184話、ギルドにて……
意識がほぼ無い状態の冒険者に歩み寄る俺。普段なら止めに入るであろう。
だが、嫁ちゃん達も、最初に冒険者達がポワゾンをバカにしたような態度を目の当たりにしていたためだろう。誰1人止めようとはしなかった。
むしろ、ミト、ナギ、ドーナの3人を必死に止めている嫁ちゃん達の姿が視界に入る。
まぁ、今さら止められても止まる気はないんだがな。
俺は自分がこういう時、本当に小心者なんだなと感じる。嫁のために怒っているのも事実だし、こういった連中が嫌いなのも本心だ。
だが、本来なら少し痛めてつけてから、話し合いってのが一般的な考えなんだろうと思うのも、また事実なんだよな。
「悪いが、俺は善人じゃないし、自分の大切な存在を奪われそうになってニヤニヤしたり、泣き寝入りするくらいなら、完全な悪人になる方を選ぶタイプなんだよ」
気絶寸前の3人組冒険者に向けてそう語った直後、[ボルドール]のギルドから職員が慌てて外に走ってくる。
「お、お止めください! これ以上はやりすぎです」
俺に向けて男の職員が額に汗を流しながら、止まるように言ってくる。
「なぁ、アンタ? さっきもギルドの中で話を傍観してた1人だよな、違うか?」
「いや、あの、確かに居ましたが……別の業務をしていたと、言いますか……」
「その時にこいつらを止めていたら、こんな大事にならなかったんじゃないか?」
男性職員は黙ったまま下を向く。少し呆れてしまう。
俺は怒りを抑えられない状態になっていた。
落としどころがない今の状況で、俺が止まれば済むだけの話なのだが、内心は納得いかないというほかない。
緊迫した空気を吹き飛ばすように、さらにギルドから女性職員が飛び出してくる。
飛び出してきたのは最初に俺の対応をした受付嬢さんだった。
「はぁはぁ、キンザン様、すみません! 遅くなりましたが、マスターが話を聞きたいとのことです……が、あの?」
そう言われた俺の背後からフライちゃんが肩をツンツンと小突いてくる。
「この辺が無難な落としどころですね。このままだと、止まるタイミングを逃してしまうように感じますからね」
「わかったよ。俺もやりすぎたかもしれないな……」
小さく呟いた俺は、ただ、嫁ちゃん達からは真逆の反応を返されてしまった。
「もっとやるべきだったんだよ! オッサンは甘いんだよ」
「そうにゃ! ニアだったら、奴らをギタギタにしてやるにゃ!」
「ナギも、頭から噛み付いて砕いてやりたかった!」
「ナギちゃんの言う通りなの! ドーナの鎌でスパスパにしてやるの!」
物騒極まりないセリフを聞きつつ、俺達はギルド奥に作られた応接間に通された。
室内で僅かに待った後、扉がノックされた。
「入らせてもらう」と扉が開かれて入ってきたのは小柄なガタイのいい男性だ。
どこかで会ったような雰囲気のある男性の顔をよく見て俺はある結論に辿り着いた。
俺は小さな声でミアに向けて確かめるように問い掛ける。
「あの人、アンリさんに雰囲気が似てないか……」
「身長はともかく、ドワーフなんて顔の雰囲気は皆一緒だろ? まぁ、アンリはかなりエルフ寄りな気もするけど」
部屋に入ってきた男は、俺を含めその場にいた嫁ちゃん達を見てから、深いため息を吐いた。
「アイツら、なんて奴らに喧嘩売ってやがんだ。バカタレどもが! [ボルドール]のギルドを代表して謝罪する。迷惑をかけたみたいですまなかった。許してほしい」
会ったばかりの俺達に向けて、頭を下げた男に俺は毒気を抜かれてしまった。
「あ、いや……俺もやりすぎたから、なんか、すみません」
互いに謝罪から入った挨拶に退屈そうにドーナが口を開く。
「つまらない話はいいの! 早くゴブリン達の話をするの! これ以上長いのは我慢できないのーーーー!」
容赦ないワガママぶりでギルド側の代表を睨みつける姿に俺は慌てて謝罪を口にすることになり、そんなやり取りからすぐに男の方が本題に入ってくれた。
「自己紹介から始めさせてもらう。ワシはこのギルドのマスターをしているジールってんだ。最初に言ったが、バカタレ共が迷惑をかけてしまったが、ギルドとしては敵対する気なんかねぇんだ。わかってくれ」
「ジールさん。それは理解してますから、改めて、クラン『フライデー』のリーダーをしているキンザンです。奴らが勝手に仕掛けてきたことは理解してるんで……」
軽い雑談から、すぐに本題に入り、俺達は[ボルドール]から近い森で起きたゴブリン達について報告をしていく。
「ゴブリンが? うーん……だが、言ってもゴブリンなんだよな? 特殊な個体っていうよりは、上位種がって話なんだよな?」
「まぁ、そうなるな」
「うーん……ゴブリンってのは、武器を手にさて使い続けることで“ソード”や“スカウト”、“アーチャー”なんかになるからな……一概に何かがって話になるとなぁ……」
ジールさんは困ったような顔を浮かべ、立派な顎髭を触り悩むように目を瞑る。
数秒の間、悩んだジールさんは、他の職員に何かを指示するとすぐに職員が部屋から駆け足で出ていく。
数分の間で戻ってきた職員が一冊の本を俺達の目の前に開いておいてくれた。
開かれていたのは、ゴブリンのページであり、武器を手にした結果、どのように変化するのかがしっかりと書かれており、それを全員で確認していく。
「まぁ、見ての通りだ。これを見たらわかるだろうが、ゴブリンは武器を使えば変化する。だから、ゴブリン達が武器持ちでも、騒ぐほどのことじゃない……ってのが、ギルド側の考えになるんだ」
ジールさん側でも、多少の話を聞いて、どうするべきかを考えていたらしい。
本来は間引き対象程度の魔物のため、これが普通の反応で間違いないが、俺には以前、オークリーダーから、オークジェネラル戦まで発展した過去があるため、それでも納得することができなかった。
「分かりました。なら、俺達はもう何も言いません。確かに、心配し過ぎだったのかもしれませんし。ギルドの判断にこれ以上、一冒険者が口を出すわけにはいかないですから」
「あ、いや……なんかすまないな。本来ならキンザン殿の言い分を無下にするような真似はしたくないんだが……なんせ、ゴブリンってのがな。とりあえず、ゴブリンの巣ができていないかだけは調べさせるつもりだ。すまない」
「いえ、俺達は王都に向かう予定なので、これで失礼します。ジールさん。色々すみませんでした」
話し合いが終わり、立ち上がる俺を見送るようにギルド入口まで案内してくれるジールさん。
クエストとして、森の魔物を間引くためのクエストがすぐに張り出されたのでこれで大丈夫だろう。
そんな俺達にハウル達『烈火の牙』の4人が声をかけてきた。
最初に声をかけてきたのは、『烈火の牙』で唯一の男性であるレイト君だった。
「あの、ありがとうございました! オレ、あの時、本当に死んだかと思って、全部終わってからもすぐに御礼を言えなくて、すみませんでした!」
明らかな体育会系のノリで全力の感謝をされたので俺も軽く頷いた。
「いや、俺も最初はゴブリンに殺されかけたからな、気持ちはわかるから」
そんな感じに軽く話をしていると、ギルド入口から男達が勢いよく走ってくる。
「はぁはぁ、誰か! 頼む回復薬か、回復魔法、スキルを頼む! ダンが死んじまう!」
突然のことに驚かされたが、血塗れの冒険者を2人の冒険者が担いで入ってきた。
「私がやります! レイト、テーブルどかして」
ハウルちゃんが、レイト君に指示を出すと同時に俺達もすぐにテーブルをどかしていく。
「きんざんさん。わたしも回復に参加します!」
フライちゃんも参戦し、ハウルちゃんと2人で冒険者達に回復魔法とスキルを開始した。
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