178話、修道娘リーフと鉱山の街[ボルドール]
目覚めた修道娘を落ち着かせるため、水を飲ませてから、ゆっくりと話をしたいと伝える。
この場合、捲し立てて話を聞こうとすると逆に混乱させて上手くいかない場合があるので本人が納得と理解してくれるまで待つのが正解だろう。
「先程は失礼致しました……蛇人族さんを見て、びっくりしてしまいまして、本当にすみませんでした」
ナギに深々と謝りながら頭を下げる修道娘に俺達は仕方ないって顔で微笑みながら、俺は優しくナギの頭を撫でていく。
嫁ちゃん達からは“ナギだけずるい!”と、いった具合にジト目を向けてきていたが、これは仕方ないのだ。
怯えさせたと気にするナギを慰めるのは俺の役目であり、他の誰にもできないことだからな。
修道娘が落ち着いたのを見計らって、本題を聞いていく。
「えっと、俺達の方から話した方がいいよな。今日は教会の転送陣を使うために来たんだが、見てのありさまでな……なんでこんなことになってるか知らないか?」
教会がなんで、こんなにボロボロになってしまったのかを知らないかと、質問をしていく。
下を向くようにして、瞳の色を薄め、小さく震える姿に俺は何とも言えない状態になってしまった。
「あ、あの、私はリーフと言います。挨拶が遅れてしまいました。すみません。私が見たのは、見るも恐ろしい悪魔みたいな女の姿でした」
悪魔という言葉に俺は一瞬、身構えてしまった。
ただ、自己紹介されて、名乗らないわけにもいかないため、簡単に俺達側の紹介をしていくことになる。
「俺はキンザンだ。クラン『フライデー』のリーダーをしてるんだ。よろしくな」
「ボクはミアだよ。ちなみにボクがオッサンの一番だからね。よろしくね」
薄い胸にドン! と手を当てて、力強く言い放つ。
俺はなぜか気恥ずかしくなるが、そんなことはお構いなしで、次々に自分が嫁であるアピールと自己紹介をしていく嫁ちゃん達にリーフさんが困ったような視線と同時に駄目な人を見るような視線を向けてくる。
いやいや、俺をそんな目で見るのはやめてくれ、確かに色々とサイズや年齢、見た目なんかはあるだろうが、不可抗力だから!
そんな思いを心の内側で叫びながらも、さらに話を掘り下げる形で空気を変えることにする。
リーフさんも俺の心境を悟って、同情してくれたのか、あまり突っ込んだ質問などはしてこなかったため、そのまま、悪魔と評された女性の見た目などの話へと変わっていく。
「私が見たのは、全身が黒い服で、薄気味悪い肌の色をした女性でした。なぜその場に現れたのか、本当にいきなりで、目的も分かりませんが……」
リーフが目撃した存在は突然、天井を突き破り姿を現すと、神父やシスター達を容赦なく吹き飛ばし、逃げたリーフを捕まえようと入口を吹き飛ばす勢いで追ってきたようだ。
命からがら逃げ延びたリーフは震えながら一晩を過ごして、再度、この場に戻ってきたらしい。
「なんかヤバいヤツすぎないか?」
「はい、私も再度確認に来ましたが、もし対峙していたなら……そう考えたら、今も震えが止まりません。お願いします、冒険者様。どうか私を守ってもらえませんか」
いきなり、手を掴まれて、上目遣いで、泣きそうな瞳を向けられる。
リーフという修道娘、この子は危機感が無さすぎる。仮に知らない男性の手を掴んで懇願するような瞳を向けるなんてのは、悪党相手にしたなら、間違いなく攫われてしまうだろうに……
「いや、いきなり言われてもな……」
俺はそっと、手を解くように離すと、顔を背けることにした。
「そ、そうですよね……冒険者様からしたら、知らない相手を守ったりしませんよね。無粋な願いをしました。申し訳ございません」
俯きながら、そう語るとそのまま、一歩後ろに下がる修道娘は泣きそうな雰囲気に包まれており、ただ、俺は罪悪感に襲われていた。
「私は、『冒険者ギルド』に依頼を出すことにします……」
「依頼って、報酬を考えたら、すごい額になるだろ? そんな大金あるのか?」
「大丈夫です。いざとなれば、この身を捧げてしまうのみです……あんな恐ろしい存在に1人で再度出会うくらいなら……」
そこまで聞いて、俺は頭をガシガシと掻いてから、ため息を吐く。
「ああっ、はぁ……みんな悪い、さすがに見捨てたりできないんだ。構わないか?」
「はあ! 本気かよ、お人好し野郎が! 赤の他人で危ないヤツに狙われてるようなヤツなんだぞ! 何日護衛になるんだよ」
ミトが叫ぶと、修道娘がビクッと震えて泣きそうな表情になる。
「や、やっぱり無理ですよね……すみません」
半泣きの姿になると嫁ちゃん達がミトに何かを伝えていくのがわかるが、俺には聞こえないように話していくのがわかった。
「大丈夫です。私はどうしても王都に向かい、大修道院と王国教会本部に向かい、このおぞましい事実を伝えねばならないので、すぐに近隣の転送陣がある教会に向かう護衛依頼を出すことにします……ご迷惑をおかけしました」
そう言うとペコリと頭を下げてくる。
俺は申し訳ない気持ちになり、嫁ちゃん達を再度見る。
ミトは納得してない様子だったが、ベリー達は仕方ないと言った表情を浮かべてくれた。
そして、中立の立場だと言わんばかりに両者の中心に立つフライちゃんとポワゾン。
なんか、要らん揉めごになりそうになっていたが、ミトが面倒くさそうに「チッ」と、舌打ちをしてから、口を開く。
「はぁ……わかったよ。好きにしろよ! ウチはなんも言わないからな! フン!」
拗ねたようにそっぽを向く姿になぜだか、可愛いと感じてしまうが、今は良くないだろうから、言わないでおこう。
厄介な雰囲気になったが、とりあえず、話を進めることにした。
「わかったよ。王都までだ。王都に到着するまでの護衛で依頼を受けるって条件で構わないな?」
「いいんですか?」
俺を見つめる瞳は少し潤んでいるように見えた。
「構わないよ。個人契約になるが、構わないか? 少しでも早く向かいたいんだがな」
修道娘が頷くと契約が成立したのだ。
ミトのことは少し心配だが、俺が決めたことなので構わないといった様子だった。
内心感謝をして、早速[バリオン]から一番近い転送陣のある教会の存在する街を目指すことに決まった。
教会から一番近い門に向かい歩き出すことになる。
普段は[ヤヌンバの村]に向かう方の門を使うが、今回は[バリオン]の反対側にある門を進んで行くことになる。
初めて向かう次の街は、鉱山の街[ボルドール]だ。
名前からも分かるだろうが、炭鉱や金鉱、その他、鉱石といった多くの鉱物が採掘される街であり、以前に[バリオン]の宝石店である『ガラット宝石店』で飾り石を含めて、持ち込まれているのもこの[ボルドール]で採掘されたものだ。
ただ、観光地というわけでもなく、また鉱夫の街でもあるため、わざわざ、自ら出向く必要ないだろうと思っていたので、運命とは分からないものだと染み染み感じてしまう。
俺達から見て裏門というべき門を通り、草木が広がる道を真っ直ぐに見つめる。
「なら、まずは[ボルドール]に向かうとするか、みんな行くぞ」
「「「おう!」」」
門番さんが、迷惑そうな視線を向けていたが、気にせずに道なりに進んでいくことにする。
最初の目的地となった[ボルドール]までは、馬車なら一日半程度の距離にある。
一般人が徒歩で向かうなら、二日から三日程の距離になるだろうが、冒険者である俺達なら二日くらいの距離だろうか?
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