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みんなが断った異世界転移☆暇な日、限定で揚げもん屋『フライデー』をやってます。  作者: 夏カボチャ 悠元
7章 繋がりの先に、女神の心と紡がれる道

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168話、キンザンの一日

 △△△


 屋敷が片付き、俺も店舗の清掃に一区切りついた。


 屋敷側というよりも外側になるが、かなり厄介な作業になっているみたいだな?

 人の出入りがないことを草が知らせるなんて、本当に異世界ってやつは、訳分からないが、それでも嫁ちゃん達が必死に掃除をしてくれたお陰で何とかなったな。


 ただ、かなり、草まみれの嫁ちゃん達にはそれとなく風呂に入ってもらうことにした。


 本来なら、これは素晴らしいイベントのようにも感じるが、楽しみは別の機会にすることにする。


 理由としては、俺は長らく[バリオン]を留守にしていたが、[バリオン]領主であるエヒトさんには色々と助けてもらっており、挨拶に行きたいからだ。


 実際に癒しの街[カエルム]や砂漠のオアシス都市[ガルド・ゼデール]での騒ぎの際にかなり協力してもらった事実がある。


 なので、俺はポワゾンに「領主のエヒトさんに会ってくるよ」と伝える。


 本来はアポイントメント、つまりは予約が必要なんだろうが、それに関しては前に「いつ来ても構わない」と言われてるため、仮にエヒトさんが居なくても顔を出した事実が大切になるだろう。


「ご主人様? ワタシもお供しましょうか、領主様に会うというのに、付き人の1人も共わないのは、少々、格好がつかないかと?」


「いや、俺は貴族じゃないし、なんなら、冒険者である前に、ただの料理人だからな」


 軽くポワゾンに感謝してから、俺は素早く靴を履くと手を上げて歩いて行く。


 屋敷から出て、領主邸に直行しようとしていると、近くの商店から次々に声をかけられる。


「お、フライデーのキンザンさんかい、久しぶりだね」

「最近見なかったが、無事だったんだね。良かったよ」

「よう、キンザンさん。次はいつ店を開けるんだ? たまに食いたくなるから教えてくれよ」


 そんな声かけに俺は軽く感謝しつつ、会話をしてから、ゆっくりと歩いていく。


 商店を抜けつつ、大通りに出ると、見知った人物に驚かれながら声をかけられる。


「キンザンさんじゃないですか! 大丈夫でしたか、[ガルド・ゼデール]から確認が来た時は[カエルム]の時と違って、王国兵の方だったので、本当に心配しましたよ」


 俺に声をかけながら、心配そうな視線を向けてくる女性は『冒険者ギルド』の受付をしていた女の子だ。


 正直、よく話すんだが……ミア達がいつも傍にいるため、プライベートな会話は愚か、実を言えば、名前を未だに聞いたことがない。


 いや、無いと言うより、最初の頃に聞いたのかもしれないが、受付嬢さんの説明を聞くのに必死だったため、覚えられていない。


 日本なら名刺交換や、スマホの電話帳なんかに名前を登録して、忘れたりといったことはないのだろうが、名乗られたのは多分、最初だけなので、今更、名前を聞いたりできないのが現実だ。


「えっと、本当にギルドの皆さんには、ご迷惑をお掛けしました。感謝の言葉しかでないが……」


 そこまで口にすると受付嬢さんが、言葉を被せてくる。


「いえいえ、むしろ、『冒険者ギルド』としては、大切な冒険者の方を守るために必死になるのは当然ですから、お気になさらず、頼って下さいね」


 天使みたいな笑顔でそう口にする受付嬢さん。名前が最後まで分からないのが本当に申し訳なかったが、軽く挨拶を済ませて、別れることになった。


 その後は本来の目的通りに、領主邸へと向かっていく。


 領主邸の前には見張りの兵士が2人おり、やはりと言うべきか、門番であり見張りの兵士に止められた。


「お止まりください。ここは領主様である、エヒト・ダーノ様の屋敷になりますが、何か御用でしょうか?」


 当然の反応に俺は軽く頭を下げると訪ねた理由を伝えていく。


「約束はないんだが、えっと……『フライデー』のキンザンが来たとだけ伝えてもらえませんか? もし、忙しいなら、出直しますんで」


 なるべく低姿勢でそう言うと、見張りの兵士達の背後、つまりは屋敷側から別の兵士が慌てて、こちらに向かって走ってくる。


「おーい! お前達、その人は大丈夫だ! 直ぐに門を開くんだ!」


 俺を見ながら、慌てる様子の兵士さんは、前回来た際に見たことのある兵士さんだった。


「はぁはぁ、すみません。キンザン殿、この二人はまだ、この「バリオン」に来たばかりでして、失礼がありませんでしたか?」


 息を切らせるようにして走ってきた兵士が門番達に厳しい表情を向けたので、慌てて俺も「問題ないよ」と砕けた口調で返事をする。


 ここで砕けた口調にしたのは、門番さんよりも、立場の上である兵士さんが俺に低姿勢できてくれたため、それに甘えた結果だ。

 そうしないと、俺が気を使って門番を庇ったように見えるだろうから、そんなことにならないようにするためってのもあるな。


 そこから、すぐに屋敷に案内され、領主邸の中を歩いていく。


 今回はエヒトさんの執務室ではなく、応接間に案内された。

 フカフカのソファに腰かけるとすぐに、扉がノックされて、紅茶と焼き菓子が運ばれてくる。


 少なくともこの世界では砂糖を使ったお菓子は高級品であり、俺の前に出されたそれもしっかりと砂糖を感じさせるものであり、クッキーに砂糖を振り掛けているようで表面がキラキラとしているのがわかった。


 焼き菓子はそのままに、紅茶に手を伸ばし、ゆっくりと喉を(うるお)していく。


 そうしていると、再度、扉が開かれる。


「お待たせしました。キンザンさん。お久しぶりですね」


 やんわりとした雰囲気で笑みを浮かべたエヒトさんがやってきた。


 俺は一度立ち上がり、頭を下げて、互いに向き合う形で会話が開始される。


 そこからは他愛ない世間話をしつつ、各地で助けられた礼をしていく。


「色々と本当に助かりました。多くの地方にまで話をしてくれたり、心配していただいて感謝ばかりです」


「いいんだよ。何より、キンザンさんには、こちらも色々としてもらったからねぇ」


「何とか、お礼をと、思いましたが、領主様に何を渡したらいいか分からず、とりあえず、こちらを渡そうと思い、持ってきました」


 俺は“買い物袋”から少しお高いウイスキーを取り出す。

 このウイスキーは本来は数千円程度のもので、安くはないが、領主様相手に手土産にするにはあまりいい選択とは言えない。


 だが、このウイスキーは、かなりいい出来だと評価されて後に数十万までプレミア価格がついた代物だ。


 なぜ、俺がこのウイスキーを買ったことがあるかと言えば、過去の親孝行ならぬ、爺婆孝行で社会人になった初の給料を使って、買ったことがあったからだ。


 まあ、俺が買った時はプレミア価格なんかついてなくて、むしろ、数千円のウイスキーを大人として当然と笑いながら買って、ドヤってたな、今は亡き爺さんにプレゼントした記憶に残る一本だ。


 俺の中では忘れられない一本であり、これほどに感謝を伝える品は俺の中には存在しない。


 そんな一本だったが、エヒトさんは少し複雑そうな表情を浮かべていた。


 まさか、酒をあまり好まないとか? もしくは、いくら俺からでも、飲食物はダメだっただろうか……


 多少の不安が頭に過ぎる最中、エヒトさんが声を発した。


「大変失礼な質問になりますが、キンザンさん。その、こんな高価な品をいただいて大丈夫なのですか?」


 予想外の質問に俺は驚いてしまったが、さらに語るエヒトさんの話を聞いていく。


「この瓶は、普通の硝子ではありませんよね? 触り心地や形といい、さらに言えばコルクではなく、豪華な装飾のされた金属の蓋に……色彩が描かれた不思議な模様……紙でしょうが、魔法で貼り付けられていますよね?」


 エヒトさんの言葉に、この世界の瓶を作る技術は、まだそれほどには、発達していない。


 さらに瓶に蓋をする場合は木屑を固めたコルクが一般的であり、金属製品を合わせるのは無理だと認識されている。

 理由は金物を合わせる際に瓶が割れてしまうことと、割れなくても密封ができないためである。


 そして、最後にラベルだ。この世界は酒樽が一般的であり、コルクで栓をして中身を確かめるのも目で見るしかない。

 そんな酒の世界に色鮮やかな英文で書かれた文字が貼り付けられた瓶があるのだから、エヒトさんからすれば、国宝級とまではいかないが、それ相応の価値がある一本という判断になっていたらしい。


 少し笑いそうになってしまったが、大袈裟ではなく、事実的に今の世界から見たらその判断が正しいようだ。


 俺は「問題ありません。蓋は回せば開きますし、閉める時は逆方向に回せば閉まります」と蓋の開封方法を説明する。


 そんなこんなで、エヒトさんに感謝の気持ちを伝えてから、俺は領主邸を後にした。


 屋敷について「ただいま」と声を出すと、風呂場から賑やかな声がしてくる。


 長く出かけてたはずだったが、嫁ちゃん達は長過ぎる長湯をしていたらしいな。

読んでくださり感謝いたします。

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