202話、愛が詰まった平手打ち
次の日は朝から、ペコとグーの2人が来てくれた。数日とはいえ、毎日のように会っていた存在が日常から離れてしまっている現状を考えれば、嬉しい以外の言葉などありはしない。
「ペコ、グー、来てくれてありがとうな。忙しいだろうに嬉しいよ」
「「はい、私達も嬉しいです。後ほど、ナギ様とポワゾン様も来られますが、ご報告のために一足先に私達が来たのです」」
嬉しそうに笑う2人、俺はなんの報告か分からずにいると、「「せーの!」」と、珍しくタイミングを合わせるように合図を出す。
「「昨日の夜に行われた“バッカス王国武闘大会”の予選を私達は無事に突破しました!」」
「そうなのか? 凄いじゃないか!」
「「主様のために何かしたいと考えていた私達にルフレ国王陛下からの提案がありまして、優勝賞品を手に入れるために皆が必死に頑張っています!」」
正直、話に置いてけぼりになっている現状を伝えるべきか少し悩んでしまった。
ルフレ殿下からは、嫁ちゃん達から聞くようにと言われたが、俺に何があったかと嫁ちゃん達が何をしたかの話をしており、[ボルドール]のゴブリン事件の話しかしていなかったからだ。
ただ、知ってる風に話を進めるべきか、質問するべきかを悩む理由としては、2人の嬉しそうな報告に対して、内容を知らないと口にする事実が憚れるからにほかならない。
ただ、そんな俺の表情から、2人が何かを察したのか、深呼吸をしてから話を再開する。
「「慌ててしまいましたね」」
「グーが説明します! 実は優勝賞品の『癒しの滴』は、予選を通過してから二次予選も通過しないとならないのです! 今回は一次予選という事になるのです!」
「あ、主様、私達の他にも、たくさんの人が主様のために王都に来てくれてたんだよ!」
「たくさん? どういう事なんだ、2人とも?」
質問をしたと同時に扉がノックされる。
「具合は良くなってきたみたいだね、悪いが邪魔するよ。キンザン」
そう言いながら、扉が開かれるとヒヒ様の姿があった。
「いい知らせだよ。足はどうしようもないが、身体的な問題や混乱、ほかにも何も見られないから、退院してもらって構わないよ。まぁ、王都を離れるのはオススメしないがね」
少し意味深な言葉に俺は軽く首を傾げるが、どちらにしても、主治医的な立場であるヒヒ様から退院許可がもらえたことは間違いなかった。
「ありがとうございます。なら、すぐに移動って言いたいんですが……今いない嫁達にも報告してからの退院でも大丈夫でしょうか」
「構わないよ。こちらとしても、退院の許可は出すが、どこまでの許可が出るかまでは分からないからねぇ。今、王宮に使者を向かわせて、お伺いを立ててるからね、逆に言えば、勝手に消えるんじゃないよ?」
しっかりと念押しをされ、伝えることを伝えたヒヒ様は俺の車椅子に視線を向ける。
「なんだい、そりゃ? 変な椅子だね、なんで椅子を馬車にしようなんて思ったのかねぇ、歳をくっても、男の考えは分からないよ、まったく」
時間もあったため、ヒヒ様に使い方と改善したクッションの座り心地を体感してもらうことにした。
最初は嫌がっていたヒヒ様だったけど、俺が「これも聖女の世界の遺産みたいな物ですよ」と告げるとすぐに試してくれた。
クッションは“買い物袋”から取り出したフカフカクッションのため、ガタガタな振動からしっかりと身体を保護してくれるようになっている。
「コイツはすごいねぇ? 魔導具と違って、魔力も魔石も使わずに人の移動を簡単にできるなんて……この車輪の黒い部分が秘密なんだろうが……」
必死に車椅子に使ったゴムタイヤと睨めっこをするヒヒ様の姿に少し笑ってしまいそうになったが、確かに車輪の作成はこちらの世界では大変なのだろうと思う。
「「難しい顔をしてますよ? 主様、大丈夫ですか」」
「あ、いやすまないな。色々考えちゃってさ、俺は使えるけど、同じようになっても、使えない人がいるんだよなって」
「「主様は優しすぎますよ。皆が同じ生活なんて難しいです!」」
「わかってはいるんだ。ただ、申し訳なくてさ」
「「主様……なら、増やせばどうですか?」」
ペコとグーの言葉に俺はハッとさせられた。
作成する基盤の事ばかり考えて、基本的なことを忘れていたからだ。
「そうですよ。主様、それならまずはその椅子をグーがもらいます。それを銀貨一枚で主様にお譲りするのです!」
「ああ、なら、それで頼む」
すぐに銀貨一枚を取り出して、グーに手渡す。
やり取りを見ていたヒヒ様は首を傾げていたので、それとなく質問をする。
「ヒヒ様、この椅子は仮にですが、この国にどれくらい必要だと考えられますか?」
「なんだい? まぁ、あれば便利だろうが……診療所や医療院、各ギルド、上げたらキリが無いだろうね? それに戦やクエストなんかで、足を失った奴らもあれば助かるだろうさ」
どこか寂しそうな表情で呟きながら、窓から外に視線を向けるヒヒ様に俺は軽く頭を下げた。
俺が今使わせてもらっている部屋はルフレ殿下の好意で無償で使わせてもらっているが、さすがにこのままだと、後味が悪いため、今回は物資で支払う形にすることを決めた。
そうしていると、ナギとポワゾンが部屋にやってくる。
「失礼いたします。ご主人様……遅くなりましたが、先程、一次予選に参加した者達の予選がすべて終了したことと結果が出ましたので、ご報告に参りました」
「ポワゾン、ナギ、悪いな。それでその結果は?」
ポワゾンが軽く挨拶した後に結果を話していく。
「はい、結果を言えば、七割の人員が二次予選へと進むことになりました。予選の方法が2人一組での試合形式だったこともあり、時間が掛かりましたが、二次予選は力量を見るとのことですので、もっと早く進むと思います」
頭を下げて、報告を終わらせたポワゾンが、ゆっくりと俺の目の前までやってくる。
「な、なんだ? どうしたんだよ、ポワゾン」
「ご主人様……」と優しく微笑んだ。
次の瞬間──パチンと頬を全力で平手打ちされた。
室内に響く音に視線が一斉に集まった瞬間、ポワゾンの背後から一斉にナギ達が動き出す。
「「ポワゾン様!」」
「マイマスター! ポワゾンッ!」とナギが声を上げた瞬間、俺はポワゾンの後ろから迫るナギに手で待ったを掛ける。
「ポワゾン、泣きながら叩くのは反則だって、悪かったな」
「うぅ──本当に何度も、何度も……今回はダメなんじゃないかと思いました。
生きていて、嬉しかったと思った瞬間に両足が無くなったアナタを見て、どれだけ心配して、後悔したか! なんで無茶をなさるんですか……私は、私達にはアナタが必要なのですよ」
泣き崩れるようにその場に膝を着いてしまったポワゾンの姿にナギとペコとグーが呆気にとられている。
ヒヒ様は仕方ない男を見るような視線を俺に向けると、分かりやすく視線を逸らしていくのがわかった。
俺は必死な体をポワゾン側に寄せると、ゆっくりと手を伸ばして力なく泣きじゃくるポワゾンをそっと引き寄せる。
「ありがとうな、それといつもダメな旦那でゴメンな。俺なんかのためにって、言ったらダメなんだよな。俺のためにありがとうな、ポワゾン」
そう呟くと、強く抱き締めてから、頭を撫でていく。そんなことしかできない自分の無力感を感じてしまう反面、こんな俺のために泣いてくれるポワゾンがありがたくて仕方なかった。
俺は本当に大切な人達が誰よりも愛してくれているんだと分からされる。
俺が初めて見た大粒の涙を流し、腕の中で小さく下を向くポワゾンの姿は、普段の強く抜け目のない強い女性ではなく、心から俺を心配してくれる素直な少女だった。
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