169話、謎のゴスロリツインテール
大掃除が終わり、領主のエヒトさんに感謝の気持ちも伝えた。
色々と忙しい一日になったが、こんな普通の忙しさが大切だと気付かされたな。
最初こそ、フライちゃんに「勇者じゃないのか?」みたいなことを口にしたけど、実際に勇者なんかにされたら、俺の精神がもたなかっただろうな。
夕食を作るために、調理場に向かおうとすると、嫁ちゃん達により、止められてしまった。
「ん? どうしたんだ、みんな揃って」
「オッサン、いつも大変だからさ、今日はボク達が晩御飯を作るからさ、適当に暇を潰してゆっくりしてくれよ」
ミアがそう口にすると、ベリー達も同様の言葉を口にして、俺に休むように言ってくれた。
確かに、俺は[ガルド・ゼデール]に着いてからあまり休めたりはしていない。ましてや、小さくなったりと、気の休まる暇すらなかった。
それを踏まえての嫁ちゃん達の判断なのだろうか?
ただ、そんな気遣いが嬉しくなった俺は軽く頷き、嫁ちゃん達が綺麗に掃除した庭へと向かうことにする。
綺麗に雑草が抜かれた庭を見ながら、煙草を取り出し、そっと先端に火をつける。
視線を上に向けて空を眺めていく。綺麗な星空が輝いており、暗闇を明るく照らしているのがわかる。
本来ならこの星空を見て、なにか呟くのが一般的なんだろうが、生憎と俺にそんな学もロマンもありはしないので、軽く欠伸をさせて貰う。
「ふぅ〜、長い一日だったなぁ……」
煙を肺に流し込んでから、ゆっくりと吐き出し、空気を白く染める。
そんな、俺の小さな至福の時間を庭で過ごしていると、かすかに暗闇の先から視線を感じる。
俺はわずかな違和感を感じた闇の先に視線を向けていた。
本当なら、知らん振りってのが、俺らしい選択だが、今は屋敷の中に嫁ちゃん達がいて、相手が見ているのは屋敷じゃなくて、俺なんだと感じる。
「……」
「不思議なのよね? 貴方には【探知系スキル】はないので、普通は分からないと思うのよね……」
暗闇の中から聞こえた女性の声、唯ならぬ不気味さを感じながら、目を細めて暗闇の先に視線を向ける。
「あらあら〜ん? 情熱的な視線なのよね? でも、見つめるなら、相手をしっかりと見つめて欲しいのよね」
ビクッと身体が震えた。前方の暗闇から聞こえていた声が突如、背後から聞こえて、心臓が飛び出すんじゃないかと思った次の瞬間、背中に手がそっと当てられる。
背骨の中心に手のひらを当てられて、背筋が凍りつくような感覚に俺の頭はパニックになっていた。
敵意や悪意といった負の感情は感じないが、それと同時に好意のような温かい感覚も感じない。手から伝わるのは言うなれば、そう……“無”だ。
「あらあら、怖がってるのかしら、違うはずなのよね、だって、アナタは皆の希望で、信じる人達の未来そのものなのよねぇ?」
「さっきから、なんの話をしてるんだ……」
「ふふふ〜ん、分からないのは? わざとなのかしら、それとも、本当にお馬鹿さんだから、分からないのかしら、答えが分からないと退屈になってしまうのよねぇ……」
俺の背中にいるやつの顔が見えないため、なんとも言えないが、間違いなくヤバい奴なのは間違いない!
「悪いが人違いだと思うんだけどさ……なんなら、名前も知らないし」
「あらあら〜勘違いなんて、そんなお馬鹿さんなことはしないのよね。むしろ、大正解でご褒美が欲しいくらいなのよね……でも、今は我慢なのよね……残念なのよ……」
そう告げられた瞬間、背中に当てられていた手の感覚が無くなり、次に首へと腕が回されたような感覚になる。
視線を後ろに向けようとした瞬間、身体が自由に動かせない事実に困惑する。
「駄目なのよね……背後から迫るレディの顔を見ようなんて、ダメダメな紳士なのよねぇ……嗚呼、外して持って帰って飾ってしまいたい気分なのに我慢は辛いのだわねぇ……」
首に絡んだ手と発言から、心臓を再度、鷲掴みにされてるような気分になり、俺は相手が何を考えてるかを僅かに知れた事実に後悔していた。
「冗談にしても笑えないんだが……外してって、なんの話だよ……」
「分かりませんのねぇ? ふふふ、腕から上にある空っぽの頭を外してあげたら、きっと素敵な入れものになると思わないかしら? って話なのよね」
「ないない! 俺の頭を小物入れにする気かよ!」
流石の俺も冷静になれなくなってしまい、声を荒らげた。
「あら〜? 小物入れだなんて……それは素敵な提案じゃないのかしらぁ!」
狂気じみた声に本気で恐怖を感じた瞬間、不意に耳元で声がする。
「なら、優しいから、選択肢をあげるのよねぇ……貴方の大切な人達から誰か一人を代わりに選んで……そうしたら、貴方の頭は諦めてあげるのよね」
不気味な雰囲気で声を呟く女は悪意も何も感じない。ただの遊びを楽しむ子供のようにすら感じる。
「ふざ、けんな! 誰が、俺の大切なもんを犠牲にして生き残りたいなんて話に納得するんだよ! 俺をなめんなッ!」
もしかしたら、いきなり首がなくなるかもしれない、動かない身体だから、何もできないかも知れないそれでも……
「【ストレージ】!」
俺の手のひらから、大量の金貨が噴き出し、俺ごと一気に吹き飛ばされる。
「ハァァァァ! ちょっ、なんなのよ!」と、初めて本気の感情が詰まった声が背後から叫ばれる。
金貨の海に流されながら、俺は背後にいたであろう女が消えている事実に気づく。
その事実を確認してから、急ぎ金貨を【ストレージ】へと収納する。
庭に横になりながら、俺はゆっくりと身体を起き上がらせて、周囲を確認する。
誰も居ない事実に、安堵のため息を吐いてから「助かった……のか?」と呟いた。
「そういう言葉は本当に助かった時にいうものじゃないのかしら? まぁ、あの状況から自力で脱出したのは及第点なのよねぇ……」
フラグ立てちまったか……
今度こそ、声の主に向けて視線を向ける。
綺麗な銀色のツインテールをした透き通るような美しい肌をした少女が空中に浮かんで俺を見下ろしていた。
ゴシックロリータを思わせるような黒いドレスに白のフリルと赤いフリルが左右対象につけられており、首につけられた紫のリボン、こんな怖い状況でなければ、街で見かけたなら、軽く見入ってしまうくらいには可愛らしい顔をしている。
日本人の俺から言わせれば、ロシア人の少女がゴスロリ衣装を身につけているといった感じだろうか。
「ふふ、本当に面白い人なのよねぇ……冗談でからかうつもりだったけど……本当に欲しくなって来ちゃったのよね……」
悪い笑みを浮かべたその表情に俺は背筋が寒くなった。
それと同時に騒ぎに気づいたのだろうか、フライちゃんが勢いよく飛び出してくる。
「きんざんさん! って、あなたは……!」
俺は飛び出して来たフライちゃんに視線を向けると、フライちゃんの視線は空中に向けられていた。
「あらあらあら〜 お久しぶりですのよねぇ……ただ、これは予想外なのですよねぇ……それでは、そろそろお暇しようかしら……サヨナラなのよねぇ……」
ゴスロリツインテールが消えようとした瞬間、フライちゃんが苛立ったように拳をぐっと握ったのがわかった。
「逃がさないのですよ……結界展開ですッ!」
突然、屋敷を含めて周囲に広い結界が展開されると誰も逃がさないというようにドーム状の結界が作られていく。
「え、あ、ちょ、な、なんで……落ち着いてもらえたら嬉しいのよねぇ……」
「逃がさないに決まってるじゃないですか……さて、ゆっくり話しましょうか?」
フライちゃんが錫杖をどこからともなく呼び出して、笑いながら全力で空に向けて振り抜いていく。
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