187話、レイドクエスト開始
ギルド内に集まった大勢の冒険者達、本来ならありえない鉱山の街でのレイドという事実もあっただろう。
ワクワクを表情にする中級冒険者や危機感を感じている上級者や余裕を見せる中級者まで、幅広い感情が渦巻いていく。
そうして、分けられた6チーム──サポート役も入れれば、総勢約100人の大型レイドが開始されることになる。
金銭目的に参加した冒険者や、甘い汁を吸うために参加した冒険者、ゴブリンにやられた奴らが油断したと高を括っている冒険者など、不安要素も幾つかあるが、それでもこれだけの数が集まった今、負けるなどと考えている者は皆無だろう。
「聞いたかよ、参加で金貨三枚、ゴブリンは通常の倍額で討伐部位を買い取るらしいからな、楽な商売だな」
「間違いねぇな。高ランク目前とか言ってたのに、ゴブリンにやられるんだからよ。ダンの奴らも大したことないよな」
やはりというべきか、簡単なレイドだと勘違いしている奴らが何割か存在しており、やられた冒険者に対して悪態をついていた。
俺はそれがなんとも言えなかった。そう、言葉にするなら、不快だ。すごく不快だと感じてしまっている自分がいるのだ。
そんな俺の心を感じたのかフライちゃんが、俺の肩に手を伸ばしてくる。振り向きざまに首を左右に振られた。
「わかるのですが、今は揉めるよりもあの厄介なゴブリン達を討伐することを優先しましょう。わたしでも、森すべてを吹き飛ばすというのは気が引けますからね」
「サラッと怖いこというのよくないよ……まあ、そうだな。間違いなく、どんな戦力でもいないよりマシだよな」
「そうですね。それにゴブリンの種類もですが、何処で武器を大量に手に入れたのかと、なんでここまで異常な増え方をしているかを確かめないとなりませんからね」
手をぐっと握ってから、それを解き、俺は出発前に一服をしていく。
煙草に火をつけた直後、見慣れ始めたテンガロンハットが視界に入る。
「ようよう。『フライデー』さんは、勝利前の一服ってやつかい?」
軽く冗談めいた口調で笑いかけてきたキールが笑みを向けてくる。
「勝利前だからとか、そういう神頼みとか、楽観的な意味はないよ。ただ、落ち着きたいからって感じかな」
「あるよな。冒険者なりの戦う前の準備は大切だな。邪魔して悪かったな。また、ゆっくり話そう。あと、[ボルドール]のために参戦してくれて、心から感謝する。ありがとうな」
そう語ると、手を軽く上げてから、仲間達がいる方向に歩いていった。
正直、礼儀正しすぎる姿に俺は咥えていた煙草を落としそうなくらい驚いてしまったが、それだけキールからしても、この街を守りたいという強い思いの現れなのだと思う。
「さぁ、きんざんさん。わたし達もそろそろ向かわねばなりませんよ! 早くして下さいね」
フライちゃんに言われてから、吸い殻を“リサイクル袋”に入れ、俺もみんなと合流することになる。
街の入口に集まった冒険者チームはギルドマスターであるジールさんの指揮により、俺達はゴブリン討伐を開始することになった。
既に馬を用意した冒険者の集団がジールさんの指示で先行して周囲の警戒を行っていくそうだ。
「ジールさん。オレらで、先に向かいます。なるべく戦闘は回避しますが、危なくなれば閃光弾を空に放ちますので、そん時は骨くらい拾ってくださいや」
「ふざけんな! やばいなら逃げてこい。死人なんてみたくねぇし、お前らが冒険者を辞めるなんてのは、結婚してガキができてからの話にしてくれ」
「そいつは手厳しいぜ。じゃあ、行くぜ! ジールさん。合流まではしっかりやらせてもらうからよ」
冒険者2チーム、計32人が馬に乗り移動を開始した。
それに合わせて、森での野営も含めての物資を積んだ荷馬車を護衛しながら進んでいく。
荷馬車と共に進む俺達は街から離れていく。次第に小さくなる街の門を見ながら、軽口を叩く冒険者や無言で槍を握る者、周囲を警戒する者と様々だったが、俺達『フライデー』も警戒を怠らずに進む。
「マスター? なんでノロノロと歩くの……皆走れば早いはずなの……ゆっくりは面倒なの」
「わがままいうなよ? お節介野郎もそんなに早く動けねぇんだからよ。それに今回は数で勝負なんだよ」
ドーナとミトの会話に、俺はなんとも苦笑いをする他なかった。
理由としては、俺達に向けられる妬みにも似た冒険者達の視線にあった。
緊張感のない嫁ちゃん達……いや、むしろ、通常運転過ぎるのだ。
ただ、色目を使うような冒険者や言動が下卑た者に対しては、ナタリーさんとキールさんの2人が睨みを聞かせて、必要なら直接注意をしている。
普通に考えれば、冒険者の臨時チームのため、揉め事が少なからず起こることは当然だと思うのだが、それすら許さない2人の存在は、やはり[ボルドール]の顔役なのだと素直に感心した。
まぁ、何よりも嫁ちゃん達は、そんな冒険者達にバレないように武器に手をかけていたので、本当にヒヤヒヤだったことは言うまでもない。
色々とややこしい状況だが、一時間程の距離を歩くことで無事に目的の地点に到着する。
「よし! 各自、先に拠点を作るぞ! 先行していた奴らもすぐに合流するはずだ。それまで警戒を怠るなよ」
ジールさんの言葉を合図に俺達も含めて、拠点を作り、さらに食事のためのスペースを確保してから、水を鍋に入れて、大量の干し肉を鍋の水に浸していくことにする。
そんな様子を不思議そうに見つめる冒険者達、それは俺達とチームになった『烈火の牙』の4人も同様のようで質問してきた。
「あの、なんすかそれ? なんでわざわざ、水に干し肉をつけてるんすか」
質問を口にしたのは、茶髪の剣士“レイト”だった。
「ん? あぁ、これか……早い話が干し肉はそのままだと硬すぎて食べにくいし、何より塩っけが強すぎるからな。水で柔らかくして、ついでに塩気を抜いてるんだよ」
「へぇ? わざわざ、そんなことするんすね……考えたことなかったっす」
どこか後輩感が半端ないレイトについつい笑ってしまった。
そうしていると、テントが次々に作られているのがわかる。
拠点が完成し始めた頃、俺達の耳に響くような声が叫ばれた。
「ゴブリンだ! すごい数がくるぞ、武器を構えろっ!」
声の方角に向けて、走り出すと無数のゴブリン達がウルフに跨り、拠点に向けて突進してくるのがわかる。
「グゲガガガガッ!」
「ガガギガガガゴ!」
「グガガッ! ガググガッ! グガァァガァッ!」
ゴブリンライダーとなったゴブリン達が棍棒を握った腕を振り上げるとウルフの速度に合わせて力強く振り下ろしていく。
ゴブリン単体でも成人男性と変わらない筋力がある。そこにウルフの速度が加わることになれば、その威力はバカにできない。
原付に乗った暴漢にバットで殴られるようなものだ。そのターゲットに選ばれたのは女性冒険者達だった。
「いや、こないで、いやァァ!」
見るからに魔導士系の冒険者だ。装備もロングのローブに背中に背負われた長い杖であり、突然のことに慌てているのが、この一瞬からでも理解できた。
女性冒険者に向かうゴブリンライダーは最初に雄叫びをあげていたリーダーを思わせる一体であり、手に握られた棍棒は他のゴブリンライダー達の物より一回りガタイがいい個体がいるのを確認した。
「失礼な奴らだねぇ。女性には優しく、ゲスに鉄槌ってのが、世界共通認識だと思うんだがな? お前らはゲス側だよな?」
女性の背後から疾風の如く、前方に姿を現したのはキールさんだった。
「吹き飛べ! 【エアーバレット】マックスショットッ!」
キールさんの両手の指と指の間に握られた短い筒から凄まじい風スキルが鎌鼬のように
撃ち放たれたのが空気の振動から分かった。
「ギギギ! ギャアァァァ!」
「グガガガガガガァァァァ!」
前方のゴブリンライダーが風の刃により、切り刻まれると後方を走っていたゴブリンライダー達が即座に方向を変更して二手に分かれてこの場を離脱しようとしていた。
俺達はその片方に向かって即座に攻撃を仕掛けることになり、ミア、ニアの二人が先頭を進むゴブリンライダーを瞬殺すると後続も同様にナギとドーナ達が逃がすことなく始末する。
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