163話、ドレインワームの調理法?
今回は最後の最後で甘さを出してしまったが、それでも、本当にもう二度と元の姿に戻れないかもしれないと感じた瞬間があった。
嫁ちゃん達には内緒だが……仮にずっと小さいままなら、俺を見捨ててほしいとすら頼もうか迷っていたからだ。
それでも、みんなに助けてもらった結果、何とか無事に戻れた事実を喜ぶほかない。
それから、俺達は蛇人族の集落へと戻ることになった。
蛇人族の村で勝利を祝うように出迎えられると俺はすぐに戦利品を【ストレージ】から取り出していく。
勿論、戦利品はドレインワームだ。
ただ、予想外だったのは、俺が【ストレージ】に入れていたドレインワームは取り出してみると何倍も巨大な化け物サイズになっていたことだろうか……
結局、一匹が本来のドレインワーム、数体分のサイズになっており、【ストレージ】内にまた、不思議な魔物コレクションが増える結果になってしまった。
何とか、調理法か、使い道を探さないとな……
俺は未だに口にしたことのないドレインワームを恐る恐る【食材鑑定】していく。
鑑定の結果は、予想外なものだった。
・食料──可 :味は淡白、味付けが必要になる。
・肉質──△ :硬く食べづらい。
・内蔵──✕ :酸性の体液を生成するため、食材不可。
・肉を柔らかくして食べるのがオススメ。
注意──そのまま焼いた場合、肉質✕、肉はゴムのように硬くなり無味に近い味になる。
ここまで、確認して俺は少し悩むと、久しぶりに新しい調理道具を“買い物袋”から買うことに決めた。
今回買うのは、手動スライサー(12980円)を取り出していく。
本体の横には、手動のハンドルが付いており、回すことで、円盤状の刃が回転してどんなに硬い肉も綺麗に薄切りにすることができる優れモノだ。
ただ、サイズは肉の塊で考えたら5、6キロ程度のサイズが置ける程度なので、最初にドレインワームを竜切り包丁でカットする。
そんな俺達の下準備をしている横で蛇人族の戦士達が豪快にドレインワームを解体して、厚切りの肉を力任せに鉄の棒に刺して焼かれていく。
賑やかな宴会ムードでドレインワームのBBQが開始される。
そんな楽しそうな声を聞きながら、俺達もすぐに調理用の鉄板を取り出していく。
今回は薄切りにしたドレインワームの肉に甘辛い照り焼きのタレを使い調理していく予定だ。
火の通り加減が分からないため、最初に数枚を試し焼きしていく。
軽く塩をかけただけの肉と醤油を軽くかけた肉、そのままの肉を焼いていき、焼けるまでの時間を確認してみることにした。
焼けた肉からは、嫌な臭いはないが、やはり美味そうな香りもしない。
試しに最初は、味付けなしのドレインワームの肉を切ってから、みんなで食べてみることにする。
薄く切ったはずの肉だったが、それでもかなりの弾力を感じつつ、必死に切り分ける。
焼く前は感じなかったような硬さに苦笑いが浮かんでしまう。
切り分けた肉を口に入れ、噛んでみると瓦煎餅を何倍も硬くしたような感覚で歯が割れるような気がして、慌てて吐き出してしまった。
それは他のみんなも同様のようで、2人を除いて嫁ちゃん達が肉を噛むのを諦めていた。
ちなみに2人というのは、ナギとミトであり、2人は頑丈な歯で容赦なく肉を噛み砕いていた。
薄切りであれなのだから、俺は困ってしまった。
調理法を変えないとダメだと思い、圧力鍋を取り出していく。
時間は掛かるが、圧力鍋なら、硬い肉も柔らかくできるだろう。
ちなみに、圧力鍋を取り出す前に『肉叩き』も試したが、焼いた途端に硬さが復活してしまった。
最初よりはマシだが、噛み切れるかと言われたら俺には無理だった。
圧力鍋と一緒に大鍋を用意していき、水、砂糖、塩を用意していく。
水に対して、各5%の塩と砂糖を加える。大鍋のため、中々の量になっている。
今、俺が作っているのは“ブライン液”っていう、魔法の水だ。
これは肉を柔らかくするための手段であり、いくつかある手段の中でもかなり簡単な方法になる。
他にも玉ねぎの摩り下ろしや、蜂蜜、ヨーグルトなんかで肉をつけることで肉を柔らかくする方法だ。
ただ、問題は即効性がないことだろうか? 少なくとも一日から、一日半はつけないと意味がないので、とりあえず明日を楽しみにするしかないな。
俺がブライン液に肉を次々につけては、大鍋を置いていく姿に、蛇人族達が興味深そうに見つめてくる。
「何をしてるんだ、肉を焼かないのか?」
「あ、いや、俺には硬すぎるから、困ってしまってな」
「ああ、確かに! 蛇人族の俺達は問題ないが、人間には硬すぎるんだな」
そう語った蛇人族の男が軽く悩み、何かを思いついたように走り出していく。
数分もしないで、戻ってきた蛇人族の男の手には美しく透き通った蜂蜜が握られていた。
「こいつを肉につけてから、焼けばすぐに柔らかくなるぞ!」
確かに、肉は柔らかくなるが、ただ塗るだけでそうはならないだろうと俺は考えてしまっていたが、試す前に諦めて調理に使わないなんて、俺からしたら論外だ。
この蛇人族が持ってきた蜂蜜は俺の知る蜂蜜よりも、粘りが強く、甘い香りが広がるのが分かり、味見をする。
「甘ッ! なんだこれ」
俺の素直な反応に蛇人族の男が嬉しそうに笑い出す。
「だろう! ゴールドビーの蜂蜜だからな、これは、凄く貴重で少量しか取れないが、新しい仲間に食べさせてやりたいから、持ってきた!」
その話を聞いて、俺はすぐに貴重なものを惜しげも無く使わせてくれているんだと気づき、感謝を口にする。
「構わない。これは本来は今日みたいな宴に使うために集めてたからな。気に入ったなら、売ってやるが、いるか? 新たなる仲間よ」
その言葉に俺はすぐに値段を聞いていく。
ゴールドビーの蜂蜜は小瓶サイズで金貨2枚という、高級品だったが、味見をしたからこそ、理解できる。
そんな蜂蜜は、蛇人族の巨大すぎる大鍋に次々と注がれていた。
どうやら、ドレインワームの肉を柔らかくするためというわけではないのだろうが、かなり興味深いな。
なぜなら、俺が今まで食べてきた蜂蜜、いや、メープルシロップにも負けない甘さがそこにあったからだ。
蜂蜜特有の後味はマイルドで嫌味な感じはなく、むしろ、仄かな甘みがスッキリと抜けていく感じがする。
これなら、みんなに最高の料理を作ってやれるだろうな、こんな素晴らしい蜂蜜と出会えた事実に感謝しないとな。
蛇人族の大鍋をみて、軽くニヤついていた俺の表情に気づいたのか、ベリーが背後から腕を伸ばし、俺の首に腕を回す。
ちなみに、このベリーの腕は甘い雰囲気なんかじゃない……俗に言う、プロレスの世界で見る“コブラ・クラッチ”だった。
「何を考えてるのかしら? キンザンさん……今の顔は、間違いなく今日1番の笑顔だったみたいだけど、元に戻るよりも、いいことがあったのかしら?」
「ま、まって、ベリー、ギブ! ギブ! ギブだッ!」
俺の断末魔のような叫びに視線が集まるのを確認してから、俺は意識を失う寸前で解放された。
「ゲホゲホッ、ベリー……マジに締めただろ……はあ、苦しい……ゲホッ」
「当たり前でしょ! まったく、本当に私達がどれだけ心配したと思ってるのよ! 自業自得よ」
かなり御立腹なベリーだったが、当然の反応だと思う。
「悪かったな、みんなに美味い料理を作ってやれるって思ったら、浮かれちまってた」
そんな会話が始まるが、同時に圧力鍋から蒸気が噴き出してしまう。
「あ、え、あぁ」と、俺が慌てるとすぐにベリーから背中を叩かれる。
「早く確認しなさいよ。気になるんでしょ? まったく、本当に料理馬鹿なんだから、ふん!」
久々のツンデレモードのベリーに感謝しながら、俺は圧力鍋を開く。
圧力鍋が開かれた瞬間、湯気が一気に噴き出していき、美味そうに煮込まれたドレインワームの肉が姿を現す。
試しに、箸を突き刺してみる。最初と違い、箸が刺せる程度には柔らかくなっていた。
多少の弾力は残っていたが、逆に柔らかくなり過ぎない歯ごたえの残る角煮というべきだろうか。
圧力鍋には最初からお試しで、長ネギや砂糖、味醂、醤油、生姜などを入れてあり、しっかりと濃いめの甘辛い味付けになっていた。
その香りを嗅いだのか、串焼きを口にしていた蛇人族達が一斉に視線を向けてくる。
俺は最初に味見をしてから、次にパピィさん達に食べてもらうことにして、大量の圧力鍋でドレインワームの角煮を作り続けることになるのだった。
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