175話、調理師ギルドに頼み事
そこから、ギルマスであるルンダさんが部屋に入ってくる。
「おお、キンザン殿、[バリオン]に戻ってすぐだろうにどうしたんだい? 砂糖を持ってくるにはまだ早いだろうし?」
「いつも、いきなりで、すみません、ルンダさん。実は少し協力してほしいことがありまして」
「なんだい、改まって? まさか、また厄介な食材を持ってきたとか言わないだろうね?」
厄介な食材は確かに【ストレージ】に並んでるが、今その話をすると、本来の話が進む気がしないため、取り出して反応を見たかったが我慢することにする。
軽い挨拶を交わしてから、俺は考えを伝えるため、本題を口にすることにした。
「厄介かどうかは別になるが、そんなに悪い話でもないと思うんだけど、それにもしダメなら、他に持っていって頼むだけだからさ」
「あ、いや、とりあえず聞いてからだけど、キンザン殿の願いを無下にしたり、まして、他のやつに取引を持ち込ませたりしたくないから、内容を話してくれるかい」
「いや、無理しなくても大丈夫なんで、ルンダさんには色々と迷惑かけたり、助けてもらってたりしてるからさ」
俺がそこまで言うと、慌てた様子で顔を近づけるルンダを見て、ベリーとポワゾンがなぜか同時にため息を吐いてから、首を左右に振る。
2人とも仲良いなぁ、ペコとグーみたいにリンクした動きだったな。
「ご主人様、お早く内容を説明してあげた方がよろしいかと」
「そうよ、ルンダさんの顔が世紀末みたいに青ざめ始めてるわよ」
何とも言えない顔をしているルンダも首を縦に振っているため、目的を話していく。
内容を簡単に説明すると、悩むように両手を組み、ルンダは俺に視線を向けてから、テーブルに両手を置く。
「ふむふむ、面白い話じゃないか。アタシからすれば、受けないって選択肢はない話だね。ただ、それを受けるとなると問題があるよ? キンザン殿はわかってるのかい」
「問題? なんの話だ」
頭を抱えて首を左右に振るとルンダさんは、自慢のボブヘアーをガシガシと掻き乱して喋り出す。
「あのねぇ……いくら信頼してくれても、他人に店を任せるってことはだよ、色々な技術やレシピが持ち出されるって可能性があるって話なんだよ。
キンザン殿の独占している調理法が『調理師ギルド』にバレたら嫌じゃないのかい?」
「真面目ですね。ただ、俺は隠すような気持ちはないですし、なんなら揚げ物を広めたいって考えてるんで、むしろ問題ないですよ。何より俺の故郷には“技は見て盗め”みたいな言葉があるんで」
俺の言葉にルンダさんは、両手を左右に伸ばして、呆れたように大きく伸びをして、椅子に腰掛ける。
「こいつは、参ったねぇ、大きすぎる男だとは思ってたけど、もう少し欲を持ちなって話だよ、まったく」
「なら、受けてもらえますか?」
「はぁ、わかったよ。キンザン殿の頼みだし、店の方に向かうスタッフと、販売に関する記録係も含めてウチで手配するよ。勿論、支払いはしっかりともらうけどいいかい?」
「分かりました。むしろ、俺は利益よりもたくさんの人に美味いもんを広めたいんで、調理そのものも直接、教えられたらと考えてますから」
ルンダさんとの話しがまとまり、俺達は店を『調理師ギルド』に任せることになった。
ちなみに、こんなに話を急いでいるのには理由があって、俺達はルフレ殿下と謁見をする約束しているため、早急に会いに行かないとならないからだ。
つまり、この話は、臨時休業をする際に『調理師ギルド』からヘルプを出してもらうための交渉だ。
なにより、ルフレ殿下との約束を忘れたり、後回しにしたら、大変だしな。
だが、『調理師ギルド』が本格的に協力してくれることになったので大助かりだ。
俺達『フライデー』の次なる目的地は王都になる。
これ以上、先送りにするとメフィスの奴が爆発しそうだし、何より、ルフレ殿下がまた泣いてしまうと可哀想だからな。
次の日になり、朝からルンダさんが数名のギルド職員を連れて来てくれた。
週一と言っても、やはり調理法を知らなければ、いざって時に実力を発揮できないからだろう。
「キンザン殿、こちらからは6名の職員を呼んである。会計に関しては『民間ギルド』から人を手配させてもらったが、良かったかな?」
「構いません。むしろ、どちらのギルドにもお世話になってますからね」
軽く挨拶を済ませてから、俺は調理場に向かうことになり、ルンダさんを筆頭に揚げ物の基礎を教えていく。
衣をつける順番や油の温度の確かめ方(箸に衣をつけて調べるやり方)などを教えていく。
試しにあげてもらうことにしたが、やはり初めての揚げ物ということもあり、揚げ時間の善し悪しが分からないのか、生焼け状態で揚がったり、衣が揚げる際に外れてしまったりと色々と問題が出てくる。
そのため、嫁ちゃん達に以前に教えた仕込みの基礎と揚げ方を分かりやすく説明して実際に揚げていくことにした。
「なんで、アジャフライは、そんなに早く油から、トレーに上げるんだ?」
ギルド職員からの質問であった。
「アジャは魚だから、火の通りが早いんだ。だから、余熱を使って中まで熱を通すんだ。そうすれば身が硬くならないから食べた時にいい食感になるからな」
「あ、なら、なんで、ラビカラは二回揚げるんですか?」
「ラビカラだな。説明するから待ってくれよ」
一度、仮揚げしたラビカラを切断して中を確認してもらう。
半分になったラビカラは、中身がまだ赤みがあり、火が通ってはいない。
ただ、揚げ続けると肉は硬くなり、肉汁が抜けて美味さのない硬い塊になることを伝えていく。
いまいち、想像ができなかったようなので、ずっと揚げ続けて火を通したラビカラと、二度揚げしたラビカラを複数用意していくことにして試食をしてもらう。
揚げたてはあまり変化が分からないだろうから、他の揚げ物の説明や作り方を教えてからになるので、一時間くらいあけてからの試食になる。
最初に二度揚げのラビカラを食べていく。当然だが、中には肉汁がまだあり、肉も柔らかくジューシーな食感も残っている。
ずっと揚げ続けたラビカラは、既に硬くなり始めており、パサパサの鶏ササミのような食感であり、悪くはないが、美味くもない感じになっていた。
直接、試食をしてもらうことで二度揚げの大切さを伝えることができただろうか?
それからは、オーコロの作り方になり、初めて『ひき肉くん』を見たギルド職員達から歓声が上がっていた。
とりあえず、ひき肉一つでこの勢いのため、本当に異文化コミュニケーションって言葉を肌で感じた瞬間だった。
すべての説明が終わると、ギルド職員達がなぜか、俺に頭を下げてきた。
「キンザン先生! どうか、オレを弟子にしてくれ、先生の料理に惚れたんだ!」
「アタシも弟子になりたいです! あんな料理法を考えつく先生についていきたいと考えてます!」
ギルドマスターであるルンダさんがいるにもかかわらず、目の前でそう語る2人のギルド職員に俺は頭を悩ませたが、答えは一つだ。
「悪いな、熱意はわかるんだが、俺も皆と同じ、『調理師ギルド』の仲間なんだ。だから、弟子だ、なんだとか、違うと思うんだ。料理法を知りたいなら、教えるしさ」
俺の揚げ物は、あくまでも地球で先人達が考えた調理法であり、俺が考えたわけじゃないし、できるなら、皆が簡単で美味しく食事をしてほしいと考えてる。
だからこそ、俺が生きていた時代では手軽で美味しいが当たり前の揚げ物をこちらの世界でも広めたいんだ。
だからこそ、独占みたいなことはする気はないんだよなぁ。
読んでくださり感謝いたします。
☆☆☆☆☆で評価ありがとうございます
下にある[ブックマークに追加]もしてもらえたら、嬉しいです。




