190話、緊急、救出部隊
ペコが放った武具スキル【シールドバッシュ】が発動された瞬間、確かに何者かに激突して吹き飛ばされていく。
“ドゴンッ!”と空気を震わせるような凄まじい衝突音が鳴る。
前方の大木に冒険者風の服を身に纏ったゴブリンが叩きつけられており、ハッキリとその姿を確認することができたことで敵が姿を消すスキルを所有していることが理解できた。
そのゴブリンに近づこうとするペコだったが、次の瞬間、ナギが背後から手を伸ばして、ペコの襟首を掴むと勢いのままに自身の側に引っ張り戻す。
「え、うわぁ!」という声に続けて「ペコ、危ない」とナギが声を上げる。
次の瞬間、ペコが近づいていた草木の先から、鋭いバトルアックスが力強く振り下ろされる。
漆黒の鎧を纏った屈強なゴブリンが姿を現すと振り下ろしたばかりのバトルアックスを軽々と片手で持ち上げてこちらに向けて、睨みつけるように視線を向ける。
「グアァァァッ!」
ゴブリンとは思えないほどの力強い雄叫びを上げる鎧ゴブリン、その声に気絶していた冒険者風のゴブリンが目を覚ます。
さらにその後方から、十数体の今までとは装備が異なるゴブリン達が武器を手に姿を現す。
「おいおい、マジかよ! あんなゴブリンなんて、情報になかっただろ……」
明らかに上位ゴブリンとも異なるゴブリン達、レイド前に確認したホブゴブリンに似ている個体もいるが、そんな存在が武器や防具を全身に装備しており、さらに他のゴブリン達もガタイは同じように鍛えられた肉体になっている。
細身のゴブリン達もいるが、装備は盗賊やアサシンを思わせる冒険者が好む装備であり、最初に姿を消していたゴブリンを考えれば、【スキル】を使用する個体が混じっていることは明らかだろう。
「やばいな……スキル持ちのゴブリンもいるみたいだな……みんな、撤退する。拠点まで戻って数で勝負するしかない」
俺の言葉にミトが強い口調で声を出す。
「逃げるなんておかしいだろうが! ビビったのかよ!」
「ミト! 悪いが、数は同人数、俺達には土地勘もない、地の利がないんだ……だが、相手は真逆だ──頼む!」
悔しいが、今戦う選択は蛮勇でしかない。スキル持ちの魔物は少なくないが、どちらにしても俺達に不利な状況なのは間違いない。
「わかったよ。誰がしんがりをするんだ! 逃げるなら、時間稼ぎが必要だろうが!」
ミトの質問に俺は、震える拳を強く握り、前をしっかりと向く。
「俺がのこ──」と口にした瞬間、フライちゃんが言葉を被せるように前に出る。
「わたしが残ることにするのですよ。この中で一番強いのは、わたしですからね。異議は認めませんので、すぐに退散してください……本気を出す気はありませんが、皆さんがいては暴れられませんからね」
「な、フライ! ボク達が邪魔って言ったな!」
「にゃあ! 間違いないにゃ! いくら何でもフライ1人じゃ危ないにゃ!」
「いいから行くぞ! ミアとニアもわかってんだろうが、ウチらがいたら、巻き込んじまうような戦い方になるって言ってんだからよ!」
ミアとニアに苦虫を噛んだようにミトが言葉をかける。
悔しそうにしながらも、心配そうな視線をフライちゃんに向けた3人が指示に従い、後方に移動すると、『烈火の牙』の4人を守るようにベリー達と共に後退を開始していく。
「なんで、きんざんさんが残ってるのですか……わたしは1人で大丈夫ですよ!」
「悪いな、俺も悪足掻きだけしてから、逃げるつもりだよ。だから、とりあえず今は側にいさせてくれ」
「分かりました、仕方ないですね。邪魔したら、一週間、麻婆豆腐食べ放題で作ってもらいますからね!」
「今、それをいいのか? まぁ、生きてみんなで飯が食べれるなら、食べ放題の麻婆祭りも悪くないかな! なら、先にいかせてもらうから、俺の後ろに移動してくれ!」
俺の指示に素直に従うとフライちゃんが後ろに下がる。
本来は、まずいやり方なのは理解しているが、緊急事態なので、許してもらいたい……なんなら、後でロゼ君を呼ぶことも考えている。
「行くぞ! 【ストレージ】オープンッ! “海水”」
俺は以前に大量に入れたままにしていた癒しの街[カエルム]の海で手に入れた海水を一気に放出する。
「え、ちょ! きんざんさん!」
予想外の出来事にフライちゃんの声がうわずっているのがわかったが、今さら止める気はない。
「ゴブリンを全部押し流したら、逃げるぞ! フライちゃんいいね!」
「あぁ! 分かりましたから、無茶しないで欲しいです」
フライちゃんからの返事を聞いて、俺は両手を真ん中から左右にゆっくりと開き、正面から全てを押し流す。
木々と共にゴブリン達が吹き飛ばされると俺はフライちゃんの手を握り、先に後退した嫁ちゃん達に合流するために駆け出していく。
「え、ちょ! きんざんさぁぁぁんッ!」
「悪いが、今は逃げることに賛成してくれ、奴らと今戦うのは間違いなくまずい結果になる!」
「どういうことなんですか、説明してください」
走りながら、俺は自分の目で確認した事実を簡単に説明していく。
「あいつらの装備、俺は間違いなく、チーム分けされた冒険者達の中で見たんだ。
量産品かも知れないが、この世界にまったく同じ装備なんてのはいくつも存在しないはずなんだよ!」
「え、待ってくださいよ、それって、どういうことですか、ハッキリ言ってください!」
森の中を必死に走る俺は、口から飛び出しそうな心臓をグッと喉奥に押さえつけるように胸板に力を込めてから、推測を口にする。できたら外れててほしいと願いたい最悪の推測である。
「俺の考えになるんだけど、レイドの最中に抜けた冒険者から剥ぎ取ったか……
もしくは、装備をコピーする力がある奴らなのか、とにかく、冒険者と同じくらいの力をプラスされた奴らなんじゃないかと思ってる」
「落ち着いてください! いきなり、飛躍しすぎですよ、仮にそうだとして、なんで逃げるんですか!」
「フライちゃんなら、間違いなく勝てるだろうけど、確認しないとならないことがあるんだ! 最悪な場合、奴ら、他の冒険者からも装備を奪って進化する可能性があるんだよ」
そんな会話をしながら、俺達2人は足場の悪い森の中を全力で走っていく。
『コックシューズ』を履いていなかったら、間違いなく足を取られて転んでいてもおかしくない。
逆に言えば、こんな足場が悪い森だからこそ、俺達は逃げることができているのだ。
そうしていると、前方が開け視界がしっかりとする。先に後退した嫁ちゃん達と『烈火の牙』のメンバー、さらに複数のレイドチームが拠点にしている地点まで何とか辿り着いた。
「ハァハァ、助かった……フライちゃん、大丈夫か?」
俺が握っていた手の先を見ると髪が乱れて、葉っぱ塗れのフライちゃんの姿があり、慌てたが何ともないようで安心した。
すぐに俺達はギルマスのジールさんに事の顛末と俺の危惧した不安を口にする。
そこまで話すとすぐにジールさんは、冒険者達に武器の状態といなくなった者や未だに帰らないパーティーがいないかを確認していく。
そんな最中、怯えた状態で回復魔法を受けている冒険者がいることと何があったのかが、別の冒険者からジールさんに報告される。
「ジールさん、最悪だ……アイツ、Cランクの冒険者パーティーらしいんだが、戦闘後に攫われたらしい……そいつらは、『邪龍の爪』の連中も抱えていたらしいんだ、かなり前のことみたいだから、もう……」
「くそ! なんで、こんなことに! すぐに救出部隊を編成する! 悪い、キンザン殿……無茶を承知で頼む! 冒険者救出に協力してもらえないだろうか、この通りだ!」
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