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みんなが断った異世界転移☆暇な日、限定で揚げもん屋『フライデー』をやってます。  作者: 夏カボチャ 悠元
7章 繋がりの先に、女神の心と紡がれる道

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195話、絶望の先に──

「──みんな、ごめんな」


 誰もいない──いや、送り出したんだから、いたら困るよな。


 暗闇に光る暖かいはずの輝きがゴブリン達の燃やす大きな焚き火なんだから、皮肉な話だな……あんなものがなければ、きっと素直に絶望できるのにな……


 目を瞑り、諦めようとした瞬間、ミアと出会った日のことが瞼の内側に思い出されていく。


 あの日、俺は小さな彼女に救われたんだ。イケオジのアンリさんと2人の助けで生きながらえて、不思議と大切な人が増えて、話を聞かない奴もいたし、甘えられて逆に困った瞬間もあった。


「なんで、俺なんかに……約束、いっぱいしちまってたな。強がって馬鹿なことを頼んで、やっぱり死ぬのって、シンプルに……こえぇんだよな」


 俺は“買い物袋”から、荷運び用の台車と複数のウォーターサーバー用の水が入った巨大ペットボトルを取り出していく。

 中身の水を【ストレージ】に移動させて、すべてのペットボトルを空の状態にする。


 俺や冒険者達が縛られていた縄を使って台車とペットボトルをキツく縛り連結させ、しっかりと向きを確認する。


 台車の上に座り、新しい『調理用ゴーグル』を取り出して身に付けていき、身体を縛りつけてから最後の悪足掻きを開始する。


 急いで【ストレージ】内部の海水量を確かめていく。

 巨大アンコウの一件で俺が吸い上げた海水は未だに25mプールで数えるなら三十個分(約9225トン)がストックされている。

 再認識してから、足首を包むようにビニール袋を何重にも巻き付けて、最後にビニールテープで巻き上げていく。


「ゴブリンはずる賢いらしいが……人間は意外性ってやつなら、どの種族にも負けないだろうな……【ストレージ】解放!」


 俺の両手から溢れ出した海水はダムの放水を思わせる勢いで一気に地面を海水で満たしていく。

 当然、異変に気づいたゴブリン達が慌て出すが、海水の勢いはさらに増やすイメージをしていき、次第に台車が浮き上がっていく。


 台車が浮き上がった瞬間、俺は両手を背後に伸ばして、水面を一気に移動させる。

 俺には【マッピング】や【探知】なんて、スキルはない。

 連れてこられた道は分からないし、もし向かう方向が行き止まりならと不安にもなる。


 それでも、俺は生きることを、この瞬間も諦めたくなかった。


 だからこそ、すべての海水を使って、悪足掻きと言われても行動を起こすと決めた。


 下の階に流れ出した海水が焚き火を押し流したのか、背後に見えていた炎の輝きは消え、暗闇に包まれる。


 俺の視界は既に『調理用ゴーグル』で確保されているため、ここからは少しでも早く地上に出ることだけを優先していく。


 ただ問題は、噴射するのみで推進力を得ているため、どうしても速度の限界があることだ、さらに言えば、もっとひどい現実が俺の前に立ち塞がっている事実だ。


 そうここから先は、上がり坂になっている。


 俺が悩んでいる数秒の間にも通路の向こうからは、「ガギガガガガッグガ!」と、慌てて近づいてくるゴブリン達の声が響いている。


 試しに全力で海水を噴射して坂に挑戦するが、キツくないはずの坂も今の俺からしたら、厳しいものがあった。


「くそ、もう少し、まだ諦めたくないのに……うわぁぁぁッ! 負けねぇからな!」


 俺が叫んだ瞬間……上側の通路からいくつかの足音が近づいてくる。


 背後から迫るゴブリン達に向けて出し続けている海水を前方に向ければ、逆に坂を真っ逆さまに降ることになるだろう。


「万事休すか……くそ……」


 坂の中心まで辿り着いたが、八方塞がりになった事実に絶望した。


 ……どうしようもない絶望感、無慈悲な現状に涙が自然と流れ出していた。


 次第に近づく足音、ゴーグルの内側から視界が、ぼやける。

 意識が僅かに途切れそうになる最中、急に距離を縮めるように近づくその姿がゴブリンではないことに気づいた。


 それと同時に声が響く。

 

「──さん! キンザンさん!」


 声がした方向に視線を向ける。俺に手を伸ばす姿、それは俺が送り出した冒険者達だった。


「大丈夫ですか、皆! 頼む、手を貸して」

「おう、すぐにいくから! 離すなよ」

「私も、頑張ってください。キンザンさん」

「オレが後ろから押すから、水を止めてください」


 冒険者達が戻ってくると俺の乗った台車を掴み、すぐに坂の上まで運んでくれた。


 正直、俺はこれが現実なのかと困惑してしまった。それでも俺を台車ごと坂の上まで運んでくれたことに感謝したい。


「なんか、すまないな……カッコ悪いけど、足掻きたくて、本当にすまない」


「オレらも、アンタを置いてきたことを後悔してたんだ。だから、助けに戻る相談をしてたんだ。だが、戻る手間が省けたみたいだ」


「そうみたいね。しかも、キンザンさんが水で通路を塞ぐなんてすごい芸当をしてくれたから、時間も稼げたはずよ」

「つまり、キンザンさんを含めて俺達全員が脱出できるかもしれないってことだな!」


 そんな会話の後に改めて冒険者側から感謝の言葉が口にされた。


「俺達の方こそ、本当に悪かった。ずっと、後悔の気持ちでいっぱいだったんだ。だから、全員で生きて帰りましょう!」


 軽い会話を終わらせてから、俺達は行動をともにする。


 台車からペットボトルを外していき、大柄の男性が台車ごと、俺を背負い出した時は驚かされた。


「あの時は、まだ身体が痺れてて、言い出せなくて、悪かった。キンザンさんは絶対に地上に送り届けるからな」


「本当にありがとう、マジに諦めてたから……ありがとう」


 俺達は外を目指して進んでいく。


 複数の横穴からゴブリン達が次々に姿を現すが、冒険者達側からすれば、ただのゴブリン相手に遅れをとるようなことはなかった。


 そして何より心強かったのは、冒険者側の1人に探知系魔法が使える人がいたことだろう、迷うことなく俺達を出口へ導いてくれていた。


 正解の通路を進んでいく中で分かったが、俺が1人で進んでいた道はシンプルな物だったが、地上までの通路はそうではなかった事実だ。


 坂の上からはいくつにもの分岐点があり、探知系の魔法がなければ、間違いなく脱出不可能になっていただろう。


 入り組んだ迷路というよりもダンジョンのようになっていた事実を冒険者の1人が説明している際に聞いて、背筋が凍り付くような思いだった。


 次第に道幅が広くなり、前方に輝く微かな希望が暗闇の世界を陽の光で照らし出す。

 暗い通路に光が見えた瞬間、背中に背負われながらに照らされた壁を見て涙が流れた。


 俺達の表情が明るくなると同時に出口に向けて、全員が駆け出していた。

 俺を背中に背負った冒険者さんも光に向かって次第に足の動きが早くなっていく。


 光の先にある出口に足を踏み出した冒険者の男性、それに続いて俺を背負った冒険者と、次々に洞窟の外に飛び出すと周囲に敵が居ないかをすぐに確認する。


 それと同時に俺達は、今から命を賭けた脱出がまだ続いているのだと喜びながらに覚悟を決めた。


 俺達の位置は仲間の誰も知らない可能性があり、さらに言えば、このまま拠点を目指したとしても生き残れる可能性が限りなく低いことだろう。


 その事実は捕らえられた側だからこそ感じることであり、この場の誰もが口にはしないが表情からも容易に想像ができた。


 俺達はこれからの行動について、手短に話していく。

 闇雲に行動すれば、それは完全な終わりを意味していたからだ。

 そうして、話し合われた方法は二つ。


 一つ目は、危険を伴うが発煙筒を使い、自分達の位置を他の冒険者に知らせる方法だ。

 発見してもらえる可能性はあるが、同時に敵であるゴブリンに位置を教えてしまうリスクが伴う。


 二つ目は、戦闘を避けながら時間をかけて、探知魔法を使い、自力で拠点を目指す方法だ。


 どちらにしても距離が分からないため、全員がどちらの方法を選ぶべきか悩み、躊躇していた。


 位置は分からないが敵地で自分達の位置を教えるリスクの高さを考えてしまっていたからだろう。


「チッ、やっと、外に出れたのに……」


 そう口にした冒険者の声に俺はあることを思い出す。


「たぶん、俺の血の跡が残ってるかもしれない……」


 背中の俺に向けて冒険者から声が返される。


「血の跡なんて、見えねぇよ……」

「いや、俺なら、このゴーグル越しに確認できる。すまないが視線を上げてくれないか」


 俺の言葉にずっと担いでくれていた冒険者さんが身体が持ち上げてくれた。それを手伝うように他の冒険者さんが肩を貸してくれる。


 3人がかりで持ち上げられた俺は調理用ゴーグルで肉眼では分からないであろう、俺の血が流れ出した跡をしっかりと目に映し出してくれていた。


 俺の血以外の血痕もあったが、点々と続く血液の道が確かにそこに存在した。


「あった、あったぞ……見えた!」


 そんな喜びを全員が理解した時だった。

 周囲の森から複数の爆炎と粉塵が一斉に舞い上がり、同時に俺達の前方から複数のゴブリン達が走ってくる。


「また、このパターンかよ!」

「どうする、さすがにあの数は……」


 希望からの絶望に冒険者達から落胆と諦めのつぶやきが(あらわ)になったその時、俺達に向けて声が叫ばれた。


「無様ですなぁ……そのような姿で何をしているのですか!」 


 俺は自分の耳を疑った。

 ──その声の主を間違うわけがない。


「メフィスだよな……助かった……」

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