185話、冒険者の最悪
慌ただしく回復魔法を使用するハウルちゃんとフライちゃん。
すぐに俺達の横でギルドマスターのジールさんと駆け込んできた冒険者の1人が会話を開始する。
「何があったんだ! ダンがやられるなんて、悪い悪夢のようだぞ」
「俺達だって、こんなことになるなんて信じられないことだったよ……最初は問題なかったんだ、なのに……」
「落ち着け! ラスタ、ゆっくりでいいから話してくれ、なるべく分かりやすくな」
ラスタと呼ばれた男は震えながら口を開いてゆっくりと話し始める。
「俺達は荷馬車の護衛依頼を受けてたんだ。まぁ顔馴染みの旦那からの依頼だったから、安くても構わないって具合にな、ただ、装備はいつも通りだったんだ! 間違いなく雑魚に遅れを取るなんてことないはずだったんだ」
「クエストに関してはワシら側も把握している。簡単な鉱石運搬の護衛だったはずだろうが」
「そうだよ、ラスタ、ダン、デルの3人で護衛クエストは問題なかった……でも、森の真ん中に辿り着いた辺りから、視線を感じるようになり、警戒してたら、大量のゴブリンが一斉に襲ってきやがったんだ」
「な、ゴブリンだと!」
ジールさんがギルドに響き渡るほどの声を上げると、聞き耳を立てていた冒険者や他の野次馬冒険者達も声の方に視線を向ける。
周囲からは「おいおい、ラスタの奴ら、ゴブリンにやられたのかよ?」
「平和なクエスト依頼ばっかりで魔物相手にやられたとか、笑えねぇな」
「バカ、ラスタ達は、Cランク冒険者パーティーだぞ? ありえない話だって事だよ」
そう、ボロボロになっていたラスタという男達は[ボルドール]の冒険者でもBランクに近いCランク冒険者だったらしい。
BとCではかなり実力差があるといっても、実力評価もBランクに近い彼らが大敗して逃げ戻った事実にギルド内がざわめかないわけがないのだ。
「ギルマス、奴らの数もヤバいが、奴らには間違いなく統率をしてる奴がいる。そうじゃなけりゃ、あんな攻撃ありえねぇんだ……」
ラスタさんは、何があったかを話し出した。
△△△
森の真ん中を進む荷馬車とラスタ達、冒険者3人。
「久しぶりの護衛クエストだが、やっぱり退屈だな? ラスタのお人好しにも困ったもんだぜ」
「まぁ、ダン。そういうなよ。俺達が護衛してりゃ、安全に進める道があるなら、悪い話じゃないだろうが、デルもそう思わないか?」
「え? どうでもいいよ。オレは、パーティーリーダーの指示に従って、働いて酒飲んで、店の姉ちゃんと幸せな時間を過ごすのが1番だからな」
そんなデルの言葉に呆れたようにして、苦笑いするラスタ、本当に仕方ない奴だな。
ダンがポツリと呟いた。
「そういえば、俺達が街を出た時にいた女連れてた奴が森がどうのこうの言ってたな? 見た感じハーレム野郎って感じだったが、実力のあるパーティーだったのかねぇ」
ダンの言葉にデルが不思議そうに質問をする。
「珍しいな? ダンが興味を持つなんて、そんなに実力があるようには見えないがな」
「デル、お前なぁ、あの女達は亜人も多くいたし、なんなら、あのデカイ亜人、蛇人族だったか、アイツらの種族は力で全部解決するって話だからな」
「いやいや、ダン。蛇人族だがなんだが知らないが、女なんだろうが?」
「はぁ、女だからだ。蛇人族の女ってのは、強い男にしかなびかないって話しだからな。見るからに人間の男に従うなんて、ありえねぇだろ?」
「なら、奴隷なんじゃないか? それなら、ダンも納得だろ?」
「悪いが、俺もそう思ったが、違うな」
そんなことを話しながらも、順調に進んでいた道中、複数の視線が一斉に降り注ぐ感覚に襲われる。
「なんだ……おい! ダン、デル! なんかくるぞ!」
「言われなくてもわかってる! 俺が前に出るから、ラスタとデルは後ろに!」
「チッ、まったく……簡単なクエストってのはどうなったんだよ! 酒飲んで気楽な護衛のはずだったのによ!」
「デル、ぼやくな! ダンが前方、俺達で左右を、後方にも【探知スキル】を忘れんなよ!」
ガサガサ……ガサガサ……
草木が僅かに揺れる音が次第に取り囲むようにして近づいてくるのがわかる。
緊迫した空気、得体の知れない複数の隠す気のない殺意と欲望を混ぜ合わせたような視線、簡単に人を蹂躙してしまいそうな威圧感が肌をピリつかせていく。
「畜生、なんて日だ……アイツらが言ってたのはこう言うことかよ、クソ!」
「おい、ラスタ……どうする! さすがに荷馬車を守りながら戦うのは難しいんじゃねぇか」
「ああ、わかってるよ。だから、お前が盾スキル【ターゲット】で敵の視線を集めてる間にデルに荷馬車と旦那を逃がしてもらう。支援はしっかりしてやるから頼むぜ」
「かぁぁぁ、損な役を任せやがって! ラスタ、絶対に酒と女を奢れよ! 最高の料理もだからな!」
「わかったって、俺も一緒に楽しみたいからな、絶対に約束は果たすからな」
2人の会話が終わると同時に周囲の茂みが一気にガサガサ……と激しく音を鳴らす。
警戒を強める俺達、そんなダンの斜め上から鋭い矢が数発放たれる。
「なっ!」
ダンが一歩後ろに足を引いた瞬間、正面から三体の“シールドゴブリン”が突進してくる。
それに合わせて、俺はすぐに前方に【水弾スキル】を撃ち放つ!
「ギギャ、ガガガガ!」
「グゲガギガ!」
水弾が二体に命中した瞬間だった。俺の真横から炎の球が放たれる。
「な、うわぁ!」
「チッ! ラスタ!」
前方から突進してきた“シールドゴブリン”に掴まれたままのダンが力いっぱいに身体をひねり、火球に盾を握った手を伸ばして火球を塞ぎきる。
その瞬間、“シールドゴブリン”がニヤリと笑ってやがった。
「ギギギ、ガッガッガァァァ!」
次の瞬間、ダンの背中側に無数の矢が撃ち放たれて、命中していく。
頭部に命中した矢はヘルムにより、弾かれたがそれでも、ダンに命中した矢が只ならぬダメージを与えたことは間違いない。
「ダン! 大丈夫か」
「だ、大丈夫に見えるか、痛えな、ちくしょうが……」
俺達は間違いなくゴブリンと戦っているはずなのに、敵対している感覚は間違いなく軍隊か、それに近い訓練された武装集団のようにすら感じる。
「ラスタ……俺がスキルを発動させたら、すぐに逃げろよ……酒と女、美味い飯はツケにしといてやるからよ」
「お前、何言って!」
「はぁッ! 【オールボム】!」
ダンの発動させたスキル【オールボム】は、ダンの最大スキルであり、さらにダンの体力を極限まで減らし激痛が伴うスキルだった。
ダンが自ら「自爆スキルのようなもんだ」と言っていた最後の手段、それを発動させる。
激しい光と共にダンの前方が灼熱の閃光に包まれていく、木々が吹き飛んでいく。
ダンにしがみつき、足止めをしていた“シールドゴブリン”も同時に吹き飛びと同時に俺の真横で、茂みがバサと開かれる。
慌てながらも剣を構えた俺に「俺だ!」とデルが姿を現す。
「デル! 馬車は、旦那は!」
「大丈夫だ! 森の入口まで馬を飛ばさせてきた。さっきのはダンのスキルだろ! 急ぐぞ」
そうして、俺達はボロボロのダンを2人で運び出しながら、森から脱出することになった。
追撃を警戒したが、なぜか俺達に向かってくるゴブリンの姿はない。むしろ、追撃を避けられたとすら感じるほど、すんなりと撤退することができた。
森の入口付近で待機していた馬車と旦那が慌ててギルド前まで運んでくれて、2人でダンを馬車から下ろして、今に至る。
正直、死んでもおかしくなかったと思った。
そう語ると、ラスタは気を失った。
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