191話、各自の目指す先、覚悟の道
救出部隊への参加を頼むジールさんが頭を下げる。
誰もが目を疑うような光景だった。一つの街のギルドマスターの立場の存在が、一冒険者である俺に対して頭を下げるなんて誰も予想しなかっただろう。
「ジールさん、落ち着いてくれ、できることはするつもりだ。ただ、一つ言いたいのは、俺は勇者や伝説の英雄みたいな実力はないんだ」
「それでも、[ボルドール]の冒険者達のために頼む! 今の状況で、追加の増援は期待できねぇんだ……本来なら、緊急レイドって無茶な話を受けてくれただけでも感謝してるんだ」
「わかった。俺は構わない。あとは俺のメンバーに相談させてくれないか、1人で決めるには難しすぎるんでな」
嫁ちゃん達に視線を向けると全員が仕方ないといった顔を浮かべていた。
「わかってるから、素直に頼めよな不器用野郎! ウチらが旦那様を見捨てたりできねぇのはわかってんだろ?」
「ミトは素直じゃないにゃ? 素直にキンザンのために頑張るって言えないのは、まだまだだにゃ〜」
「そうなの! ドーナみたいにマスターには、素直になれば、楽ちんなの!」
「ドヤってどうするんだよ。まぁ、ボクもオッサンのために頑張るからさ」
「はあ、仕方ないわね。こんな感じみたいよ? まったく、皆、お人好しよね?」
「はい、ベリー様の言う通りかと、ワタシもご主人様のために力は惜しみませんが、困ったものです」
「「私達もやります! 主様が決断したなら、従うのみです!(だよ!)」」
「ナギもやる。マイマスターの力になる! ゴブリンは潰す」
「みたいですよ? まぁ、闘神と呼ばれた、わたしがいれば間違いなく負けはありませんからね、安心して任せてもらって大丈夫ですよ」
悩まずに即答する嫁ちゃん達に俺は感謝すると同時にジールさんへと視線を向ける。
「問題ないみたいです。ここからは別行動になりますが、どうしますか?」
「すまねぇ、恩に着る! 救出部隊として、別にキールのパーティーとナタリーのパーティーを向かわせるつもりだ。探索型の救出になるが、無茶はしないでくれ」
「俺達も含めて、3つのパーティーが抜けても大丈夫なのか?」
ジールさんが返事をしようとする横から、キールさんが話を割って入るように返事をする。
「大丈夫だろうさ? うちのパーティー『ヘルハウンド』と、ナタリーちゃんとこの『ダークファング』も各自パーティーで動くって話でまとまったしねぇ、残りを守りに回す形にすれば、問題ないさ」
下を向いて、拳を握るジールさん。
「本当にすまねぇな……本来なら、ワシが先陣を切って、やるべき問題なのによ!」
いつもの口笛を軽く吹きながら、キールさんが明るく笑って見せる。
「おいおい、ギルマスが先陣を切ってどうするんだって話だよ。マスターが死んだら、ギルドが潰れちまうじゃないのさ、わかるだろ? 必要な人選って奴さ」
そこにさらにナタリーさんが参戦する。
「たく、ギルマスになってもこれなんだから、ジールはしゃあないね? アタシらがやるって言ったんだから、酒を奢るための金貨でも数えてな。勿論、破産させるくらい飲んでやるからさ」
「ヒュ〜──ナタリーちゃん、言うねぇ、なら、うちのメンバーも、美味い料理付きで、大宴会をしてもらわないとだな……ジール、破産しても泣くなよな」
「おう、お前ら2人とパーティーメンバーにも、いや、全員に美味い飯と酒を奢ってやる! 絶対に生きて帰れよ!」
ジールさんの言葉にキールさんが軽く片手をあげてから、歩き出すと、俺の方に向かってくる。
特に歩みを止める様子はなく、横を通り抜ける瞬間に「ありがとうな、生きてまた話そうや」っと呟かれた。
俺としても、知り合いの誰かが傷つくなんて考えたくない。
ましてや、再会ができないような状況になるなど、ごめんだ。
ナタリーさんが俺とキールに向けて、声をかけてくる。
「攫われた冒険者達がどこにいるか分からないから、アタシ達が使う連絡用の発煙筒を渡しとくよ、派手に煙が出るから、的になるかもだからね。間違った使い方をするんじゃないよ」
「分かりました。ナタリーさん、ありがとうございます。必ず見つけたら、使わせてもらいます」
「必ずって、まぁ、見つけたら頼むよ。煙が確認できたらすぐに向かうからさ、ただ、アタシ達は先に救援のために戦力を呼びに行くつもりさ」
渡された発煙筒は二種類、赤が緊急時、青が何かを発見した際に使うものだと分かりやすく使い方を教えてくれた。
ナタリーさんは、救出部隊として、攫われた冒険者を探すと同時に[バリオン]と[ボルドール]の中間、つまりは森の先にある[モネ]と言う小さな町に向かうと口にした。
[モネ]は二つの街から見て三角形の頂点部分になるような位置にある町で、森を囲むようにして作られた街の一つである。
ただ、二つの街が成長した分、[モネ]だけはどっちつかずの位置にあるため、未だに“町”と呼ばれているらしい。
ただ、町でも、警備兵団という組織は存在しており、転送陣を有した教会も存在している。
つまりは、増援が期待できるとナタリーさんは口にしたのだ。
各自が探査する方向を決め、夕暮れ前には拠点に戻ることを決めると一斉に移動を開始する。
ナタリーさん率いる『ダークファング』は女性だけのパーティーであり、6人パーティーだった。
パーティーメンバーにテイマーがいるようで、馬に跨った状態で空に飛ぶ鳥から、地形と敵の位置をパーティーメンバーが確認しているようだった。
キールさんのパーティーである『ヘルハウンド』は、俺の世界で言うところのカウボーイスタイルの男女混合パーティーであり、足早に森の中に消えていった。
「さて、再出発だな……結局、何も分からないままになっちまったな」
「だから、わたしがあの時、ゴブリンを倒すと言ったんですよ!」
フライちゃんにプンスカされ、俺は頭を下げたまま出発する。他の2チームと違い、情けない形になったが、それは結果で挽回だな。
森を進んだ先、やはりというべきか、ゴブリンの大群が出迎えてくれた。
嬉しくない歓迎だが、降りかかる火の粉にみすみす殺られるような真似はできない。
一般のゴブリン達が大半の中、三体程、上位種であろうゴブリンの姿があった。
各自が巨大な大剣を装備しており、俺の竜切り包丁を一回り小さくしたようなサイズだ。
それでも、軽々と片手で握る巨体のゴブリンを見て、危険だとすぐに理解できる。
他の二体はゴブリンウィザードと呼ばれる魔法使いタイプとシールドゴブリンよりも巨大な盾を装備したゴブリンだった。
俺達の姿を見て、ニヤリとキバを見せると、巨体ゴブリンが大剣を振り上げた。
それを合図に、棍棒を握りしめたゴブリン達が一斉に駆け出して襲い掛かってくると、こちらも戦闘に入ることになる。
「みんな、行くぞ!」
俺も素早く【ストレージ】から竜切り包丁を取り出すと前方から飛んでくるゴブリンに目掛けて全力で振り抜いていく。
ゴブリンを一刀両断した瞬間だった。
竜切り包丁で斬り裂いたゴブリンの背後から巨大な刃が俺に向けて振り抜かれる。
ギリギリで身体を後ろに引いた瞬間、眼前スレスレを分厚い刃が振り下ろされ、地面に刃がめり込み大地が抉られている。
「うわっ! ぶねぇ!」
「グアァァァっ!」
地面にめり込んだ大剣を振り上げると巨体ゴブリンが声を上げながら、力任せに大剣を再度振り下ろしてきた。
俺は唯ならぬ恐怖を感じながら、両手に力を込める。
「来いよ! 簡単に負けてやる気もない! ぶっ倒してやるからな!」
そんな俺のセリフにニヤリと笑う巨体ゴブリン。
俺はオークジェネラル以上の強敵と戦うことになるのだった。
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