206話、王都で買っちゃいました。
王都に戻ってきたミア達に手を振りながら、嫁ちゃん達と照れくささを感じつつもしっかりと全員にハグをしていく。
「オッサン、外に出て大丈夫なのかよ? てか、その椅子ってなんだよ……変なもんに乗ってるなぁ」
「ミア、ダメにゃ、シーだにゃ! キンザンはいつもヘンテコな物が大好きなんだにゃ」
「あ、そっか……確かにオッサンだもんな」
不思議と2人の会話に他の嫁ちゃん達全員が頷いているのが凄く悲しくなった。これも日常だと思うと、まぁ、いいかと感じてしまうのも不思議だな。
「みんなに話があるんだ。とりあえず、軽く説明したんだが、いいかな?」
そんな発言に嫁ちゃん達が軽く小首を傾げながらも俺へと視線を向ける。
それから嫁ちゃん達と話すため、広場の比較的人の少ないスペースで話をしていくことになる。
「いやいやいや、なんで1号店を『調理師ギルド』に任せる事になるのさ! オッサンが最初に始めた店なのに!」
やはりというか、まぁ、予想はしていたがミアとニア、さらにベリーが反対の意見を口にした。
最初から店の設立まで関わっていたためか、ポワゾンの考えが理解できないと少し喧嘩腰になっているため、さすがに慌ててしまった。
「分からないのですか? 今のご主人様は一号店のために仕込みなどをするのが困難です。無理をさせる選択をすることは理解し難いです」
「いやいや、違うでしょ! それなら治るまで休めばいいじゃないか! なんで店を手放すって話になるのさ!」
互いが譲らないといった具合に睨み合いに入ると、反対派のベリーが話に割って入る。
「待ちなさいよ。ミアもポワゾンも互いの話を聞いてれば、キンザンさんのためにって話なのよね?」
「そうなります」
「そうだよ!」
「なら、一番いい方法があるわよ。話を聞いてくれるかしら?」
ベリーが優しい表情でそう呟くと、いがみ合っていた2人が次第に冷静な表情を取り戻して話を聞いていく。
「なら、基本の人員が集まるまでは『調理師ギルド』から人を借りて、週一回の開店日は私が店長、つまり、責任者って形で店に出るわ。ここまではいいかしら?」
「ボクは構わないよ?」
「ワタシはそれだと、結果的に仕込みをどうするのかが気になります」
「大丈夫よ。仕込みの方はキンザンさんの“買い物袋”を使わせてもらって、過去に仕込んだ食材をそのまま使わせてもらうわ。
揚げるのは私がやれるから、問題ないわよね?」
「分かりました。ご主人様に負担がないなら、ワタシは構いません。ミア様、失礼な発言と態度を取りました。申し訳ありませんでした」
「いや、違うよ、ポワゾンだって、オッサンが大切だから心配して提案したのくらいわかるから、ボクもごめん……」
互いが謝罪してから、俺に視線が一斉に向けられる。
「そういう結果になったみたいだけど? 2人も納得したみたいよ、あとはキンザンさんの答え待ちよ? どうするのかしら?」
少し意地悪く尋ねるベリーは楽しそうに笑っている。
「俺もそれで構わないよ。みんなに迷惑ばかりで悪いが、協力してくれるとありがとうかな」
そうして、店舗をどうするかの話が決まると、次に拠点と屋敷についての話し合いが始まり、屋敷を二号店のメンバーであるダイン達に任せることで問題ないだろうという結論になった。
孤児院として、二号店のメンバーが使っていた宿舎を渡すことにも反対意見はなく、むしろ、フライちゃんとベリーからは少し呆れられてしまった。
「本当に金銭感覚が壊れてるわね。そう思わないフライちゃん?」
「それには同意ですね。まぁ、女神のわたしからすれば、あまり口を話す話ではありませんが、屋敷を簡単にあげてしまう辺りが、きんざんさんらしいですね」
確かにと頷きたくなる会話だったが、忘れてはならないのは、俺が大量の金貨を所持している理由はダイヤモンドがこちらの世界で無価値であるにも関わらず、“リサイクル袋”を使うことで日本での価値での買取が可能だからであり、本来は稼いだ金額じゃないとうう事実だろう。
即ち、誰かのために使わないとバチが当たるって話なんだよな。
だから、今回の屋敷にしても個人的には問題を感じないってのが本音だ。
むしろ、問題はここからだ。すべての話は“空き家”という名の巨大な王都の屋敷を買うか買わないかで、すべて白紙になる話だからな。
「というわけで、屋敷の中を見に行かないか? 色々話してからになったが、屋敷を買わないって話になれば、全部なかった話になるしな」
そうして、俺達は再度“空き家”へと戻ることにした。
空き家の前には門を警備している兵士さん達の姿と、見慣れた女性の姿があった。
「あ、来ましたね。待ってましたよ。いつまでも来ないので、今日は諦めようかと思っていました」
そう語るのは、グリド商会の事件で世話になったエオナ中佐だった。
しっかりとした軍服を着ており、門を守る兵士さん達がかなり緊張した雰囲気で立っているのがわかる。
「あれ、エオナさんでしたよね? どうしたんですか」
「どうしたんですかって、キンザン殿が屋敷に向かうとヒヒ様から、王宮に報告がありまして、ルフレ殿下からメフィス殿へ指示があり、メフィス殿から私が指示を受け、この場にきた感じになります」
ヒヒ様、仕事早いな……それにルフレ殿下とメフィスも早すぎる。
「なんか、すみません」
「いえ、むしろ、ルフレ殿下が公務を放棄して、こちらに向かおうとされなければ、メフィス殿が直接お越しになるはずでしたが、ルフレ殿下の公務のために代わりに来たので、申し訳ありません」
少し頭を悩ませたエオナ中佐に同情しつつ、目的の内見を開始する。
やはりというべきか、外からでもわかっていたが、広い庭に加えて、バルコニーからは庭園が一望できる凄い屋敷だった。
部屋も軽く20部屋はあるだろう、地下には訓練場も作られており、何より広い大浴場が一つと、使用人用に作られた風呂場も完備されていた。
厨房は魔石を嵌め込む式の大型調理魔導具が設置されており、今まで使っていた屋敷の三倍は広い作りになっていた。
「こいつは驚いた……しかも、なんか、新しめな魔導具まであるじゃないか? 本当に空き家なのか」
俺の質問に笑いながらエオナ中佐が返事をする。
「はい、間違いなく。普段は使用していないと聞いております。ただ、こちらの調理器具魔導具は他ならぬキンザン殿の為にルフレ殿下自らの命令で用意させたと伺っております」
「え?」と俺が口を開いたのを確認してから、再度エオナ中佐が口を開く。
「ですので、こちらの屋敷はキンザン殿と奥様方に使用していただくため、既に色々と手を加えた物件となっております。本来なら金貨5000枚を超える価値のある屋敷と聞いておりますが、殿下から無償でも構わないと──」
そこまで話を聞いて、俺はベリーとアイコンタクトを取り合う。
日本人だからこその感覚だろうか? タダより怖いものはなしって言葉を知っているからこそのアイコンタクトだった。
仕方ないから決めなさい! ってベリーからの視線に頷き、俺は話しているエオナ中佐の話を中断させる形で話を開始する。
「分かりました。契約書と売買契約、あとは所有の権利書に土地の権利書なんかもすぐに見せてもらえますか?」
「え?」と逆にエオナ中佐が慌てていたが、再度同じ言葉を告げる。
エオナ中佐は「無償で使えるんですよ!」と声を上げていたが、俺は悩まずに契約書などを確認して、屋敷の代金を【ストレージ】から取り出していく。
テーブルに出すと持ち帰る際にエオナ中佐が大変になるため、庭先に出すことになってしまったが、屋敷にあった台車に金貨の詰まった袋が大量に並べられていく。
そんな光景にエオナ中佐が次第に青ざめていく。
そうして、代金をしっかりと渡すとエオナ中佐からの報告でやってきた大勢の兵士達が屋根付きの馬車に金貨の入った袋を積み直し、エオナ中佐と共に王宮へと向かっていくのを見送った。
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