208話、嫁達の不機嫌な朝・おまけ「ルフレの考えと報われない日」
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朝から不機嫌なフライちゃん達──つまりは嫁ちゃん達は“どら焼き”をかじりながら、昨晩のエトランジュの訪問について話し合っていた。
部屋に俺を起こしに来たドーナが『ドラやん』と書かれた文字に不思議な魅力を感じたのか、ベリー達に質問するために持ち出してしまった。
それにより、俺は昨晩の何があったかを聞かれ、素直に話した結果、不機嫌な嫁ちゃん達ができ上がってしまっていた。
「なんで、あの人はいつも、いきなりなんですかね! しかも、わたしに挨拶なしですよ! ありえないです。ベリーもそう思いませんか!」
「まぁ、フライちゃんの言い分は分かるけど、落ち着いたら? 話を聞いてみた感じ、引っ越し祝いを渡しに来ただけみたいだし?」
「いやいや、ベリー、ボクはフライの意見に賛成だよ! オッサンの部屋に最初に忍び込んだのが、嫁のボク達じゃなくて、エトランジュだよ! 大問題だよ!」
ミアがテーブルを“バン!”と叩き、怒りを顕にする。
そんな様子を見ながら、ポワゾンが紅茶を人数分注ぎ、ペコとグーが配っていく。
「にゃにゃ〜? でも、わざわざ、キンザンだけに話に行くあたりがにゃ、裏がない! って、話のはずが裏ばかりに感じるにゃ〜」
「はぁ、落ち着けよ? 結局だけどさ、ウチらの旦那様が手を出してないって言うなら信じるのがウチらの役目だろ? 浮気野郎になってないなら、構わないだろうが?」
「ミトは、あっさりすぎる! ナギは不安なる。マイマスターの部屋に1人は一緒に寝るべきだった」
ミトとナギが互いの言い分でバチバチと火花を散らし出して、最後は仲裁にはいり、朝の慌ただしい空気は一旦、お開きとなった。
昨晩のエトランジュの話じゃないが、やはり、どことなく、雰囲気が変化しているような感覚を肌に感じてしまうのだ。
こればかりは俺の感覚の問題だろうが、気になるとなかなか、考えとは拭えないもので要らぬ心配ばかりしてしまう。
「あ、そういえばさ、オッサン!」とミアが何かを思い出したかのように視線を向ける。
「明日はボク達の二次予選なんだ! 良かったら見にこない? 誰でも自由に入れるみたいだからさ」
「二次予選か、確かに色々と見たい気はするな、俺もそれなら行ってみようかな?」
ミアが嬉しそうに立ち上がって飛び跳ねると声を上げる。
「にゃにゃ! にゃら、ニア達も頑張るのにゃ! 猫人族として、しっかりと暴れるのにゃ、優勝まで突き進むのはにゃぁー!」
「そうだな、ニアなら優勝できるかもな」
その一言がいけなかったらしく、参加する嫁ちゃん達の視線が一気に俺とニアに向けられる。
そうして最初に発言したのはミトだった。
「聞き捨てならねぇな! つまり、ウチら全員を倒して、優勝するってか?」
「にゃ! ニアは強いのにゃあ! 今ならミトにも負けないにゃ〜ん」
話がややこしくなりそうなタイミングで、とりあえず、話を中断させる。
「待て待て、みんなが強いから誰でも優勝する可能性があるって話だから、それに俺は頑張るやつが一番素敵だと思うしな」
「むぅ、オッサンの言い方って、やっぱりズルいよな?」
「ほんとだな、そこには完全同意だ。この天然女たらし野郎が!」
「まぁ、キンザンだからにゃ〜、あれがいつも通りだにゃ」
なぜか、ディストークを食らわされて、気持ち的なダメージをもらったが、とりあえずは冷静になってくれたようにホッとした。
話し合いの結果は本戦まで負けずに決着をつけようという結果に至り、すべてが上手く進んでいた。
△△△おまけ△△△
「キンザン殿に“屋敷を案内せよ”との命令につきまして、ご報告があります」
エオナ中佐は重苦しい感情を必死に隠して平常心を保ちながら、その場に片膝をついて、頭を下げて返答を待っていた。
「ふむ、良い。おもてを上げよ! して、どんな反応であったか、それを余からと伝えた際の驚きを聞かせるのじゃ! ヒヒ婆は、“よく分からない”と、口にしたのでな、早く詳細を聞かせるよ!」
玉座から、座ったままの状態で上半身をエオナ中佐へと向ける人物。バッカス大陸の頂点にして、大陸そのものを一国として、統治するルフレ・イルミネイト国王陛下その人だ。
見た目は幼く、素性を知らなければ中学生か小学生高学年くらいにしか見えない。
誰が見てもお嬢さんか、お嬢ちゃんという見た目だろう。
そんな見た目を裏切る程度には、知力と物理的な強さに優れ、“聖人や賢者”と言って間違いない程度には、人徳と道徳心を持ち合わせた存在である。さらに言えば最強に近い防御スキルを有している神に選ばれし人物である。
「はい、報告いたします。ただ、報告にあたり、ルフレ陛下がご用意した屋敷についてと、屋敷をどうしたかについての報告になりますが、どうされますか?」
「ん? なんじゃ、意味のわからぬ問いじゃのぉ、どちらも同じ話ではないのか?」
「それがですね……なかなかに複雑と言いますか、分かりやすいからこそ、難しい話と言いますか……」
「なんじゃ、エオナにしては、歯切れが悪い言い回しよなぁ? ならば、順に話すのじゃ! まずは余に対する評価をどう口にしていたかを話すのじゃ!」
楽しそうに笑みを浮かべるルフレ・イルミネイトはこの時、予想もしなかっただろう。
彼女ほどの人物が考えたシナリオならば、多少の誤差はあれど、基本的な流れを敷かれたレールの上を進む乗り物のように逸れることや脱線などないという自信すらあったのだろう。
誰もがそうなると疑わないだろう、無理のない範囲で作られたシナリオに自身の所有物を使わせることで、思っていた筋書きに華を添えているだろうと疑うことなどありはしない。
だが上手くいかない未来が存在する場合もあるのだ。
「はい、ルフレ陛下が空き家として、屋敷をヒヒ様に紹介し、その後に奥方様を含め全員が屋敷の内装や設備に感動を露わにしておりました。
勿論ですが厨房内の魔導具にはキンザン殿も大層お喜びの様子でした」
「ふむふむ、予定通りの反応ではないか! ならば余にも感謝をしていたであろう?」
「はい、間違いなく、感謝の言葉を並べておられました」
「むふふ、まぁ、屋敷には、かなり予算を使ってしまったが、今までの礼と余に対する興味に繋がれば、釣りもくるというものじゃ!」
そこまで上機嫌だったルフレにエオナ中佐は、なんとも言いにくそうな視線を向ける。
「ん? どうしたのじゃ、麻痺草でも口にしたような顔になっておるぞ?」
「はい……じつを言えば、今から話す話が言いにくい結果と言いますか……ルフレ陛下の考えたものと違ってくると言いますか……」
「煮え切らんのぉ? 怒らぬからもうせ!」
「はい。陛下より、買いたいと言われた際には最初に無理な金額を提示してから、出せる範囲に予算をつけるようにと言われていたかと存じます」
「うむ。屋敷全体の価値を考えれば、金貨にして4500といった感じか? まさか、とんでもなく安く買い叩かれたのか! まぁ、そうであっても怒らぬぞ? 相手がキンザンなら、余も許そう」
「違うのです……金貨5000枚で、即座に契約が交わされ、その場で支払いが終えられてしまいました……」
その瞬間、ルフレは目が飛び出しそうになる程、驚くと玉座から立ち上がる。
「馬鹿な……金貨5000枚じゃぞ! いくらキンザンでも、その場で払える金額ではなかろう! どこからそんな馬鹿げた金貨が現れるのじゃ!」
「そう言われましても、間違いなく金貨でして、調べましたが偽物は一枚も混じっていないとのことです」
「あり得ぬじゃろう! 礼のつもりが、ふっかけた金額を丸々払わせただけになっては、余が金に汚い輩に見えてしまうではないかぁぁぁぁ!」
そうして、王宮にはルフレの叫びと困り果てたエオナの姿だけが残される。
しかし、今回の金貨5000枚がしっかりと支払われた事実により、ルフレに対する王城内での不信感を感じていた者の一部は、キンザンをルフレのお気に入りとして見る目が変わり、暗殺リストから、消された事実は誰も知らない別の話である。
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