197話、事実と新たなる生活
△△△△
俺が目覚めたのは、見知らぬ一室のベッドの上だった。
自由にならない身体の気怠さと、複数の薬品が混ぜられたような異様な香りが鼻を突く。腕は何とか動かせるが、力が入る気がしない。
目覚めと同時にすぐに扉が開く音がして、誰かが部屋から出たのが分かり、数分もしないうちに再度扉が開かれる。
「目覚めましたか、本当にヒヤヒヤしましたねぇ、貴方が目覚めるまで生きた心地がしませんでしたからなぁ」
ベッドで横になったままの俺を見下ろす形で入ってきたメフィスが早々にそう口にする。
「メフィス、ここは? 何がどうなったんだ……話してくれないか、頼む」
「ふむ、そうですなぁ? ここは王都の……いぇ、王城の医療室です。貴方の身体は酷い状態でしたので、回復術師であるヒヒ様をお呼びしました」
俺はヒヒ様によって回復魔法を掛けられていた事実と既に王都に運ばれてから、四日が過ぎている事実を告げられた。
「メフィス! みんなは、嫁達はどこにいるんだ、みんな無事なのかを教えてくれ」
「焦らずに、今から話しますから、はぁ本当に忙しない人ですなぁ? まずは貴方が目覚めるまでに女神フライ達が何をしたかを伝えておくとしましょうかねぇ」
メフィスは俺が気絶してからの出来事を語り出した。
王都に送られることになった俺は意識を失ってしまい、そこから生死の世界を彷徨うことになっていたことも同時に告げられる。
フライちゃん達は、俺や冒険者が攫われて連れていかれたゴブリンの巣穴に向かっていった。
メフィスもその場にいたから分かると口にした瞬間、いつも余裕があるその表情が微かにくもったのが分かった。
フライちゃん達は、バーサーカー状態でゴブリン達を根絶やしにしていったらしい。
俺と対峙した鎧ゴブリンが当然ながら、襲ってきたが、フライちゃんが単体で討伐したらしい。
鎧ゴブリンの巨大な大剣を容易く受け止めた後に、錫杖で頭を吹き飛ばしたと聞いて、耳を疑った。
それと同時に、ポワゾンが洞窟内に毒の粉を複数混ぜ合わせた混合毒を風魔法で流し込み、雑魚ゴブリン達はそれにより絶命、微かに動けるゴブリン達が残ったが、そんな存在もミア達、前衛組の嫁ちゃん達により駆逐されたとのことだった。
「人質や逃げ遅れた者がいたらどうする気なのですか!」と、メフィスがフライちゃん達に尋ねた時、嫁ちゃん達は悩まずに「関係ない」と口にしたそうだ。
メフィスは嫁ちゃん達が本来は集まるはずがない存在であり、怒りに支配された時点で他者に対して、感情を向けない可能性に恐怖を感じたと苦笑いで話す。
結果を先に言えば、既に人質や生き残りといった者は存在していなかった。
そうして、ゴブリン達の巣穴を壊滅させながら進んだ嫁達は俺が見た祭壇の上に群がるゴブリンキングやゴブリンタイタンといった上位種達と戦闘になったそうだ。
その戦闘を目の当たりにしたメフィスと数名の部下達は目を疑ったとメフィス本人が口にした。
本来はAランク指定の討伐対象のゴブリンキングが三体、ゴブリンタイタンが十体という戦力に通常種のゴブリンの大群が待ち構えていたからだ。
ただ、そんな大群を前にナギが理性なく襲い掛かり、それに追随したペコとグーの3人が即座にゴブリン達を祭壇から真下に吹き飛ばし、ゴブリンタイタンを二体同時に戦闘不能へと追いやっていく。
ゴブリンキングが奇声を上げるとゴブリン側も怒涛の勢いで嫁ちゃん達に襲い掛かった。
そこでメフィスが見たのは、僅か──いや、一瞬でゴブリンキング三体の首がフライちゃんにより刈り取られていた事実と他の離れた位置にいたゴブリン達も同様に嫁ちゃん達により始末され、戦場というには理解し難い光景だったようだ。
推測になるが、時間を止めて、フライちゃん達がゴブリン達を狩り尽くしたのだろうと思う。
そうして、メフィスが瞬きをする間もなく、戦闘が終了していた。
その際にフライちゃんは「わたしがいれば、きんざんさんは……」と小さく呟いていたらしい。
それはミア達も同様であり、「ボク達があの時、逃がしたせいで……許さないからな、お前達だけは許さない」と後悔と怒りを刃に纏わせているようだったと語られた。
そうして、祭壇の奥に座るようにしていた存在の元に辿り着いた嫁ちゃん達は諸悪の根源を睨みつけていた。
そこには、巨大な翠水晶のように輝く球体を腹部に、はめ込んだ美しい顔の緑色の肌をした女性がいた。
足は根を張るように祭壇に深く突き刺さり、一体化していて、翠水晶のように微かに透き通った腹の中には新たなゴブリンの姿が確認できたらしい。
その女ゴブリンを見たメフィスは、グリド商会の女商人だと確信した。
何が理由で所持者本人が魔物化してしまったのかは理解できないが、それでもやることは変わらなかった。
「アナタが、きんざんさんを攫わせた張本人ですね……」
フライちゃんの言葉に嫁ちゃん達が集まると一斉に攻撃を開始して、あっという間に女商人は肉塊に変わったそうだ。
話を聞いていて、複雑な気持ちになってしまったが、聞いている限りで嫁ちゃん達が無事だということが分かり、ホッとしている自分がいることにも気づかされた。
「以上が、ゴブリン達についての話になります。禁忌の品である“魔物化の魔石”はその場で女神フライが破壊してしまいましたので、報告書の処理が厄介になりますが、仕方ありません」
「色々すまないな。あと、ありがとうな。メフィスがあの場に現れてくれたから俺も冒険者の奴らも助かったわけだしな」
「そうそう、冒険者達の被害や損害はひどいことになりました。特に[モネ]の町は壊滅という一番嫌な形になりました。それでも、キンザン、貴方のパーティーが多くの未来を救ったことは事実です、生きててくれて我輩も嬉しく思います」
「俺はなんにもできなかったよ……無様だな、マジに」
「貴方は確かに負けたかもしれませんが、貴方の決断が『フライデー』の行動を決めたのなら、胸を張りなさい。間違いなく、救われた存在がいるのですからねぇ、それに貴方が攫われた際の足取りを調べて驚きましたからなぁ」
「え、なんでだよ?」
「貴方を攫ったゴブリンを追うためにおチビな方々と怪力の方々は、どれ程のゴブリンを相手にしていたのか……少なくとも百を超えるゴブリンの死骸を確認してますからねぇ」
会話が終わろうとした時だった。バタバタと、凄まじい足音が部屋に近づいて来ると、勢いよく扉が開かれる。
「こりゃ! メフィ坊ッ! 患者が目覚めたら此方にもすぐに連絡をよこさないか、まったく、久しいね、キンザン。ひどい状態で運ばれてきて、驚いたよ。ったく」
「ヒヒ様、お久しぶりです。色々すみません」
「足が無くなってるってのに、相変わらずだねぇ? まあ、まずは傷の具合を見るよ」
俺は改めて、布団を剥がされ自分自身の状況を再確認する。
痛みを不思議とないことが逆に怖くなるが、片足は脹脛から、もう片方は足首から無くなっていた。
「残酷な現実だねぇ、まぁ、生きてたなら何とかなるさ、冒険者になったなら覚悟もあっただろう、しっかりと受け止めな」
ヒヒ様の言葉に静かに頷くと俺は傷の消毒により、痛覚が一気に舞い戻り、痛みから再度気を失うことになってしまった。
これから先のことを考えると不安しかない、ただ、“生きていればなんとかなる”そんな気休めのような言葉すらも俺には救いに聞こえた。
すべてがこんな形で、ズレ始めるなんて、思いもしなかった……
俺はどうするべきなのか、どんな風に生きていけばいいのか、不安しかない。自身で歩くべき道を見失ったようなそんな気持ちをいだきながら、眠りについた。
読んでくださり感謝いたします。
☆☆☆☆☆で評価ありがとうございます
下にある[ブックマークに追加]もしてもらえたら、嬉しいです。




