210話、真夜中の襲撃者
△△△△
各会場でのブロック戦が終わりを迎える。
各エリアでブロック戦に勝利した勝者達が次に集まるのは、予選がすべて終わってから、さらに三日後となる。それまでは選手達は各々の時間を過ごすことになる。
嫁ちゃん達の試合は初日に行われていたため、逆に言えば、一週間近く暇を持てあます結果になっていた。
嫁ちゃん達からしたら、久々の休日といった感じなのだが、他の選手達は少し違っていた。
物騒な話になるが、街中での騒動が活発化しているようにも見えるのだ。
そして、その騒動には必ず選手達が関わっており、本戦当日までに10人近い逮捕者とそれを超える被害者が出てしまっていた。
「なんか物騒だね? 王都の治安、大丈夫なのかよ?」とお菓子を食べながら、ミアが呟く。
「本当にゃ、警備兵団には同情するにゃ、本戦に行く選手なんて、ヤバい奴ばっかりだにゃ〜」
そんな会話をお茶とお菓子を食べながらする二人にベリーが呆れ顔で参加する。
「そのヤバい奴ってのが、私達でしょうが? 緊張感がないわね、まったく」
「ベリーは心配しすぎにゃ〜、ニア達は問題は起こさにゃいし、大人しくしてるにゃ」
「それでも、用心は大切よ?」
そんな会話が繰り広げられる最中、ポワゾンが俺に耳打ちする。
「少し変だと思いませんか?」
そんなポワゾンからの言葉に俺は頷いた。
「だな、なんて言うかなぁ。本戦に出られるのに捕まるような真似をしたりさ、本戦参加者が襲われたり、しかも、この短期間に起こるんだからな」
「はい、間違いなくよくない何かが動いているように感じられます。調べるにしても時間が限られていますので、難しいのもまた事実です」
既に六日が過ぎており、本戦まであと一日と迫っている。
この数日間は、みんなで話し合ってゆっくり過ごすことに決まり、明るい間は王都の街を見て回ったりと最初は問題なかったのだが、日数の半分が過ぎたあたりから、こんな感じに物騒なことになっている。
「明日の会場に入るまでは気が抜けませんね」
そう言いながら、紅茶をカップに注ぐポワゾン。会話の内容が物騒なのに冷静というか、通常運転なんだよな……
紅茶に手を伸ばし、飲もうとした時、不意にポワゾンが窓に視線を向ける。
「ペコ、グー! 招かれざる客のようです!」
その言葉に迷わずに武器を構え、大盾が俺を守るように配置される。
ポワゾンの声が発せられてから、数秒で窓に向けて、火炎魔法が撃ち放たれると、屋敷の防御魔導具が即座に反応してシールドが展開される。
「ご主人様を奥に! ナギ、護衛をお願いします。ペコ、グー、応戦します」
「「はい!」」
「ボク達も行こう!」
「最初からそのつもりだにゃ! ぶっ飛ばしてやるにゃ!」
「はぁ、2人とも怪我しないでね。私も出るけど、フライちゃんはどうする?」
「そうですね。ベリーが出るなら、わたしも出ます。それに売られた喧嘩ですから、種族を根絶やしにするつもりで買うのが礼儀ですからね」
「フライちゃんってば、その考えだと人類と戦争になっちゃうわよ、ふふ」
「あ、確かにそうなりますね! うっかりしてました。どちらにしても降り掛かる羽虫は蹴散らすつもりです」
多少、物騒な内容が話されているが、攻撃されたなら、止める必要ないだろうが……
「みんな、怪我するなよ。あと、役に立てなくてすまない」
俺がそう口にした瞬間、影の中からドーナが頭を出す。
「違うの! マスターは頑張り過ぎなの! 今は任せて、大人しくするの!」
ドーナの言葉に嫁ちゃん達がニッコリと笑う。
「そうだよ。オッサン、今回はボク達に全部任せて、大人しく安静にしてよ」
「そうにゃ、そうにゃ! むしろ怪我人なんだからにゃ〜休むのが仕事だにゃ〜」
「って、ことだから、ウチらは行くぞ! 病人の旦那様に無理させられねぇしな! ミト様に任せてナギにくっついてな!」
「任せて、ナギが守る!」
「ドーナも守りたいけど、今はナギちゃんに任せるの! 早く終わらせてマスターとイチャイチャするの〜!」
照れくさくなりながら、嫁ちゃん達を見送る事になり、少し情けない自分が嫌になる。
「役に立てないってのは、辛いな……」
「マイマスターはいつも、ナギ達を待っててくれるから、頑張る。だから問題ない」
「ありがとうな」
外から激しい戦闘音が鳴り響き、窓が振動する。複数の光が眩く放たれると同時に炸裂したように霧散する。
そうして、戦闘が行われている庭園とは逆方向にナギが鋭い視線を向ける。
「どうしたんだ、ナギ?」
「何人か近づいて来てる。マイマスター、ナギが戦う時のために隠れてて」
ナギにそう言われ、倉庫用の部屋に入れられる。
それからすぐにガラスが割られる音がするとナギが咆哮をあげる。
「お前達は敵! 許さない……」
ナギが扉越しに複数人を相手にしていることが理解できた。
「なんだ、蛇人族だと、全員、外に誘き寄せられなかったのかよ! クソが」
「構わないさ、始末すれば済む話だ! 一斉に掛かれば問題ないだろう」
複数の抜刀する音と同時に金属が擦れるような音が耳に響いてくる。
「いくぞ! 掛かれッ!」
男の声が響いたと同時に一斉に足音が駆け出すのが理解できた。
「負けない! お前たちは許さないッ!」
ナギの声が響いた瞬間、俺の中で絶望の感情が膨れ上がっていく。
過去の俺に向けられた「役立たずが!」「無能」「価値がない奴はいやだねぇ」「遅いんだよノロマ!」「いらないよな、お前?」
一斉に心と脳裏に蘇る絶望に満ちた日々、僅かな希望すら捨てた過去がフラッシュバックしていく。
「や、やめろ……俺から、みんなを奪わないでくれ……」
(ふふ……)と声が脳内に響いた気がした。
だが、それと同時に、「うわぁぁぁ!」「ぐあ」「話がちが──うぁぁ!」男達からの断末魔であろう声が廊下側から叫ばれる。
状況が見えないことによる不安が頂点を迎えた瞬間、男の声が再び、大きく響く。
「アイツの後ろだ! あの扉だ! どけ、化け物が!」
「絶対にどかない!」
ナギの声が痛々しく響き、俺が声を出そうとした瞬間だった。
別方向から再度、ガラスが割れる音が鳴り響き、最初よりも多くの足音が一斉に向かって来ていることに気づかされる。
「なんだ! チッ、引くぞ! やられた連中の“リターンの魔法”を発動させろ! 証拠を残すな、急げ!」
男の声に続くように“ボッ!”という着火音に似た音が数回鳴り、ナギの声が響く。
「待てぇぇぇぇッ!」
「ナギ、大丈夫かい、奴らはアタイらが追うから、人間、早く治療を頼む! フェイ、ファン、行くよ! 野郎共もいいね!」
「「「おおぉぉぉーーッ!」」」
聞きなれた声だった。声の主はウルグ達、狼人族だと理解できた。
なぜ、この場にいたのかは分からなかったが、ナギが助かった事実に安堵した。
「大丈夫か! ひでぇなクソ……早く治療魔法を! 兄弟の嫁を助けられなかったら合わせる顔がないねぇぞ!」
扉越しに聞こえたブルーノの声に俺は慌てて扉を叩いた。
「警備兵団のブルーノなのか! ブルーノ!」
「え、兄弟! 悪りぃ。今は扉を開くより嫁さんの治療をさせてくれ!」
「それでいい、ナギは! ナギは無事か!」
「大丈夫だ、いくつか切り傷はあるが、生きてるし手も尻尾も無事だ!」
扉越しのブルーノからの声に震えながら、俺は泣いていた。
そうしていると慌てた様子の足音が集まり出す。
フライちゃんからの念話で外の襲撃者が逃げた事実と負傷者も同時に消えたと伝えられる。
そうしている間にウルグ達、狼人族も戻ってくる。
俺はブルーノによって倉庫から出された。
どうして、この場にブルーノやウルグ達がいるのかは分からなかったが、俺達は生きているのだと再確認した。
読んでくださり感謝いたします。
☆☆☆☆☆で評価ありがとうございます
下にある[ブックマークに追加]もしてもらえたら、嬉しいです。




