192話、推測と現実
正面から睨みつけるように笑う、大剣を手にしたゴブリン。
ハッキリ言って、繁華街でイチャモンをつけてくるそんな奴らと同じように感じてしまう。
命のやり取りをするって時に考えるのがこんなことなんだから、本当に人間の脳ミソって奴には驚かされるよな。
そんな俺に対して、力強く振り抜かれるゴブリンの斬撃。人の──いや、ゴブリンのことは言えないか……
「俺は基本、食材以外を斬りたくないんだけどな!」
片足を一歩後ろに下げてから竜切り包丁を大剣にぶつけるように振り上げる。
周囲には多数のゴブリンを相手に戦う嫁ちゃん達の姿があり、ゴブリン側も俺と大剣ゴブリンの邪魔をさせないために必死らしいな……
「グガアァァァッ!」
「力任せに来てんじゃねェッ! うりゃあぁぁぁぁッ!」
互いにぶつかる巨大な刃、それに加えて巨体からの斬撃と押し込みが次第に俺を押し返していく。
今までと違う、考えられたような斬撃、力任せに戦ったオークジェネラルの時とは違う、狙いを定めたように急所を狙う全ての攻撃に恐怖を感じる。
ゴブリンとは、どこまで成長しても、欲望や残忍性に囚われた生き物であり、魔物の中でも底辺から数えた方が早い存在という認識を改めるにはそう時間はかからなかった。
そんな激しい戦闘が周囲で繰り返されていると、一体のゴブリンが慌てたように木へと登る姿が視線に入る。
徐ろに取り出したのは、小さな袋だった。
何をする気か分からなかったが、それを止めることを目の前にいる大剣ゴブリンが許さないと言わんばかりに乱撃を繰り返してくる。
「くそ、みんな、気をつけろ!」
詳細を口にしようとした瞬間だった。頬すれすれをゴブリンアーチャーの放った矢が通り抜けていく。
風切り音が耳を掠めた瞬間に僅かな力の綻び、それを見逃さないと言わんばかりに今まで片手で大剣を握っていたゴブリンが両手で大剣を握る。
振り下ろされた大剣が何倍にも勢いを増して襲いかかる。殺意を纏った大剣が“ミシミシッ”と、嫌な音を鳴らす。
「オッサン! 大丈夫かよ、くそ! 邪魔なんだよ、ニア、オッサンが!」
「わかってるにゃ! ただ、こいつらさっきより数が増えてる気がするにゃ! それに変な臭いもするから、最悪だにゃぁ!」
2人同様、俺の側に向かおうとしてくれている嫁ちゃん達、そんな、みんなに群がっていた雑魚ゴブリン達にちらほらと上位ゴブリン達が増えたのが俺の目にも明らかだった。
くそ! 最初から俺達を待ち伏せしてたってのかよ! なんでこんな待ち伏せができるんだ……いや、むしろ増えた理由が分からない、何かを見逃してるはずなんだ!
必死に大剣を受け止めながら、余裕のない頭で思考を巡らせる。
そんな時、「吹き飛べ!【エアーバレット】!」一陣の閃光が木に向けて放たれる。
「よう、苦戦してるみたいだなぁ、てか、数ヤバくないか? なんでこんな馬鹿げた数の相手してるのさ……」
背後から駆け込んで来た存在を見て、俺は心底安堵した。
「キールさん! 悪い」
「みたいだな! 行くぞ野郎共、『ヘルハウンド』の実力を愚かなゴブリンどもに教えてやろうぞ!」
「「「おうよッ! ヒャッハーッ!」」」
キールさんの指示に背後から複数の風を纏った杭が一斉に発射されると俺達の頭上を抜けて、ゴブリン達に炸裂していく。
「キール! 新しいバレット込めて!」
「はいよ! マリー、ぶちかましな!」
「キール、こっちも頼むぜ、残り四発だ!」
「ビルもかよ、じゃあねぇな、空は回収するから気にすんなよ!」
キールさんはそう口にすると、地面に落とされた筒に視線を次々に合わせていく。
「【回収】!【魔力セット】! ダニーッ! 頼むぜ、皆に届けてくれよ」
「任せろって! オレ様より速いやつをオレは知らねぇからなぁ! 【速度上昇】」
俺のすぐ側で繰り広げられるキールさんのパーティー『ヘルハウンド』のやり取りに驚いていると、俺の背後から、重量感のある駆け足が近づいてくることに気づく。
「キンザン! 今すぐに避けな! ウチの力自慢が来るぜ! ダグッ! 派手にやっちまえ!」
「任せろや、どきなッ! その大物はオレが相手してやるからよォォォォォォッ!」
ミトのハンマーに引けを取らないほどの巨大な戦鎚を構えた“ダグ”と呼ばれた大男が俺が回避したと同時に大剣ゴブリンの腹部にめがけて、戦鎚をフルスイングする。
大剣でギリギリ、戦鎚を防いだゴブリンが大きく後ろに下げられるが、足に力を入れて、持ち堪えたのがわかる。
ただ、それでダグと呼ばれた大男の攻撃は終わりじゃなかった。
「吹き飛びやがれッ! 【マグナムインパクト】ッ!」
戦鎚から凄まじい衝撃波が発生した瞬間、空気が振動するのを近くで感じた。
次の瞬間、戦鎚を受け止めた大剣が砕けて、大剣ゴブリンが力なく項垂れた。
「よっしゃぁッ! どんなもんよ。見たかキール! オレの一撃は絶対に負けねぇし、最強だろうが!」
「わかったから、それより今ので魔力切れだろうが? 早く回復するから、こっちに来いよ」
「わかったよ! 掛け声出しながら、興奮しちまったが、許してくれよ。悪気はないんだ」
「いや、正直助かったのは、こっちだ。ありがとうございます」
互いに軽く頭を下げると嫁ちゃん達側も複数のゴブリンを討伐し終わったようで、俺の元にやってくる。
かなり心配されたが、無事だと理解した嫁ちゃん達はホッとしたように笑みを浮かべてくれた。
「本当に助かった。それより、キールさん達はなんで、ここに? 俺達とは反対側に進んでたんじゃ?」
「それなんだが、ウチら側にいたゴブリン達が突然、こっちに走り出してさ、それで巣に戻るのかと追いかけたら、こんな感じかな?」
話をしているとポワゾンがこっちにやってきて、キツく縛られた袋を見せてくる。それはゴブリンが木の上で開いていたものだとすぐに分かった。
「ご主人様。これを使い、ゴブリン達は仲間を呼び寄せていたようです……成分や内容は、この場では分かりませんが、行動から間違いないかと」
「ゴブリンがそんなもん使うのかよ……本当に俺の知ってるゴブリンよりずっと厄介だな」
俺とポワゾンの会話を聞いていたキールさんも不思議そうな顔をしている。
「こいつは……“ゴブリンパウダー”だな……マズいねぇ……ゴブリンパウダーってことは、キングが生まれてるってことか、笑えないねぇ」
キング──間違いなく、ゴブリンキングだと理解ができた。
知恵と力を持ったゴブリンであり、それを聞けば、統率が取れすぎているゴブリンの行動も納得がいく。
「どうするのが、正解なんだ? このまま救出部隊として、向かうべきかの判断が出来ないんだが」
俺はキールさんに質問をしていた。情けないが、冒険者としての経験や判断を考えれば、俺では答えが出なかった。
「そうだな、どちらにしても、ナタリーちゃんと合流する必要があるだろうねェ、これは俺達だけで決めるには難しいかもだからな」
キールさんの言葉に頷いた瞬間だった。
“ヒュー!”と空に向けて、煙が上がった。
それはナタリーさん達“ダークファング”の人達から渡された非常時や何かを発見した際の合図であり、その煙は真っ赤だった。
「ナタリーちゃんがヤバい! 行くぞ!」
キールさんの声に『ヘルハウンド』のメンバーが立ち上がり、駆け出していく。
「オッサン! ボク達も!」
「あぁ、行くぞ!」
ナタリーさんのあげた真っ赤な煙を目指していく。最悪な事態になる前に絶対に合流する。
「間に合ってくれよ、ナタリーさん!」
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