198話、王都[ウトピア]
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バッカス大陸の王都[ウトピア]に来てから早くも、一週間程が過ぎようとしていた。
俺は未だに、ヒヒ様からの治療を受けながら、できる範囲で自分自身のことを行っている。
[ボルドール]でのゴブリン事件が完全に解決した後の話になる。
まぁ、今もヒヒ様の治療を受けている時点で、俺の足は既に無くなってしまっている。
正直、人生で足が無くなるのは交通事故や病気なんかだと思ってたが、まさかの魔物にやられるなんて思いもしなかった。
ただ、本来なら傷口を焼いたりして、義足を作るなんてことも考えたが、今も治療という形で傷を焼かないことには理由がある。
これは俺が目覚めてすぐにメフィスから、予想外の方法を告げられた。
数日前──
「失礼しますよ。今日は貴方にどうしても会いたいという我が儘を聞くほかなく、諦めてこの場にお連れいたしました」
そう告げたメフィスと共に俺が使わせてもらっている部屋にやって来たのは嫁ちゃん達ではなく、まさかのルフレ殿下だった。
「え、ルフレ殿下!」
「そのままでよいぞ。怪我人に頭を下げさせるほど、余は慈悲なき王ではないからな、それよりもキンザンよ、大丈夫か、と聞くのもアレだが、命が無事で安堵したぞ」
優しく微笑む姿に頭を下げてから発言の許可をもらい、口を開く。
「ルフレ殿下。俺なんかのためにわざわざ、ありがとうございます。本来ならば、俺から殿下の元に向かわねばならなかったのに……」
「よいよい。むしろ、余がもっと迅速に対応できていたならば、[モネ]の悲劇も防げたであろうに、本当にすまぬ。許してくれ」
[モネ]の悲劇という言葉に俺は理解が追いついていなかった。むしろ、[ボルドール]の間違いかと思っていた。
「その顔じゃと何もメフィスから聞いておらぬようじゃな? 本来は話すべきか悩ましい話ではあるのじゃが、どうしたものか……」
話の内容が分からないまま、悩むルフレ殿下にメフィスが声を掛けた。
「遅かれ早かれ、知ることになる事実です。今、知らねば、後に向き合う後悔の方が辛くなりましょう。殿下から話されるのであれば、我輩はお任せすると致しますが、如何なさいますか?」
「ふむ、そうじゃな……先程、別室にて、キンザンの奥方達にも伝えた事実じゃ、キンザンが知らぬという事実はおかしかろう……余から話すとするかのぉ……」
ルフレ殿下はそういうと静かに置いてあった椅子に腰掛けて俺を見てから「聞く覚悟はあるか?」と質問をする。
当然ながら、俺以外の嫁ちゃん達は既に話を聞いているというのならば、聞かないわけにはいかないだろうし、聞くことが正解だと思う。
「お願いします。教えてください」
「ふむ、ならば話そうか、まぁ、気分のよい話ではないのだがな」と言うとルフレ殿下は両手を組み、ゆっくりと話し出した。
最初にメフィスが[モネ]の町に向かった理由を聞かされ、グリド商会の女商人の足取りを追っていた事実から説明される。
そして、メフィスが何を見たのかを教えられることになる。
嫁ちゃん達と共にゴブリンの巣へと向かったメフィスと部下さん達はゴブリン達を屠りながら、最奥にある祭壇まで辿り着いた。
皆が見たのは、祭壇に根を張るようにした巨大なゴブリンの女性であり、水晶のような腹部に死体や武器を取り込み、僅かな間に新たなゴブリンを生み出すという信じられない光景を目の当たりにさせられた。
個にして元凶、団体でありながら個人という存在だった。
ただ、それも安全な場所で守られているからこそ、成立することであり、巣穴からクイーンまでが発見され、眼前まで迫られたなら有利などありはしないのだ。
結果は、ゴブリンクイーンの変異種となった女商人の死亡と“魔物化の魔石”の破壊が成功した。
そして──ゴブリン化させられた者達は、肉体が黒い靄となり、骨や装備を遺す結果になったが、それはゴブリン化された[モネ]の町の住人全てが死を迎えたことを意味していると言える。
衝撃的だったのは、俺達が倒したゴブリンがその[モネ]に暮らしていた住人であった事実だろう。
どんな理由があり、どんな状況だったとしても、その事実だけは変わらない。
その事実を知った瞬間、なぜかひどい寒気と同時に嫌悪感が自分自身を襲い、無意識に嘔吐いてしまい口に手をあてる。
「まあ、一般的な考えがあればそうなるだろう。余も事実を知ってから、苦悩したのでなぁ、キンザンよ、あまり自身を責めるでないぞ? 『フライデー』と[ボルドール]の者達は、新たな恐怖の始まりを未然に防いだのだからのぉ」
「すみません、少し落ち着きました……陛下、お願いがあります……」
「ん? 願いとな、確かに以前、褒美を取らせると言った事もあったのぉ! よい、この様な状況ならば、色々と願いたきこともあるのが人という者じゃ、申してみよ!」
「はい──どうか、この件のすべての罪は俺だけで、俺の……首一つで許していただけませんか、大した首ではないですが……クランのマスターの肩書きがありますので……関係者の人にも納得してもらえると思います」
足がこんな状況だが、それでも、深く、深く、必死に頭を下げる。
「何を言うとるんじゃ? なぜ、キンザンがグリド商会の罪を被ると言うておるのか、余は理解できぬのじゃが、メフィスよ! 説明するがよい!」
「はい、早い話ですが、キンザンは[モネ]の町に対する責任、と言うよりもそれに対する自身の奥方に掛かりうる罪に対しての処罰に対して全てその身で受けると言いたいのかと」
「尚更わからぬぞ? 余がいつ、キンザンに責任があると口にした? キンザンもだが、討伐に参加した者、すべてに褒美を渡すことは当然として、罪になどと、ありえぬ話じゃ!」
真っすぐな口調でそう告げられて安堵した。正直、生きたいという感情でいたが、嫁達を犠牲にして生きるなんて今の俺には無理だからな。
「心から感謝いたします。殿下」
「ふむ! それよりも、キンザンよ、足についてだが、いくつか方法があるのじゃ、だが、それに関しては、余も立場があるせいで、無理強いができなんだことを先に謝罪する。本当にすまぬ」
ルフレ殿下は俺の足が何とかなる方法について教えてくれた。
方法というのは、聖騎士や王国騎士、さらには冒険者に力自慢といった己の力に自信がある者達が行う武闘大会にて渡される優勝賞品にあった。
本来ならば、無償で渡したかったと言われたが、そこに宰相や聖騎士を手中に置く教会側の強硬派が許さなかったらしい。
大会の賞品を入れ替えるようなことになれば、「バッカス大陸の中で不審に感じる者が出るだろう」と言う意見や、「王家が平等をすて、自らの損得で国がダメになる」といった話になりかねないという内容で反対されたらしい。
「つまりじゃ、大変言い難い話なのじゃが、大会には、キンザンの関係者を何人呼ぼうが出られるようには話を通してある。勿論、予選からの参加になるがのぉ」
色々と話を進めてくれているようで感謝しかない。
「ただ、さらに言い難いのじゃが、蛇人族の娘は大会に参加できんのじゃ、理由としては、両足がない者は参加できぬと、宰相側からの話でな……無理に話を通せなんだことを許して欲しいのじゃ」
「いえ、ナギもわかってくれると思いますし、気にしないで大丈夫ですよ」
「そう言ってもらえたら、こちらとしても助かるぞ、大会はまだ先になるじゃろうが、それまでは王都でゆっくりすると良いぞ」
今はまだ大会の予選中とのことで話が終わるとルフレ殿下は部屋を後にした。
「予選の結果は嫁達から聞くとよいぞ! また話そう、キンザンよ。早く日常に戻れるよう、願っておるぞ」
「ありがとうございました。殿下、感謝します」
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