196話、予想外の救い。真実と現実
耳に響く懐かしさを感じるような声、俺はメフィスの存在を認識した途端に全身にひどい疲労感が襲いかかるのを感じた。
「話は後に致しましょう、すぐに貴方を発見したことを知らせねばなりませんからねぇ、ここら辺一帯が焼け野原にされてしまいますからなぁ」
「おいおい、どういうことかだけ、話してくれよ」
質問を口にするとメフィスがなぜか盛大なため息を吐いたのが分かった。
「貴方が攫われたからです。自覚がないのなら、仕方ありませんが……我輩がこの場にいたのは別件で[モネ]の町への調査に来ていたからというだけの話ですからなぁ」
話がまったく理解できなかった。
「俺が攫われたからって、なんで……」
「はぁ、貴方が攫われたせいで、貴方の奥方達の感情といいますか、理性が吹き飛んでいるのですよ。普段から貴方のために力を抑えて生活していたのですから、仕方ないと言うべきでしょうが」
メフィスはなるべく分かりやすくシンプルに話を進めてくれたため、実際に嫁ちゃん達が本気で暴れていることが分かった。
簡単にメフィスは俺が攫われた直後に何が起きたかを、冒険者から聞いた話として説明し始めた。
普段から力が強すぎるため、力を抑えていたミア、ニア、ナギ、ミトの4人は種族特有の怪力とスピードで森の中に潜伏していたゴブリン達を殲滅しているようだ。
人族であるベリー、ポワゾン、ペコ、グーの4人も俺が攫われた事実をしると、森で爆炎魔法やスキルを使い、冒険者達から止められた際には、ポワゾン達は冒険者すら殺めてしまうのではないかという殺気を放っていたらしい。
そして、一番メフィスが困っていたのは、ドーナとフライちゃんの存在だった。2人に関しては、視界に入った動く物を見境なく力を使い消滅させているとのことだった。
「早い話が女神フライを含め、派手に暴れていたからこそ気づけましたが──我輩がゴブリン共の件などに巻き込まれる必要はなかった、とまでは言えませんが……
本来なら計画を立てるはずが、その時間すら無くなってしまっているのですからなぁ」
深いため息を吐きながら、メフィスが俺を確認して、すぐに部下さん達が集まり出す。
「しかし、足の……ひどい傷ですね……メフィス様、どうなさいますか? この傷は普通の回復術師では戻せないかと……」
部下さんの1人が俺にも声が聞こえた。
俺も覚悟はしていたが、やはり現実を直視した瞬間、なんとも言えない気持ちになってしまった。
「やっぱり無理……だよな……まぁ、覚悟はしてたから、しゃあないんだけどな」
メフィス達にできる限りの笑顔を向ける。
「確かに本来ならば、貴方の両足首から下は二度と復活しませんし、なんなら、立つこともできないでしょうなぁ、そうなれば貴方は料理人としては終わりを迎えるかもしれませんなぁ」
ストレートなメフィスの言葉はさすがに堪えるが、むしろ、哀れみや気休めなどを言われるよりも気が楽になった。
「ああ、そうかもしれないな。この足のことも含めて嫁達とゆっくり話すとするよ」
「さようですかぁ、ただ、方法が無いわけでもないのですが、諦めるなら、この話は無駄になりま──」
メフィスが喋り終わる前にその顔面に向かって、猛スピードで飛び出して来たフライちゃんから、ありえない速度のフルスイングされた錫杖が振り抜かれる。
「諦めて、いいわけがないのですよッ!」
「「メフィス様!」」
メフィスの部下さん達が慌てて駆け寄る。
しかし、フライちゃんは容赦なくメフィスに指を指すと捲し立てるように声を出す。
「メフィス! 今すぐに、方法とやらを教えるのですよッ! わたしは今なら素直に話を聞きますし、なんなら感謝もするのですよ!」
「グッ、ふざけるなよ……女神フライ! 貴女には常識のネジが破損しているのですか! いきなり何を考えているのです!」
「いいから、話すのですよ! それにメフィス──これ以上、待たされたら本気で怒りますよ……」
「いつも、いつも……貴女という人はッ! 身勝手に暴れるのも大概にしてもらいましょうかぁ!」
吹き飛ばされたメフィスが立ち上がり、声を荒らげると同時に部下さん達も慌ててメフィスを守るようにして前方に移動する。
ゴブリンが未だに近くにいる状況から考えても、目前で行われている行為に対して、なぜそうなるのか、分からない状況になっている。
ただ、それを止められる者が冒険者の中に存在しないことも紛れもない事実なのだ。
ただ、メフィスの語る“バーサーカー状態”というのが理解できなかった。俺からすればいつも通りのフライちゃんに感じられたからだ。
「フライちゃん、悪い……全部、俺が悪いんだ、だから、話を聞いてくれないか」
メフィスと睨み合う形になったフライちゃんに声をかけた瞬間、無数の方角から木々を薙ぎ払うように、嫁ちゃん達が集まり出す。
「オッサンッ! 足が……」
「うぅ、ギンザンのアジがないにゃあ……」
ミアとニアの悲痛な叫び、そうして集まり出した嫁達からの心配と後悔の言葉が次々に俺に掛けられていく。
全員の言葉が一通り終わりを迎えた頃合を見てメフィスが待ちくたびれたように口を開く。
「本題を話しますが、キンザンの足は何とかなります。それについては、我輩が保証します。それと我輩達は今回、別件で[モネ]の町に向かったのですが、その話をしてもよろしいですかな?」
メフィスの言葉に嫁ちゃん達からは「治し方を教えろッ!」といった声が飛び出したがメフィスは先に目的について喋り出す。
メフィスは[モネ]の町に拠点をおいていた『グリド商会』の女商人の捕縛と女商人が所持していた禁忌のアイテムを回収するのが目的だと語った。
「つまり、我輩達は、グリド商会の未だに発見されていない禁忌の品を回収するために来たのですが[モネ]の町はひどい惨状でしてなぁ、調査のために森を調べていたというわけです」
メフィスの言葉を聞いたフライちゃんが次に喋り出す。
「話は分かりましたが、ゴブリン達とどういった関係があるのですか?」
「女神フライ? “魔物化の魔石”を知らないワケではないでしょう、それが未だにこの世に残ってると言ったら納得いただけますかな?」
物騒なワードが出た瞬間、フライちゃんの表情が明らかな殺気を纏った物に変化する。
「話は分かりました。つまり、今回の問題はその“魔物化の魔石”が原因で、きんざんさんがこんな目にあったのもそれが原因なのですね……ならば、簡単ですね。今からすべて潰してしまいますから……」
フライちゃんの言葉に嫁ちゃん達も頷くと、俺や冒険者達が出てきたゴブリンの巣穴へと向かっていく。
「メフィス、キンザンさんを頼みます……もし、何かあれば、何をするか分かりませんから、そのつもりで動いてください」
凍りつくような冷たい視線にメフィスが苦笑いを浮かべながら口を開く。
「キンザンは責任をもって、王都に連れていかせてもらいますので、安心してください。我輩もさすがに貴女達を敵に回す気はありませんからねぇ」
そうして、俺は話を聞いている最中、意識が限界を迎えていく。薄れる意識の中で見たのは、怒りに支配された嫁ちゃん達の表情だった。
普段は見せない怒りに支配された表情は少し悲しく、それでも俺なんかのために本気で怒ってくれているのだと分かった。
──願うなら心から“ありがとう”と“おかえり”と言えたらと思う。
そうして、俺の意識は完全に暗闇の中に吸い込まれると深い睡魔の世界に落ちていく。
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