機感を感じてしまった。
「優勝ですか?」
「勿論さ、こちらからしたら大博打だからねぇ。さぁ、どうするかね? アンタらが決めることさ、話がなしなら、すぐに王宮に向かうだけだからねぇ」
そんなヒヒ様から試されるような言葉に俺はさすがに決められずにいるとずっと無言で聞いていた嫁ちゃん達がそっと背中に互いの手を重ねるようにして優しく押してくれた。
「オッサン、優勝ならボク達がするからさ、今は悩まずに使う方向で考えようよ?」
「そうだぜ。ウチらが大切な旦那様のために優勝してやるからよ。悩むなよな?」
ミアとミトの言葉に嫁ちゃん達が笑顔で頷いた。
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