189話、ゴブリンの襲撃者
見張り役を任せていたミア達も食事を終わらせたため、俺達も森の中心から深層部に向かい進むことになる。
森から向けられる視線と同時に、複数のゴブリンアーチャーからの矢が襲いかかる。
「くそ、いきなりだな! みんな、気をつけろよ!」
ゴブリンアーチャーの矢が俺めがけて放たれたと同時にベリーが慌てて詠唱を開始する。
「わかってるわよ! “すべてのものから我が身を守り、我が守りは絶対とならん”──防御魔法展開ッ!」
ベリーが口早に詠唱すると巨大な円陣が地面に広がり、全体を包み込むドーム状のシールドが展開するとその場にいた全員を包み込んでいく。
驚きながらも『烈火の牙』の4人が歓声を上げる。
「すごい、こんな大きな防御魔法なんて、どんだけの魔力量があるわけ……」
紫髪の魔導士であるアルラが驚くと同時にベリーに視線を向ける。
そんな視線に気がついたベリーが俺達に向かって声を上げる。
「見てるだけじゃなく、魔法が使えるなら、すぐに牽制の一撃を撃ちなさい! 魔法職はスキルと違って、詠唱が必要なんだから、ボサッとしないの!」
「あ、はい! “揺らめく世界に輝きの刃を”──ホーリーレイ!」
「短い詠唱ね? ある程度、しっかりと詠唱しないと威力半減しちゃうわよ」
アルラの放った小さな閃光を見たベリーからのダメだしに気まずそうな表情を浮かべるがすぐにベリーは言葉を続けた。
「まずは火炎属性の魔法をアレンジすることから始めるのをオススメするわ。他の属性と違って、操りやすいからね。私も最初はそうしたものよ」
「え、あ、アレンジですか?」
「そうよ……皆、防御魔法を解除するわよ! 準備して」
ベリーが呟くと同時にシールドが消えたタイミングで全員が動き出していく。
そうして、一斉攻撃を開始していく。
当然、木の上から俺達を狙っていたゴブリンアーチャーに対して、ミア達が速攻攻撃を開始する。
木に向かって突撃した瞬間、シールドを装備した複数のゴブリン達が茂みから姿を現す。
突然のことに一瞬慌てたように見えたが、それでもミアはシールドゴブリンの頭上を軽々と飛び越えるとゴブリンアーチャーがいるであろう木に向かっていく。
「ガガガ? グガッ!」とシールドゴブリン達が宙を舞うように飛び越したミアに視線を向けた瞬間、ミトが巨大なハンマーを容赦なく真横から振り抜いた。
「ギグガーーーーッ!」という声と共に吹き飛ばされるシールドゴブリンが巨大なハンマーにより木に叩きつけられて無惨な姿に変わり果てる。
それと同時にナギの拳が他のシールドゴブリンへと振り下ろされる。先程まで力任せに突撃してきていたはずのゴブリン達は、既にゴブリンだった物へと潰れて姿を変えていた。
「調子にのんなや! ウチの仲間、狙うなんてのは、このミト様が許さねぇかんな! 小鬼野郎がァッ!」
ドスの効いた声を聞いて俺はいつか見たVシネの女組長を思い出して苦笑いをした。
ただ、笑えるくらいに余裕が生まれたのも事実であり、一気にゴブリンを押し返していく。
空中からの弓矢による攻撃も木の上を移動しながら攻撃を行うミアとニアにより、次々に討伐されていくのが見てわかる。
森での戦いが得意なのは理解していたが、これほどまで圧倒的な流れを見せつけられたら、なんとも言えないなってのが素直な感想になるな。
ただ、油断は命取りになることは既に理解している。だからこそ「周囲を警戒してくれ! 話の通りなら、魔導士系のゴブリンがいるはずだ!」
「ゴブリンマジシャンか、ゴブリンウィザードってことかにゃ! にゃにゃにゃ? 見つからないにゃ」
「ボク達で見つけないと、ゴブリンマージとか、ゴブリンソーサラーって可能性もあるからね! ニア気を抜いたらだめだよ!」
知らない名前がポンポン出てくるな、しらない俺がおかしいのかも知れないけど、ただ、今はそれよりも、敵を探さないと……
「ギガガガガグガッガガッ!」
叫ぶようなゴブリンの声と共に、一斉に投石が放たれる。
無数の拳サイズの石が俺達の頭上から降り注いでくる。
「うわぁ、皆頭を守れ! 急げッ!」とそんな言葉しか出なかった俺の前方にポワゾンが移動する。
「困ったご主人様ですね。この程度のことで慌てられては、こちらとしては、頼りない殿方に見えてしまいます。弱みを見せるのはベッドの上だけでよろしいのですから……」
「変なオチをつけんなッ!」
「オチ? よく分かりませんが、事実ですので」
涼しい表情でそう語った瞬間、俺達の周囲に突風というには強すぎる風が吹き上がりすべての投石を吹き飛ばすと同時に、ポワゾンが悪い笑みを浮かべる。
「そこっ! あと、そこです!」
ポワゾンは悩むことなくナイフを取り出すと風を纏わせると凄まじい速度で複数の木に向けて撃ち放つ。
「グゲガ!」
「グガガガガガガ!」
次々とナイフが命中した瞬間、落下したゴブリンアーチャー達の胸部分には円を描いたような抉った傷が刻まれている。
「ナイフの回収も無事に済みました。さぁ、ご主人様、行きましょう。次の獲物が待ってますから」
狩りを楽しむ笑みを浮かべるポワゾンに心底恐怖した。
だが、むしろこれくらいの方が狩る側に立つなら丁度いいのだろう。
俺達は今、食べるためじゃない狩りを……いや、これは間違いなく“殺し合い”なんだよな……悩むだけ無駄なんだろう、相手はゴブリンだって割り切らないと俺達からも犠牲が出ちまうかもしれない。
この甘さが俺を含めて全員を危険に晒すだろう、そうなったら、俺は自分を許せないだろう。
僅かな間に悩んでは流れていく思考に我ながら嫌になる……日本に居た頃なら、こんな悩むような相手もいなかっただろうにな……
我ながら、自分の曖昧さが嫌になるが、それでも今回の救援依頼を受けたことを後悔したりはしない。
キールさんや、ナタリーさんと話して、俺は助けになりたいって感じた事がすべてなんだと思う。
俺達は可能な時間をすべて使い、森の中を進み、ゴブリン達を殲滅していく。
ゴブリン達の悲鳴と断末魔、返り血、そのすべてが俺の身体に降りかかる。
魔物と割り切っていたゴブリンの血は思っていたよりも暖かく……生きているのだと改めて意識させてくる。
人を襲い、娯楽と快楽で殺しにくる悪魔のような存在にこんなことを考える俺はやはり、まだまだ甘いのだろうが、素直にそう感じてしまっていた。
「「主様……大丈夫ですか?」」
不意にペコとグーからの問いかけに我に返る。
「あ、悪いな、少し考えちまってな……」
「考える? 主様、顔色悪いよ……本当に大丈夫?」
「グーの言う通りです、もし気分が優れないなら、ポワゾン様やベリー様にお伝えしますが」
「ありがとうな、2人とも、ペコとグーに心配かけるなんて、ダメな旦那だよな」
「「そんなことないです!(ないよ!)」」
俺と2人がそんな会話をしている最中、後方を任せていた『烈火の牙』側から「え……」と言う声が聞こえた。
次の瞬間、ハウルの「アルラッ!」という叫び声が耳に入ってくる。
振り向いた先には、背中から血を流して倒れるアルラと抱えながら取り乱すハウルの姿があり、2人を守るように武器を構えるレイトとハインの姿があった。
「アルラ! しっかり、すぐに回復するから、すぐに治すから!」
後方で何が起きたか、分からない俺達にも緊張が走る。
「みんな、周囲を警戒してくれ、何かあれば悩まずに声に出してくれ!」
無言で頷く嫁ちゃん達、俺はすぐに『調理用ゴーグル』をつけると周囲に視線を向ける。
ミアやニア、ナギにミトといった嫁ちゃん達に任せきりだったから罰が当たったのかよ!
俺達の周囲から複数の移動する音がなり、音が次第に近づいてくるのを感じる。
そんな音と真逆の方向にいたペコが何かを感じたのか、盾を前に突き出す。
悩まずに「なんかいる気がする! 吹き飛べ、【シールドバッシュ】ッ!」と誰もいない正面に向けて武具スキルを発動した。
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