182話、ゴブリンの恐怖と寝ずの番
ゴブリン相手に遅れをとった事実を悔いているハイン、だが、彼女もまた冒険者であり、ただ後悔するだけの女性ではないようだ。
「すみませんでした。ハウルちゃんも、皆もごめんなさい。取り乱しました……」
謝りながら、自分が守っていた母娘にも頭を下げる。
「お姉ちゃん、大丈夫?」と、ゴブリンに一度は連れ去られそうになった少女が心配そうに声を掛けていく。
少女からすれば、なぜ、ハインがこれほどの後悔と謝罪の言葉を並べているのかが理解できない歳なのだろう。
あまり語りたい話ではないが、ゴブリンとは、俺が日本で知る通りの習性があり、オスは食料として、メスは交配のために使う。
あのまま、母娘が攫われていれば年齢に関係なくひどく歪な行為に繋がっていただろうことは想像にかたくないからだ。
わざわざ、口に出す気はないため、ただ、謝るハインの姿を再度見守り、落ち着いてから[ボルドール]へと移動を再開する。
少なくとも半日程の間に歩き続けることになり、その間も執拗にゴブリン達が襲撃してくるため、思っていた以上に移動距離を稼ぐことができなくなっていた。
俺は吸いたい煙草を我慢しながら、寝ずの番に入ることになる。
本来なら、夜になるまでに[ボルドール]へと辿り着けると考えていたが、結局、森で野営をすることになってしまい、今に至る結果になった。
野営中も複数の視線が値踏みするように感じられる。ただ、俺を含めて嫁ちゃん達が警戒をしているため、仕掛けて来ることはない。
こちらが睡魔に負けるのを待っているのか、もしくは交代のタイミングを狙っているのかは分からない。だが、不可解なのは、ゴブリンが本能を無視する形で俺達の隙を狙っている事実だろう。
本能に忠実な種であるゴブリン達は、少なからず、女性を見つければ、見境なく襲ってくるのがセオリーであり、我慢できても数分で少ない理性が吹き飛ぶ程度の頭しかない連中だ。
「わかんないんだよなぁ……」
そう言いながら、俺はエア煙草を吸うように仕草をして思考する。
「ご主人様、我慢せずに吸えばよろしいかと。既に敵から見張られているのですから、待つ身としては、煙草のニオイ程度、既に危険の誤差でしかありません。何より焚き火をしていて、ニオイを気にしても意味がないかと」
「そうか、ありがとう。とはならないからな? さすがに今、リスクをプラスアルファする気はないからな」
とんでも発言をしてくるポワゾンにそう口を開くとクスッと笑みを返される。
「その我慢が他の女性に接する際にもあれば、種馬卒業なのですが、ご主人様は野獣ですから、仕方ないのでしょうが」
「誰が種馬で、誰が野獣だよ! 寝てるとはいえ、幼い子供もいるんだから、そういう発言は控えろよな、ポワゾン……」
「冗談です。さすがのご主人様でも自制が効くか確かめてみただけですので、ご安心ください」
焚き火に照らされて会話をしていると、ガサガサっと草木を踏みしめる音が鳴り、音のなった方に視線を向けながら武器を構える。
「ボク達だよ。攻撃しないでくれよ。オッサン!」
「ニア達がいない間になんで、二人でイチャイチャしてるのにゃ、不公平だにゃ!」
「チッ、次はこのミト様が絶対にパーで勝つんだからな! 絶対だからな!」
ジャンケンに負けた見回り組が無事に戻ってきたので、俺は安堵した。
バラけるのには反対だったが、見回りがいない方が今回はリスクが高まるという話になり、俺はこの場で待機して、非戦闘員の警護をすることになっている。
ついでに言うなら、今いるポワゾン、ミア、ニア、ミト以外の嫁ちゃん達と冒険者パーティー『烈火の牙』の子達も休んでもらっている。
こればかりは、野営の経験があまりない冒険者達に命を預けたくないため、俺達が自ら見張りを言い出してこうなっている。
まぁ、『烈火の牙』の方もさすがに会ったばかりの俺達を完全に信用しているとは思えないので、狸寝入りか、身体を休めるだけになっているのだろうが、横になるだけでも、僅かながら体力的な回復に繋がるので、悪くはないだろうと思う。
ミア達が戻ると同時に俺達に向けられた視線がピタりと気配ごと消えたのがわかった。
「やっぱり納得いきませんね。ゴブリンは多勢だろうが、獲物を前に我慢などしないものです……警戒は最大限にしておかねばなりませんね」
ポワゾンの言葉を聞いて、再度寝ずの番を続けていくことになる。
日が昇る前段階で、フライちゃんの時間操作の結界により、俺達は睡眠を取ることに決めていた。
全員を結界に入れて睡眠を取る案も考えていたが、それはフライちゃん本人により否定的な答えをもらう結果になった。
「きんざんさん、わたしの力は本来、人に知られてはならない力になります。そして、今いる人々には申し訳ないのですが……もし仮に時間を停止した結界から出てしまえば、さらに危険な状況になります」
「言いたいことは理解したよ。軽率な提案だったって反省だな」
「いえ、本来なら正しい判断なのかもしれません。ただ、今回は、わたし達以外の人が多すぎると言うだけの話ですね」
会話を早々に切り上げてから、俺達は睡眠に入ることにした。
時間が停止した結界の中でしっかりと睡眠を取れることは冒険者としてはありがたいというほかないだろう、本来の野営は魔物や野党を警戒して熟睡などできないからだ。
俺達は改めてチートな嫁に救われているのだと自覚する。
しっかりと熟睡しても、結界は継続しており、俺はその状況を利用して手早くハムサンドや野菜スティックを作り、【ストレージ】へと収納していく。
匂いの強いスープなどは今回は作らず、本当に素朴な料理になるが朝食と考えるなら、まぁ、無難だろう。
それから、結界をフライちゃんが解除してから、再度、周囲を警戒してゴブリン達がいないことを確かめてから、夜明けを迎えると同時に出発する。
歩きながら、非戦闘員の人達にハムサンドなどを食べてもらうことになる。
移動しながらの食事は不慣れなのか、少し戸惑ったが、ゆっくりと座って朝食という具合に時間を使うことができない状況のため、我慢してもらう。
それからゴブリン達からの襲撃はなかったため、俺達は無事に森から抜けることができた。
森から抜けた瞬間、俺達以外の全員が歓喜に震えるように喜びを感じていた。
攫われかけた母娘も抱き合いながら、涙を流して喜ぶ姿に少し涙腺が潤んでしまったことは内緒だ。
そうして、俺達は急ぎ[ボルドール]を目指していくことになる。
鉱山の街[ボルドール]へと向かう道中に荷馬車が反対からやってきたため、一度止まってもらう。
突然、馬車を停車させたため、荷馬車を護衛していた冒険者達と対峙する形になったが、森での出来事を説明すると荷馬車側の冒険者達は耳を疑ったように再確認してくる。
「その話は本当なのか!」
冒険者の男に聞かれたので、俺達は頷くと、冒険者達は雇い主であろう荷馬車の主と相談をしているのがわかった。
どちらにしても、俺達は[ボルドール]の『冒険者ギルド』を目指すことになるため、仮に彼らが森を突っ切る気ならば、気をつけて欲しいとだけ伝えることにした。
案の定、荷馬車と冒険者達は俺達を警戒しながら「[バリオン]を目指す」とだけ言うと俺達の前から移動していった。
若干の不安を感じながらも、俺達も[ボルドール]の『冒険者ギルド』へと急いで向かっていく。
ゴブリンに遭遇した森から、街までは一時間程度で到着することができた。
俺達は本来の目的である教会を通り過ぎてから[ボルドール]のギルドへと入っていく。
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