205話、カフェで少しお手伝い? 流行りの味が難しい……
俺達、ポワゾン、ペコ、グー、ナギ、俺を含めた4人は一旦カフェのテラス側の席に腰掛けて雑談をしつつ、他の嫁ちゃん達が王都に戻る午後までの時間をつぶしていく。
ルフレ殿下から紹介された“空き家”について、嫁ちゃん達と話し合って決断したいと考えた結果、みんなが戻る午後まで待つことにしたのだ。
「朝食前から動いてたから、みんなもお腹空いてるだろ? 好きな物を食べてくれよ」
そんな俺の言葉にナギ達が嬉しそうに目を輝かせると、注文カウンターでメニューを眺めて悩み出す。
日常なら当たり前の光景こそが大切なんだろうなと思う。
嫁ちゃん達が各々注文を決めていき、俺も書かれたメニューからバケットサンドを選んでみることにした。
数種類あるバケットサンドから、“オークハムと野菜のサンド”を選び、飲み物は搾った果実に動物のミルクを合わせたラッシーのようなものを注文することにした。
支払いは、5人分で金貨一枚程度になったが、王都での食事と考えたなら安いという判断になる。
なんせ、あちらの世界なら、都内で軽く入った喫茶店の珈琲が2000円なんてザラなのだ。
つまりは、飲み物と食事がセットで1人あたりの平均が大銀貨一枚 (2000リコ) なら、まぁ悪くないだろう。
そうして、テラス席で食べるバケットサンドはとにかく、パンが硬い! そして、味がしない……いや、味はあるにはある、薄すぎて分からない程度に塩の僅かな風味があるばかりだった。
普通は塩が強めになるはずのハムが、なんでこんなに薄味になるのか逆に興味が湧いてしまったくらいだ。
ただ、今はそれよりも無言で食べることにしよう。うん! それがいい。
俺がそう決断して、他の4人に視線を向けると、明らかに渋い顔をしているのがわかった。
「マイマスター、これ、味がしない……美味しくない」
突然のナギの言葉に俺は表情が固まる。
俺達の発言が聞こえていたのか、いないのか分からないが、キッチンで調理をしていた大柄な男性がプルプルと震え出していくのが俺からはしっかりと見える。
表情は無表情なせいで、怒っているのか、我慢しているのかが分からないが料理人が料理にケチをつけられるのは、いい気分はしないだろう。
正直、気まずい、早くこのカフェから退散しよう、そう思った時だった。店の奥から大柄の男性がこちらに歩いてきた。
「あの!」といきなり声を掛けられた瞬間、“あちゃー”と思ったが意外な言葉が俺に向けて掛けられた。
「料理人のキンザンさんですよね! [バリオン]での料理大会を見ていました!」
今までの無表情はそのままだが、微かに口角が上がり、喜びを顕にしているのが、口からもすぐにわかった。
「あ、はい、ありがとうございます? かな、あはは」
いきなり声をかけられたせいか、戸惑いながらも返事をすると大柄な男性は返事をするように喋り出した。
「いやぁ、本当に本物の優勝者に会えるなんて、嬉しいです! 本来なら、ちゃんとした味の料理を出したかったんですが、残念でなりません」
サラッと味について語る大柄な男性の表情が暗くなり、本当に残念だと言わんばかりに落ち込んでいる。
本来は関わらないのが正解に見える状況だが、料理をする人間が自分の味を作れないと言っていることに違和感を感じ、ついつい、質問をしてしまう。
「それって、どういうことなんですか?」
「あ、失礼しました。いきなり、挨拶もなしに失礼な会話を、私はカイルと言いまして、このカフェ『コッホの癒し』を経営している料理人です」
「丁寧にどうも、それで、カイルさん? さっきの話はどういうことなんですか、改めて教えてもらえると助かるんですが」
「はい、じつは……今、王都では薄味で素朴な料理が流行ってまして、今までウチの店はボリュームとスパイシーな濃い味の料理を出してたんですが、客足が厳しく、味を変えたばかりなんですよ」
何となく、話が見えてきた……自分の味を出せないってのはそういうことか。
「なら、逆に食べたいんで、本来の味で一品、追加を頼めますか? 得意料理で構わないので」
「本当ですか! なら、すぐにご用意させてもらいます!」
カイルさんが素早く、店内に戻ると調理を始めていくのがテラス席からもしっかりと見えた。
スパイスを油で炒めているのだろうか、いい香りが鼻を刺激して、さらに胃袋がそれを求めていくのが俺にもわかる。
「マイマスター、美味しそうな匂いする。ナギも食べたい」
「「私達もよろしいですか?」」
「ああ、みんなで食べることにするから、大丈夫だよ」
そうして、十分ほど待つと、カイルが料理を運んでくる。
オーク肉の薄切りに香味野菜のソースをかけた逸品で匂いはかなり刺激的で、山椒にも似た香りが広がっていく。
「さぁ、食べてください! “オーク肉のスパイシーソース掛け”になります」
自信満々にそう言われたので、フォークで野菜と肉を突き刺して口に運ぶ。
しかし、口に広がったのは痺れるような辛さと、終わらない山椒の強い香りだった。
「ゲホゲホッ」
「え、どうしたんですか!」
俺がムセたことで慌てるカイルに申し訳ないがストレートな意見を口にすることになる。
「悪い、これは大衆受けしないと思う」
“ガーン”と魂が口から出てしまうんじゃないかと思うような表情を浮かべるカイル。
「いや、悪い、なんて言うのかな? 多分、スパイスの量が問題なんだ。可能なら、少し厨房に入らせてもらえないか?」
「え、厨房ですか? 構いませんが」
許可をもらったので、ベリーに車椅子を押してもらい厨房へと向かう。
手頃な高さの台を借りてから、カイルが使ったスパイスを確認する。
そこには、やはり山椒に酷似する粒状の木の実があったので、許可をもらい一粒を割って味を確かめる。
この味見は、山椒同様にアク抜きが必要かどうか、エグ味がどれ程かを確かめるための大切な作業になる。
「やっぱりか、今からアク抜きを教えますね」
俺の言葉にカイルが首を傾げたので、アクについて軽く説明する。
この木の実は山椒モドキと呼ぶことにして、まずは水に15分〜30分程度つけていく。
こうすることで、辛味とエグ味が水に溶け出して、辛さの調節が可能になる。
15分だと僅かに足りない気がしたので、しっかり30分水につけて、アク抜きを済ませたものをカイルと共に味見する。
「おぉー! 辛さがひいてます……」
驚くカイルに次は調理法として山椒モドキを細かく刻み、前に使ったニンニクモドキをすり下ろして、オリーブオイルのような油とあえていき、しっかりと混ざったら、塩と複数のスパイスを少量加えていく。
作り方は簡単だが、それはカイルの店にスパイスや調味料がしっかりと準備されているからこその結果と言えるだろう。
そうして作った山椒モドキのソースを焼いたオーク肉のステーキにつけて味見をしてもらう。
ちなみに肉の調理はカイルに頼んだ。今の俺は立って肉を焼いたりは難しいため、情けないがそれがベストな選択だと思ったからだ。
ニンニクモドキの香りと山椒モドキのスパイシーな香りを纏ったステーキを口に入れた瞬間、俺の口内は旨味と刺激で幸せが溢れ出していた。
様子を見ていたナギがヨダレを垂らしていることに気づき、申し訳ないがカイルに頼んで人数分の肉を焼いてもらい山椒モドキソースを添えてもらった。
お代もしっかり払わせてもらうので問題はないだろう。
そう思っていたんだが……
「お代はいただけません! こんな素晴らしいレシピを私なんかのために! キンザンさんは神様です! 神様からお代をもらうなんて、真似はできません!」
そう泣きながら言われてしまい、俺は申し訳ない気持ちになりながらも感謝をして、カイルのカフェ『コッホの癒し』を後にするのだった。
それと同じくして、午後の鐘が街に鳴り響いたため、俺達は王都の出入口である正門へと移動する。
正門へと移動する理由は、王都には教会は存在するが、防衛のため転送陣を有した教会は作られていない。
そうして、向かった正門の先、広い王都に続く道を歩いてくる複数の影が見える。
「あ、オッサンだ! おーい!」
「にゃにゃにゃ〜キンザンだにゃ!」
そんな賑やかな声が聞こえて、俺も手を振りながら笑っていた。
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