204話、噂の人物? 空き家に再会、ポワゾンの我儘?
王都にやって来てから──いや、回復のために連れて来てもらってから、初めての外出、それは明るい日差しに照らされた世界なのだと俺に改めて感じさせてくれた。
賑わう街並みが広がっていく、いまだに商店が立ち並ぶエリアにはほど遠いのだが、それでも多くの人々が行き来をするただの大通りを見た俺は[バリオン]や「カエルム」の中心街よりも人で溢れているように感じてしまっている。
一日の利用者数を地方都市と東京の新宿や渋谷で比較するようなものだろうか?
賑やかな朝の雰囲気は素晴らしいと感じるのだが、なぜか、こちら側に視線が集まっているのが俺にも理解できた。
「なんか、凄い視線を感じるんだが……」
「何を今さら、ご主人様は今、珍しい椅子に座り、さらに蛇人族のナギにそれを押させているのです。目立つなと言うのが無理な話かと?」
「まぁ、確かに……言われてみたらそうかもな?」
俺とポワゾンが会話をしていると周囲からもヒソヒソと会話が聞こえてくる。
通りを進むにつれ、ざわめきが少しずつ変わっていく。
笑い声が遠ざかり、代わりに背中へ突き刺さるような視線が集まるのを感じた。
「見ろよ、あの女達、アレだろ? 武祭の予選で教会側の騎士をボコボコにしたっていう?」
「シー、静かに、タダでさえ、その話で教会が兵士の見直しと騎士の再教育始めるって話なんだからよ」
男達の会話を聞いて俺は頭を悩ませていた。
なんなら、既にトラブルばかりなのにあちらからさらにトラブルが走ってくるのだ。
次に女性2人の会話が耳に入る。
「あれよね、騎士団の威張ってる隊長のダミオを倒したって人?」
「え、そうなの! でも、そんな強そうには見えないけど」
「バカねぇ、ああやって弱く見せて、本当に必要な時は本気を出すタイプなのよ」
女性達からのあらぬ誤解は耳が痛くなる。結局、俺や『フライデー』、そしてその関係者に対する王都での注目度を直接的に知ることになってしまった。
正直に言えば、俺はそんなに強くないし、なんなら今はボロボロなんだがな……
多くを考えるとため息しか出ないため、とりあえずは目的地を目指すことにする。
商店が建ち並ぶエリアに入るとすぐに酒場から喧嘩であろう怒号が響き、俺達の目の前を“バギンッ!”と、木の扉が砕ける音と「ぎゃああああ!」と吹き飛ばされた人影が壁に激突する。
「酔っぱらいがッ! [カエルム]の警備兵団なめんなよ!」
「ブルーノ隊長! やりすぎですって、どうするんですかこれ?」
「そうっすよ、いくら何でも吹き飛ばしすぎですって」
「バカ野郎ッ! キンザンをバカにしながら、酒を飲んでるような奴に売られた喧嘩に手加減なんかできるか!」
「だからって、街の警備に呼ばれた我々が、酒場で喧嘩はダメですってば」
そんな会話が終わり、ブルーノの視線が俺と合った瞬間、大きな声がかけられる。
「お! 兄弟じゃねぇか! こんな場所で何してんだよ、傷は大丈夫なのか!」
俺を心配しながら、こちらにやってくるブルーノ。
「大丈夫って、言うとあれだけど、何とかなってるよ。それとこれはなんなんだ?」
俺は壁に叩きつけられて伸びている男を見つつ質問をすると、両手を組み豪快に笑ったブルーノが返答する。
「ガハハ! こいつらは兄弟をバカにして酒のツマミにしてやがった! しかも、オレに金をたかるような真似までしたんだぞ! だからとりあえず、ぶっ飛ばしたって話だ」
「相変わらずっていうか、前より豪快になってないか?」
「まぁ、それはどうか分からんが、どちらにしても、許せる許せないの話なら“許せない”になるってだけだ。さて、店のオヤジに話してくる」
「ああ、またな。ブルーノ……」
「おう! オレらは王都の警備兵団本部にいるから、なんかあれば来てくれ! またな。兄弟!」
予想外のブルーノとの再会に驚いたが、やはりそれだけ、王都で行われる武闘大会は大規模なものであり、さらにいうなら、注目されているのだろうと理解した。
ブルーノ達がいた酒場からさらに奥に進み、露天商のエリアも過ぎた辺りで周囲の建物よりも明らかに巨大な屋敷が視線に飛び込んでくる。
「デカイな、しかし、周囲の建物との調和とか完全に無視した建物だな」
簡単に説明すると『ネズミィ帝国』にあるお城を横長にしたような建物が目の前に存在している。
「ご主人様、こちらがその空き家かと、門の前にいる方も王国兵ですし間違いないかと思います」
うーん……ナンセンス! 空き家って、普通はもっと、こじんまりしてて、誰が見ても空き家ですって雰囲気があるだろうに!
「いや、空き家って、草茫々になるんじゃないのか? 前に俺達の屋敷だって、ひどいありさまだったし」
「こちらは王族が所有する空き家です。管理者もいれば、手入れがされないなどあり得ませんので、この形が普通かと?」
「そうだったな、忘れてたけど……ルフレ殿下が紹介してきた空き家だったな……」
「はい、それでは早速、中を見せてもらうために話を通して参りますので、お待ちください」
軽く頭を下げたポワゾンが門の兵士達に向けて歩いていき、数分話をしてから戻ってくる。
「ご主人様、屋敷の中を見れるそうです。既にルフレ殿下から話がいっていたようで、気に入ったならすぐに使えるようになっているとのことです」
ポワゾンの言葉に俺は少し悩んでから、あることを頼むことにする。
「内見はしたいが、皆と合流してから決めたいんだ。皆を集めることはできるか?」
「可能です。午後には皆様、王都に戻られる手筈になっておりますので、宿泊している宿に伝言を頼めば済みます。そうなさいますか?」
「ああ、頼むよ。ただ、王都に拠点をもつとなると、色々複雑だな……」
「[バリオン]の屋敷について、悩んでおられるなら、差し出がましいのですが、一つ、ワタシから提案というよりも、我が儘がございます、よろしいでしょうか?」
ポワゾンが自分から「我が儘」と口にするのは珍しいため、俺は首を傾げてしまった。
「ご主人様の意に背くような提案になるかもしれませんが、発言してもよろしいでしょうか?」
「構わないよ。せっかくの提案なら聞かせてくれ」
「ありがとうございます。ワタシからの提案は、一号店を完全に『調理師ギルド』に任せる形にして、屋敷は二号店の皆様に宿舎として解放するというものです」
俺は予想の斜め上からの提案に耳を疑った。
「凄い提案だな……ちなみに今の二号店がある[カエルム]の従業員用の建物はどうする気なんだ?」
「はい、じつは……そちらを潰れた孤児院の代わりに使わせてもらえたらと考えております」
「みなみになんで、そんなことを考えたんだ?」
「この考えに至ったのは、単純な話です。ご主人様は怪我や問題ばかりで、一号店を運営することは難しいかと。
さらに言えば、使わない建物は草木の処理が大変になります。それならば、有効活用するのが正解かと考えます」
ストレート過ぎる意見に俺は額から汗が流れ出す。
確かに、俺……店を全然回せてないじゃんか……
「わ、わかった……検討させてくれ。前向きな返答になるように考えるからさ」
「我が儘を口にしてしまい申し訳ございませんでした」
「いや、いいんだ。午後まで時間もあるし、軽く時間を潰してから、それも含めてみんなで話をしよう」
そうして、俺達は近くのカフェで時間をつぶすのだった。
多分、答えは自分の中でも既に出ているが、本当に決断ってやつは勇気がいるんだよな。
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