211話、襲撃の黒幕? 朝日の先で
屋敷の襲撃からわずかに時間が経ち、リビングルームに集まり、全員が苛立ちを隠せずにいた。
助けに駆け付けてくれたウルグ率いる狼人族と、ブルーノを隊長とした数名の警備兵団には心から感謝した。
「本当に助かった。皆が来てくれたおかげで、ナギも無事だったんだ。ありがとう」
車椅子に座った状態で頭を下げる俺にブルーノが明るく声を掛けてくる。
「気にすんな、兄弟! 俺は大会中の治安悪化を何とか抑え込むために呼ばれてる内の1人に過ぎないからな」
「それでもだよ。もしかしたら、ナギは危うく命を失ってたかもしれない……他のみんなもだ。俺は何もできなかったんだ……」
一瞬、静まり返るように空気が流れそうになるが、そこでブルーノが俺の肩を豪快に“バシ!”と数回叩かれる。
「皆が生きてるならいいじゃねぇか、兄弟! 誰かを失う未来より、今を生きてる喜びを噛み締めな!」
「そうだな。ありがとうな、ブルーノ」
力なく、口にした言葉にブルーノは間髪入れずにしゃべり出す。
「俺達、警備兵団なんてのは仲間を失うことを覚悟して毎日を必死に生きてんだからよ。だからこそ! 生きてる間は笑って愛した女を大切にしてやれ!」
「ブルーノ、ありがとうな、なんだろ、とにかくありがとう、なんか救われる気分だよ」
「だっははは! それに家庭ってのは、女が強い方が幸せになるってのが、俺の婆さんから教えられた夫婦生活の秘訣らしいからな!」
どこの世界でも、そうなるんだなと、少し感情的になっていた精神がハッキリする。次にウルグ達にも感謝を伝えていく。
「アタイらに礼なんか不要だよ。主殿には、幾度も命を救われ、生きるための道を切り開いてもらってきたんだ。偶然とはいえ、助けられたなら本望だよ」
「ウルグもありがとうな。それより、なんで2人……というか、こんな大人数で行動してたんだ?」
そんな質問に両者が一瞬顔を見合わせた後に俺へと視線を戻す。
「そうだった、聞いてくれよ、主殿! この人間は本当に失礼な奴でな、結果的には助かったけどさ、本来なら、八つ裂きにしてやりたいとすら思ったね!」
「ああ! オマエらが怪しい動きしてるからだろうが、俺達、警備兵団は仕事で仕方なく! 声を掛けたんだろうが!」
「そうかい、そうかい! やるなら徹底的に相手するのが狼人族の流儀だよ!」
互いに睨み合う両者にポワゾンがお茶を出しながら質問をする。
「ご主人様を前に差し出がましいのですが、ウルグ達は何をしていたのですか? 話を聞けば、屋敷に近い場所に集まっていたとか?」
「ポワゾン姐さん、アタイらも最初は姐さん方が泊まってるって話の宿屋に行ったんですがね。既に引き払った後でして、行き先を少し強引に聞きまして、アハハ……」
少し気まずそうにそう語るウルグの表情にポワゾンは“仕方ない人”と言いたそうな表情を向ける。
「まあ、そうして、居場所を聞いて、アタイらは屋敷に向かってたんですがね、そしたら、この人間達が、いきなり、「待て!」って、絡んできたって話なんですよ!」
「違うだろうが! 俺達は宿屋から暴力的な獣人族達に脅されて、大会参加者の居場所を喋ったと通報があったから、お前達から話を聞こうとしたんだろうが!」
2人の言い分を聞いて、本当に襲撃寸前に集まっていた事実を知る。ただ、まだ分からないことがあった。
「ってことはなんだが、なんで窓から入ってきたんだ。騒ぎは正面側だったし、ナギが気づかなかったら、俺も屋敷内に向かう連中には気づかなかったのに」
俺の当然の問いに、ウルグがドンと胸を張る。
「それは、アタイらが夜目が効くのと怪しい連中がすごい勢いで話に聞いた屋敷に向かって移動してるのが見えたからだね。すぐに違和感を感じてさ、慌てて追っかけたら、あの騒ぎさ」
「そうだな、いきなり、走り出したから俺達側も焦ったが、結果だけ見れば、兄弟のピンチを助ける形になってたし、なんなら知り合いだってわかってホッとしたぜ」
そう語る2人の笑顔に再び俺は感謝する。
ブルーノは報告があると、部下達を連れて屋敷を後にすることになり、ウルグ達はそのまま屋敷の見張りとして残ってくれた。
話を聞いていけば、ウルグ達を呼び寄せたのは、ミアだと分かった。
今回の武闘大会での勝率を少しでも上げるため、ウルグ達に参戦の声かけをしに行った事実が初めて告げられる。
それと同時にニアも猫人族から何人かの戦士を大会に参加させた事実と、ナギは参加できないため、アマゾネス族に頼み、大会参加を呼びかけていたようだ。
そして、さらに分かった事実がなんとも言えないものだった。
それはブルーノから別れ際に告げられた言葉だった。
「どうやら、怪我で試合に出れなくなった奴らは、兄弟のために王都に来ていた連中らしい。この情報は非公開だから、俺の独り言としておいてくれ」
少なくとも俺のために参加して本戦に駒を進めた人達が狙われていた事実に胸が痛くなった。
ブルーノが去った後、俺達は交代で見張りをしながら朝を迎える。
「本当に良かったんですか? わたしの結界なら、皆無事に眠れたと思うんですが?」
「フライちゃんありがとう、でも、今回は色々と予想外なことばかりなんだ。いつからか分からないけど、使える手は取っておきたいんだ」
本来なら、ぐっすりと眠りたかっただろうが、いざという時にフライちゃんの結界が使えない事態を避けるため、今回はフライちゃんからの提案は見送らせてもらう形にしたのだ。
そうして、俺達は早朝から移動を開始することに決め、大会本選会場へと向かうことにした。
単純に屋敷にそのままいるのは危険があると分かっていたこと、そして何より、時間に余裕がある間に移動することが一番安全な選択だと感じたからだ。
屋敷を出る前に目的地を確認する。
俺達が今から向かうのは王都の中心に作られた巨大なコロシアムだ。
俺達の居る地区からは少し離れているが、中心地に作られたコロシアムまでは一本道になっている。
複数の大通りが繋がり、最終的にコロシアムに繋がる作りになっているため、危険も少ないだろうと思う。
俺達が移動を開始すると同時に正面から連結式の大型馬車が近づいてくる事に気づく、普通の馬車の二倍の長さはありそうな馬車が二つ連結されている。
複数の馬に引かれた馬車の装飾品からも貴族様が好みそうな派手なものだとすぐに理解できた。
ただ、早朝にも関わらず、この商業地区に似つかわしくない馬車の存在に嫌でも警戒を強めてしまう。
そんな俺達の視線を一気に集めた馬車が距離を置いたまま停車する。
嫌な緊張感が全身に走ると同時に馬車の扉を御者が素早く移動して開いていく。
馬車からゆっくりと降りて来たのは、ヒヒ様だった。
ただ、いつもと違い、厳しい表情を浮かべている。
無言でこちらに向かってくるヒヒ様に俺は違和感を感じながらも出方を見ることにする。
「はぁ、無事みたいだね……報告を聞いて、こちらとしては心臓がつぶれるかと思ったが、よかったよ」
安心したように息を吐いたヒヒ様の表情が和らいだのがわかった。
「ヒヒ様、こちらも警戒して挨拶が遅れてすみませんでした」
互いに軽く挨拶を済ませるとすぐにヒヒ様が再度、厳しい表情で口を開く。
「今回の件についてだが、すまない。すべては教会側の不手際だ。回復師として、そして、教会側の人間として、深く謝罪させておくれ」
予想外の謝罪から始まった会話に驚く俺、しかし、ポワゾンとベリーの2人は厳しい表情を浮かべながらヒヒ様を見つめていた。
謝罪の意味とすべての真相が明らかになるのだが、この時、俺はそれがこの先に、どんな運命を俺達に与えるのか、この時はまだ知らなかったのだった。
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