171話、女神エトランジュと暴れん坊ドーナ
突然の話に俺の頭は混乱してしまったが、それはこの場にいる全員が同様であり、ベリーが手をあげて質問を口にした。
「いきなりごめんなさい。フライちゃんと、その名も無き神って神様だと、どれくらい違いがあるのかしら?」
飲んでいた紅茶のカップをゆっくりとテーブルに置いたエトランジュが軽く思考するような仕草をしてから、両手を前に出す。
「アナタの前にもしも、砂と砂糖があったら、どちらをお菓子に使うかしら?」
「え、そんなの砂糖があるなら、砂糖よ……砂なんて使わないわ?」
「そうだよね? つまり、フライさんは砂糖で、名も無き神は、砂のような存在ってことよ。力もなく、いる意味すらない存在……わかりやすいでしょ?」
そのまま説明が続いていく。エトランジュはなぜ、そんな極端な話をするのかを語っていく。
フライちゃんの本来の役目は、異世界バッカスに異世界人である日本人を転移、または転生をさせる事であり、既に数百年分の蓄えた力は使い切ってしまっている。
そのため、誰がフライちゃんの後継人になっても問題がなかった。
だからこそ、力のある神や女神では無く、名も無き無名の存在を後継人、いや、後継神に選んだそうだ。
この選択自体は神々の世界では、よくあることらしい、本来は名も無き神の修行期間のようなもので、神力を蓄えて、未来を担う神になるための大切な準備期間になるそうだ。
ただ、今回はその判断が別の形で動いてしまっていたらしい。
単純な話で力が弱すぎる名も無き神を選んでしまったとのことで、既にこのバッカスという世界に多大な干渉を及ぼしているとエトランジュは説明をしてきた。
そして、その干渉のいくつかには、俺達が対峙した癒しの街[カエルム]で倒した海の巨大な魔物や“インク・イナメント”といった魔物も含まれていた。
そして、[ガルド・ゼデール]の“禁忌のスキル”である【汚染】すらも関わっていると口にしたのだ。
「それは本当なのか!」
「そうなのよ。本来なら私がわざわざ、管轄する世界からこちらに来るなんてない話なんだから?」
そう口にしたエトランジュは再度、冷めた紅茶を口に運ぶ。
「言い忘れてました。既に禁忌のスキルである【汚染】の存在自体をこの世界では、完全に停止させていますし、なんなら、先日、禁忌のスキル【汚染】を使う存在を消滅させました。だから、他の被害者が今はいないのですよ」
俺達は確かに禁忌のスキルである【汚染】を完治させることには成功していたが、それ以降のことはルフレ殿下にすべて任せていたため、その後の展開を知らなかったので、さらに驚くことになった。
「待ってくれ、確か、禁忌のスキルについては、フライちゃんも何とかできないって言ってたよな? なんでアンタが何とかできるんだ?」
「アンタじゃないってば、人間って、忘れん坊なわけ? エトランジュだって言ったと思うんだけど」
「あ、すまない。それで説明してくれないか、なんでエトランジュは、禁忌のスキルを何とかできるんだ」
「簡単な話なのよ。管轄の違いみたいな話かな? フライさんは、簡単に言えば時間なんかを操る女神なのよね、まぁ……基本的にポテンシャル高すぎて“闘神”扱いだけどさ、ちなみに私は病気や病を操る“病神”なのよね」
エトランジュが笑いながら語る姿に顔を引きつらせてしまったが、すぐにエトランジュが勘違いを指摘してくる。
「今、ひどい勘違いしたでしょ? 病神ってのは、神名としては、不気味だろうけど、病を防いだり、疫病を終息させるための知識を与える存在なのよ。まぁ、干渉に制限があるから……本来は疫病神扱いなんだけどさ……」
寂しそうにそう語るエトランジュ。
「お話中、失礼いたします。紅茶のおかわりをお持ちしました」
話の雰囲気が変わり始めた瞬間、ポワゾンがティーポットを空のカップへと注いでいく。
ピリつきそうな感じすらあったので、この一瞬の気遣いに俺は内心感謝した。
「えっと、つまりエトランジュは、人の世界の病を治す手助けをする神様ってことでいいのか?」
「そう言ってもらえたら、嬉しいわね。こっちの気持ちも知らないで邪神扱いばかりで、本来この世界に来るのも憂鬱だったのよ……」
下を向いて、そう語る姿にどことなく寂しさを再確認してしまった。
そんな発言の直後に、黙って話を聞いていたフライちゃんが口を開いた。
「本来は人の問題ですから、わたし達、神々は干渉しないのが正解なのですよ。
ただ、それでも予想外の流れは突然起こりますからね、今回の【汚染】に関してはエトランジュが来てくれて本当に助かりましたし」
どこか、照れ隠しのような感謝の言葉を口にしたフライちゃん、そんな姿を見たエトランジュが嬉しそうに沈んでいた表情を“パッ”と明るくさせていた。
「フライさんが、褒めてくれた! 本当に嬉しいんですけど、来てよかった……悩んでもこちらの世界に来て正解だったわね」
話が壮大すぎる気もするが、とりあえず、いくつかの問題点が浮き彫りになり、俺は難しい顔を浮かべることになる。
だが、そんな俺の悩みすら、問題無いといったようにエトランジュは軽く笑みを向けてきた。
「ちなみにだけど、既に名も無き神は捕縛してあるのよ。だから心配は要らないのよ」
「え、神様が捕まってるのか?」
「そうなるわね。なんなら、さっき話した【汚染】だけど、広まる形になったのも名も無き神の管理不足だから仕方ないのよね」
驚愕の事実が明かされて固まる俺達を他所に、エトランジュは紅茶と共に置かれたお菓子に手を伸ばしていく。
「──あら、美味しい。本当に素晴らしいわね? さすが、フライさんの管理していた世界ですね。フライさん本人は自覚が無いみたいですが、いい形に成長してるみたいね」
そんなことを語りながら、クッキーを美味しそうに口に運ぶエトランジュ。
しかし、今までの話が事実なら、よくよく考えて見れば、俺に会う前段階で既に名も無き神は捕縛済みであり、全て上手くいっているように見えるのだが……何かが引っかかる気がする。
俺の考えと同じようなことを考えたのか、ミア達も視線を彼女に向けていた。
そんな視線を向ける嫁ちゃん達、ただ、視線の中に睨むような視線をエトランジュに放つ存在がいた。
ウチの嫁ちゃん達の中でも間違いなく一番の問題児であるドーナがテーブルを“バンッ!”と強く叩く。
「ドーナは納得できないの……マスターを危ない目に合わせたのは、そこの神なの! なのに、普通にしてるのが気に食わないのぉぉぉッ!」
「え? ちょ、うわぁぁぁーーーー!」
「アンタなんかにマスターが笑うのも許せないし、アンタが今も普通にしてるのも許せないのぉぉぉぉッ!」
ドーナの怒りに満ちた叫び、その瞬間、エトランジュが座っていた椅子が地面から影に包まれる。
「アンタおかしいんじゃないの! 普通いきなり、仕掛けるなんてありえないんですのよ!」
「避けるななのッ! アンタみたいなやつがマスターを危険に晒すの、だから今すぐ闇の中に封じ込めてやるの!」
「危ないわね、その言葉はアンタ自身に返してやるわ! ただ、病神である私に手を出す愚かさを教えてあげるわよ!」
互いが睨み合い、再度、飛び掛かったドーナが影を操り、室内を暗闇に包み込むように広げていく。
しかし、それと同時にエトランジュは室内では不利だと言わんばかりに窓を突き破り外へと飛び出していく。
「逃がさないなの、待つの!」
ドーナが窓からエトランジュを追うように飛び出した瞬間、飛び出した窓に向かって霧状の液体が襲いかかる。
窓枠が一瞬で腐食する様子に俺は慌てて、外に向かって駆け出していく。
既に外では、2人が激しく影と霧状の液体を操り、ぶつけ合っていた。
影から現れた無数の鎌がムカデのような姿を作り出すとエトランジュへと襲いかかる。
向かってきた影に対して、エトランジュは霧が散弾のように広げると影のムカデを歪めていくように接触した瞬間、影を巻き込むように霧散する。
両者が互いを本気で潰し合うようにスキルをぶつけていく。
「オッサン! あれ、ヤバくないか、このままだと、騒ぎになっちまうよ!」
「そうだぜ! あんなヤバヤバ野郎を好き勝手させてたら、やばいって話だろうが! 何とかしろよな!」
ミアとミトがそう口にする最中、ポワゾンが一歩前に出る。
「ワタシが何とかします……皆様、離れててくださいませ。少々やりすぎです。大人しくしなさい!」
ドーナが風上に移動したと同時にポワゾンが薬剤を勢いよく宙に巻くと風スキルを操り、痺れ毒であろう薬品を巻き込んだ渦が竜巻のようになり、エトランジュへと向かっていく。
本来なら、その時点で勝負は着いていただろうが、今回はそうはならなかった。
痺れ毒を使ったポワゾン自身も、なんで効果が無いのかを不思議そうに考えているのがわかる。
「何を悩んでるのか分からないけど、私は病神なんだから、病や薬の類が効くわけないでしょうに……まったく」
「よそ見とかしてる余裕はあげないのッ!」
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