179話、馬車の冒険者とゴブリンの森
一般人の足で二日から三日の距離を俺達は気楽に進んでいく。
最初こそ、急ぎたいからと口にして、『冒険者ギルド』をスルーしたが、実際は俺達『フライデー』が『冒険者ギルド』に向かうと、受付嬢さんから、他に溜まった厄介事を頼まれないとも限らないからだ。
実際に俺達はクエストを完全に免除されている事実があり、調理クランとして活動しているため、冒険者として登録はしているが、あくまで仮と言える状態になっている。
すでに所属し続ける必要はないのだが……やめるにやめられないのが日本生まれの性なんだろうか?
ただ、そこにかんしても色々と助けたり助けられたりと持ちつ持たれづな付き合いをしているため、割り切っている。
まあ、一つ言うなら、馬車を使えないのが辛いというくらいだろうか?
少なくとも[バリオン]という大きな街に馬車がないなんてことはないのだが、ナギを乗せられるような馬車はないだろう。
さらに一台の馬車で移動は難しく、4人乗りか、6人乗りの馬車でも、二台か三台の馬車が必要になるのだ。
もっと言ってしまえば、馬車の座る位置や台数、馬を操るための馭者と……馬車を選択した場合、厄介極まらないとしか言えない。
そうして、今に至る。
整備されているのだろうが、次世代の道路を知る俺からすれば、ガタガタの道で馬車が踏みしめて作られた溝にも小石が幾つか確認できる。
と、まあ、退屈な話になるが、貿易が盛んな[バリオン]から続く道すらこんな感じなのだ。
俺達がマイペースに進む横を[バリオン]の方角からやって来た馬車が駆け抜けていき、ガタガタと車体を揺らしながら、次第に小さくなり、馬車の姿が遠くなっていく。
「あれは乗り合い馬車ってやつか?」
「はい、ご主人様。あのサイズですと、10人乗りでしょうか? 4人が護衛の者となりますでしょうから、実際は6人乗りで馭者も1人おりますし、正式には11人乗りの馬車ですね」
11人乗りの馬車で6人しか乗れないって、なんかあれだよな?
「護衛が必要なくらいこっちの道は危険なのか?」
「危険──と言えば、危険かもしれません。防壁に守られた街の中ならば話は違いますが、このような場所で、突然の魔物と遭遇からの戦闘となれば、厄介ですからね。
ですので、最初から戦闘があると仮定して護衛をつけて移動するのが乗り合い馬車というものになります」
ポワゾンは付け加えて、馬車だけを借りた場合、護衛料金は浮くが、馬車が壊れたりしたら買い取りか修繕費を多額に要求される事実も教えてくれた。
知らなかったが馬車を借りる場合は、貸し手の指定した冒険者や護衛を雇うことになるらしい。
まぁ、馬車を借りなかった理由はこんな感じだろう。
「ぎんざんさん、あの……」
小さく俺にだけ聞こえるような声で問いかけてくる。
「どうしたの? フライちゃん」
「あのですね、少し気になることがあるのですが」
フライちゃんが俺に質問をしようと耳に顔を近づけてくる。
しかし、問いかけが俺の耳に響く前に前方からミトが大声をあげる。
「おい! あれヤバいだろ!」
「ミトどうしたにゃ? はにゃぁ! 馬車が襲われてるにゃ」
声の方角を確認しても俺の裸眼では確認できない。
すぐに『調理用ゴーグル』を【ストレージ】から引っ張り出して確認する。
「おいおい、なんだあれ……ゴブリンが馬車を襲ってやがるのか?」
視界に入ってきたのは、馬車を守ろうとする数名の護衛であろう冒険者と襲いかかる10体前後のゴブリン達だった。
俺の神経に刻まれた「ギギガガガッ!」「ガガ、ギギグ!」「ゲゲッガ、ギギガ!」と嫌なガ行を使った会話がされているのが聞かなくても想像がつく。
だが、そんなゴブリンよりも、気になったのは冒険者達だろう、見れば危なっかしい剣筋でゴブリンに斬りかかり、バカにされるように躱されて小さな切り傷が刻まれる。
「はぁ、あれはマズいよな? 仕方ないか、悪いナギ、俺をあの場所まで連れていってくれないか!」
「わかった。でも本当にいいの? 危ないかも」
軽い心配を口にする優しいナギに俺は軽く微笑むと納得したようにナギが俺を抱き抱える。
「わかった。捕まって、マイマスター」
「ドーナも行くの!」と、声を出して影に入り込むドーナ。
「ボク達も行くよ!」
「はいにゃ!」
「かぁ、仕方ねぇな! ウチも行ってやるよ!」
「3人も悪いな、助かる。ペコとグーは、周囲を警戒してくれ、ゆっくりでいいから、後に合流してくれ」
「「分かりました!」」
俺とナギ、ミア、ニア、ミト、ドーナは、一気に馬車に続く道を駆け抜けて行く。
距離にして、五百メートル程度だろうか、本来徒歩なら七分くらいの距離だが、ナギは風を置き去りにしているんじゃないかと感じさせる速度で移動していく。
ナギと並走するミア達もさらに速度を上げていく。
「久しぶりのゴブリンだな……はぁ、気合い入れないとな」
俺は来たばかりの頃にゴブリンから命を狙われて死にかけた経験がある。
そのせいか、今の俺なら問題なく倒せるはずのゴブリン達に対して心拍数が跳ね上がっていくのを感じた。
「オッサン、安心しろよ! ボクがゴブリンを全滅させるからさ!」
「にゃ? ニアもだにゃ。一番ゴブリンを倒すのにゃ〜」
「チッ! 旦那様のためだから、やってやるよ! やるなら、一番倒すのがミト様なんだよだ!」
「ニャニャニャ! なら、誰が一番倒すか勝負だにゃ! 一番ゴブリンを倒した人がキンザンから頭ナデナデのご褒美だにゃ!」
「ナギも参加する!」
「ドーナもやるの! ナデナデはドーナのものなの!」
なんか、知らないけど、嫁達が悪い顔になり、一気に加速する。
知らない間にご褒美にされたが、俺なんかに撫でなれても、あんまりだろうに、なんだかなぁ……
△△△
「くそ、ゴブリンが生意気なんだよ! アルラ、火炎魔法を頼む!」
「無理よ! こっちも攻撃されてるの、詠唱なんかしてたら、やられちゃうわよ!」
「ハウル、アンタの攻撃スキルを使いなさいよ! 私達の中で魔法スキル持ちはアンタでしょうが!」
「クっ、アルラも、レイトも揉めるなよ! 皆、落ち着け! 悪い、ハイン、アタシだってスキルを発動したいけど、こんな混戦してたら、放てないっての!」
見た感じ、十代の若い男女パーティーのようだ。
茶髪の男性剣を手にしており、ゴブリンに斬りかかる姿から戦士だろう。
両手剣を必死に振りながら、ゴブリンを翻弄しているようだ。
紫髪の少女
杖を使い、必死にゴブリンからの攻撃に耐えているのがわかる。魔法使いだろうか?
ただ、魔法詠唱が出来ないようにゴブリン達が取り囲んでいる。
金髪の身長高めの少女
盾を手にゴブリン達からのターゲットを一番集めている冒険者だ。片手剣を装備しているが、見た感じあまり使いこなせていないように見える。
赤茶髪の少女
メイスと片手用の盾を装備しており、攻撃系のスキルを有している存在。
指揮を担当しているようで、パーティーリーダーであろうことが理解できる。
と、まぁ……年端のいかない冒険者達を前にして、見捨てるような存在になる気は無いからな。
「おーいッ! 大丈夫かぁぁぁぁッ!」
俺の声に4人の冒険者が視線を向けた途端、何故か顔を青ざめさせるのが理解できた。
視線の先に俺とナギ、さらに複数の殺気を放つミア達の姿があり、冒険者達だけでなく、ゴブリンすら慌てているのがわかった。
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