186話、キールとナタリー、冒険者のルールと女の勘
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ギルドはラスタさん達の話を聞いてから、大騒ぎになっていた。
当然だが、ギルドに張り出されたゴブリン討伐依頼について、冒険者達が慌ただしくカウンターに色々な質問を投げかけていく。
「おい、ギルド側として、討伐クエスト以外の方法は取らないのか!」
冒険者であろう男が受付嬢さんに凄んでいるのが見えた。
正直、俺達の手を離れかけていた案件のため、どうしたものかと考えていたが、ギルドマスターのジールさんに呼ばれているとギルド職員から声をかけられる。
ギルド奥の部屋に通された俺を待っていたのは、ギルドマスターのジールさんとほか数名の冒険者風の者たちが椅子に座っていた。
部屋に入った俺達に視線が集まる。
「ヒュ〜、ヤバい連中が入ってきたねぇ。バリオンの有名人じゃないの〜」
視線を向けてきた金髪のテンガロンハットのような帽子を頭に載せた男が口笛を吹いてから、ニヤリと笑って俺達を見つめてくる。
「あ、どうも、それで呼ばれたことについて取り敢えず、応援要請っていう理解でいいんですかね?」
本来ならこんな質問をするのは、お門違いなのだろうが、あくまでもここは[ボルドール]なのだ。
拠点の[バリオン]なら悩まずに嫁ちゃん達に頼んで参戦しただろう。
薄情に聞こえるだろうが、最初に報告した際にすぐに動いていたら、俺の言葉も変わったと思う。
早い話が、最初にいい返事がなかったこと、すぐに動かない[ボルドール]のギルドになんの情もないのが事実ということだ。
俺の態度や言葉が気に食わなかったのだろう。座っていた女冒険者が“バン!”と、テーブルを叩いて立ち上がる。
「アンタねぇ! 今の状況で「応援要請ですか?」だと! そんなこと、わかってるでしょ!」
強く鋭い視線を向けた女冒険者。真っ赤な鎧に背中に背負われた大剣、背中まで伸びた長い茶色の髪を三つ編みにしており、態度さえ良ければ美しい女性だと言える。
「悪いが俺は仮にも冒険者なんだ。ついでに言えば、拠点が[バリオン]ですので、理解してもらえたら助かります」
「アンタ!」
再度、激昂するように怒鳴り声を上げて詰め寄ってくる。
それと同時に俺の言葉を聞いていた嫁達が詰め寄った女冒険者に向けて、逆に詰め寄るようにして睨みつけた。
「なぁ、アンタさ? 冒険者のルールって知ってるのかよ? オッサンの発言が間違ってるなんて思えないんだけどさ」
そう口にしたミアは見たこともないような冷たい視線を女冒険者に向けていた。
「いきなり何を言ってる! 当たり前だ。新人でもギルドのルールなど知っている!」
「違うよ。ボクが言ったのは、冒険者のルールだよ。ギルド規則じゃない……冒険者には暗黙のルールや、最低限のラインがあるだろ!」
ミアの言葉に、女冒険者が眉間にシワを寄せる。
「クッ……アンタ、今の状況を理解して言ってるわけ……緊急事態だって言ってんのよ!」
「だったら、そっちから応援要請と救援依頼、増援要請のどれかを出すのが当然だろ? ボクは少なくともそう思うけど?」
ミアの言葉にその場は一触即発の様相を呈していたが、そんな空気を吹き飛ばしたのは、最初に俺を“有名人”と口にしたテンガロンハットを被った男だった。
「まぁまぁ、ナタリーちゃんさぁ? その子が言ってることは正しいだろうしさぁ……って、ことでだ! ギルマス、依頼出すの? 出さないの? どうするのさぁ」
ギルマスとは、ジールさんのことであり、ナタリーと呼ばれた女冒険者も視線を向ける。
「わかった。キールの言う通りだな。ナタリー、すまない。ワシのミスだ。キンザン殿の言葉や発言などに一切の落ち度はない……」
「はぁ! ふん、わかった。悪かったよ……アンタに突っかかるような態度になっちまった。本当に悪かったよ」
ナタリーさんが意外なほど、あっさりと俺に謝罪してきたため、ミアも既に俺の側でいつものように笑みを浮かべていた。
内心ヒヤヒヤしたが、悪い空気が微かに変わったのを感じた。
そして、次にジールさんが口を開いた。
「すまないが、ワシから改めて、救援依頼という形で頼みたい。報酬についてだが──」
「いえ、報酬は結構です。俺は参戦するべきか否かで悩んでいただけなので」
俺がそんな一言を口にすると、俺の後ろから嫁ちゃん達の“うわぁ〜”と口に出さない視線を向けられた。
「あ……えっと、みんな、勝手に決めちゃったけど? 良かったかな」
「はぁ、ご主人様。ワタシ達は付き従い、すべてを捧げる覚悟でこの身を今も側に置いているのですから、返事はお分かりですね?」
「まぁ、そうなるわよね。ポワゾンの意見に私も賛成よ。キンザンさんに従うわ」
ポワゾンとベリーがそう口にしたと同時にミア達も賛成してくれた。
今回のゴブリン退治に参加することになったため、ギルドではすぐにチーム分けが開始される。
俺達『フライデー』としては、大所帯のため、チームとしては問題ないがそれでも、ジールさんからすればさらに数名の冒険者をチームとして同行させたいらしい。
そして、一緒に同行することになったのは『烈火の牙』の4人。
茶髪の若き剣士“レイト”
紫髪の魔導師“アルラ”
金髪長身のタンク“ハイン”
回復役兼リーダー“ハウル”
未来有望な彼らが臨時のチームとなる。
俺を含めて『フライデー』の11人と『烈火の牙』の4人、他のチームも同様に15人ほどで組まれて行く。
そんなチームが、全体で6チーム作られることになるが、俺はそれでも[バリオン]の冒険者ギルドを考えるとかなり少ないように感じた。
「少ないって感じるだろ?」と、予想していなかったナタリーからの言葉であった。
「あ、えっと……」
「色々イチャモン付けたから、話したくないだろうけど、挨拶だけはしときたくてな。ナタリーだ。『ダークファング』のリーダーをしている」
「改めて、クラン『フライデー』のリーダーでキンザンだ。確かにびっくりしたけど、理由もなく突っかかったわけじゃないだろうし、あれは俺も悪かったからな」
「アンタって、意外に性格悪いでしょ?」
「え? 俺って、そんな風に見えるのか」
「女の勘ってやつだよ。それにアンタは魔性の存在にすら見えるよ。あの嬢ちゃんも、アンタのためなら死んでもいいってくらいの勢いだったからねぇ」
少し、悪い笑みに見えるため、俺は苦笑いを浮かべてしまった。
「死ぬとか、俺はいやだから、そうならないように頑張らないとな……本当に駄目な男だな俺は」
「そうかもしれないねぇ……惚れた男のために死を選ぶような危ない女をあんだけ集めてるんだからねぇ」
「ひどい言い方だな……俺はただ、幸せを守りたいだけなんだがな」
「なら、なんで参戦したんだい? ありがたいが、アンタからしたら、きたばかりの街での魔物騒動だ、無理に参加する義理もなけりゃ、街に愛着もないだろうに?」
「嫌なんだよ。単純に無理難題を横目にしたり、皆で協力すればやれることを傍観して知らん顔ってのがな……」
「やっぱり、アンタは悪人だよ。アンタが参戦したことで、街の冒険者達は逃げ場がなくなっちまったんだからねぇ、さて、長々話したけど、準備しないとね。死ぬんじゃないよ?」
「死ぬ気はありませんよ。ナタリーさんも無理はしないでくださいね。あのゴブリン達はどこかおかしいって、嫁達が言ってましたから」
「なんか、決め手があるのかい?」
「嫁達の女の勘だと思います」
「そうかい、なら、必死に生き残らないとね。ふふ」
「ああ、絶対に生き残ってやろう!」
俺達は笑いながら、しっかりと手を重ねたのだった。
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