181話、フライデー参戦
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俺達の前方でゴブリンの大群を相手に必死に馬車を守りながら戦う冒険者パーティー。
見るからに駆け出しだろうか、俺は過去の自分が遭遇した恐怖を思い出してしまっていた。
ゴブリン以上の相手とは何度も戦闘になって勝利しているため、負けるはずがないことも本能で理解はしている。
「おーいッ! 大丈夫かぁぁぁぁッ!」
声をかけて近くへと移動して、すぐにミア達と共に戦闘態勢に入る。
【ストレージ】からミトの巨大ハンマーを取り出すと同時に冒険者の女の子から声をかけられる。
「すみません! 情けない話ですが、手を貸してもらえますか! どこかにゴブリンアーチャーが隠れてるみたいで」
指揮をしていた女の子冒険者がそう口にした瞬間、俺は無言で頷くと【食材鑑定】を発動させて生物に対象を絞り、周囲を見渡していく。
『調理用ゴーグル』を装備しているため、それはすぐに“食用不可”という表示と共に場所の特定ができた。
「右側の木の上と左側の林にゴブリンアーチャーが1体ずつだ!」
俺の声に反応したミトが大木に目掛けて、「任せろよ! ミト様の一撃は痛えぞ!」と叫びながら、巨大ハンマーを勢いよく振り被り、全力で木の幹を強打する。
“ズゴンッ!”という音を鳴らすと振動した木の上から落下してきたゴブリンに向けて邪悪な笑みを浮かべたミトはその頭部を容赦なく粉砕させる。
ゴブリンアーチャーから「ギガァガガ!」と断末魔が聞こえたと同時にピクリとも動かなくなった姿を見て他のゴブリンが焦り出す。
しかし、今更、焦っても何も変わらないだろう。なんなら、林側に潜伏していた、もう一体のゴブリンアーチャーもミアにより、既に瞬殺されているのだ。
そこからは、近接戦となったが、最初こそ、四人の冒険者パーティーを圧倒していたゴブリンの群れも俺達『フライデー』が参戦した結果、あっさりと討伐することができた。
「よしゃ。勝ったなオッサン」
「ニア達がいたら楽勝だにゃ〜魔石を剥ぎ取るにゃ」
ミアとニアはいつも通りにゴブリン達から魔石を回収していく。
ただ、そんな絶命したゴブリンに俺は違和感を感じていた。楽勝だったことは変わりないのだが、普通のゴブリンと考えるとやたらにタフであり、力もどことなくだが、強かったように感じられたからだ。
「悪い、先に少し済ませたいことがあるんだ」
俺はその場の全員から視線を向けられることになったが、それを無視して、すぐに【食材鑑定】を行うことにする。
【食材鑑定】で個体を対象にした情報が表示されていく。
・食材個体種族名──ゴブリン『ゴブリンソード』
・食用不可──肉は硬く不味い。食用として加工不可。
・捌き方──……
ここまで見て、わかったことは、このゴブリンは見た目は同じだが、“ゴブリンソード”という別種類である事実で、俺はすぐに他のゴブリンに対しても【食材鑑定】を発動する。
まぁ、結果から言えば、通常のゴブリンではなく、名前の通りゴブリンの上位職であり、他のゴブリン達を【食材鑑定】した結果も“ゴブリンスカウト”や“ゴブリンの見習いウォーリアー”といった聞き馴染みのない個体だった。
「こいつはまた、どうなってんだ……ゴブリンの進化版ばっかりじゃないか」
「なぁ、オッサン? これってさ、ギルドに報告した方がいい案件なんじゃないかな?」
「そうなんだろうが、うーん」
俺が悩んでいる理由は、今この場から離れてギルドに報告に向かう場合を考えていたからだ。
仮に今から、ギルドに報告に向かうとして、俺達がこの場を離れるのは、あまりよくないように感じる。
なぜなら、馬車は車輪が壊れているため、放置になるだろう、乗り合い馬車の乗客は6名、馭者さんが1人。
つまりは、非戦闘員である一般人が7人もいる状況で戦力の分断をするべきなのか、悩んでしまっていた。
そうして悩んでいる間にベリー達も到着する。その場で今の状況を説明していくことにする。
話を聞いてから、ベリー達も同様に思考してくれることになり、俺達はとりあえずの決断をした。
「なら、今から[バリオン]に戻るよりも[ボルドール]に向かう方がいいんじゃないかな?」
ベリーの言葉に俺も納得する。今の地点から考えれば、歩いて一日もしないで[ボルドール]に到着できるだろう。
逆に[バリオン]を目指すなら、二日程の位置にあたるため、間違いなく近い方を選ぶ他ないと結論を出した。
そのため、まずは確認をすることから始めた。
つまりは、今の馬車護衛クエストを受けている冒険者パーティーの4名に相談してみることにする。
「悪いな。君達のクエストは馬車の護衛クエストだろうから、今さっきの[ボルドール]までの護衛継続の件なんだが? どうする」
俺は冒険者パーティー『烈火の牙』のリーダーである赤茶髪の少女と話していく。
「私達も今回のクエストは、既に失敗したと考えています。だからと言って、私達『烈火の牙』もクエストを失敗したからと投げ出す気はありません」
「それを聞けてよかった。なら、改めてよろしく頼む。[バリオン]に拠点を置く調理師クランの『フライデー』リーダーのキンザンだ」
「あ、はい! 改めて、あ、いえ、改めまして! 『烈火の牙』のリーダーでハウルです!」
とりあえず、互いのメンバーを紹介してから、[ボルドール]へと向かうことにする。
ただ、やはり、移動している際にも無数のゴブリン達からの襲撃があり、異常な執着心に俺達はさらされることになる。
移動を開始してすぐに、ウルフに乗ったゴブリン達が俺達に向けて奇襲を開始してきたのだ。
最初同様に、ゴブリンアーチャーが無数にいるのか、矢が次々に放たれていき、馬車の客であった一般人をターゲットにしているのか、嫌な位置に矢が放たれる。
盾役を『烈火の牙』のタンクである金髪長身の少女ハインとウチのフライちゃんが担当してくれた。
ゴブリンの弓矢程度でフライちゃんの結界を突破できるわけもなく、矢が地面へと落下していく。
しかし、こんな完璧な防衛陣を作っているにも関わらず、最悪な事態が起こってしまうことになる。
ゴブリン達の攻撃が激しくなる中、ゴブリンライダー達が結界に特攻を開始する。
フライちゃん側の結界は問題なく防衛していくが、ハイン側が僅かに押され始めていた。
その事実に気づいていなかった俺達、そして当然ながら、そんなハインが足元を狙われて体勢を崩すと次の瞬間、数匹のゴブリンライダーがハインに向けて、棍棒を手に襲いかかっていく。
「ギガガガガガガッ!」
ゴブリンの叫び声と同時にハインに向けて放たれた一撃が兜越しに顔面に炸裂する。
「うわぁぁぁ!」という叫びと同時に“ガギンッ!”と衝突音が鳴り、ハインが倒される。
そして、ハインの背後で震えていた幼い女の子と母親の2人がゴブリンライダー達により攫われてしまう。
すぐに体勢を立て直したハインがゴブリンライダー達に向かって走り出す。
「待て! 誰か、アイツを止めてぇぇぇ!」
ハインの叫び声にナギが即座に反応すると凄まじい速度でゴブリンライダー達の前方に移動して、鋭い爪を振り翳す。
ギリギリでゴブリンライダー達を撃破することができたので、安堵していたが、突破されたハインは精神的にかなり追い込まれてしまっていた。
「ごめん、私が……私が……」と悔しさに涙を流す姿に俺は無言で見つめることしかできなかった。
犠牲者が出なかったから良かったと一言で片付けるには、まだ精神的に幼い彼女には辛すぎる現実なのだろうことが理解できたからだ。
タンクと言っても、まだ俺から見れば年端もいかない子供達であり、必死に戦った結果、守るべき対象が一瞬だとしても攫われた事実を受け止めるのは容易くはないのだろう。
ハインと呼ばれた金髪の長身な少女はきっと強くなるだろう。後悔と悔いのどちらも人を強くすることは間違いないのだから……
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