162話、念願の……
俺が呆気にとられているとそんなことは知らないと言わんばかりに、アマゾネスの女戦士達が蛇人族の皆さんに向けて、警戒するような視線を向けているのが分かる。
それは蛇人族も同様で、居るはずのない2つの種族が互いに会うはずのない場所で出逢えばそうなるだろう。
ただ、今回は状況が違う。俺達『チームフライデー』が両方に分かれて、互いの仲間として行動していたことだろう。
そして、それは蛇人族を見つめていたフライちゃん達からも同様に感じることができた。
先に一歩踏み出したのは、アマゾネスの女戦士リリーだった。
「あれ! 猫の嫁ちゃんと姉妹の子達じゃないか! おーい! 久しぶりだねぇー、アタシを覚えてるかぁぁぁィ!」
互いの戦士達が向き合っていることを気にしないように、リリーが無邪気に手を振りながら、ニア達に向かって走り出す。
駆け出してきたリリーの姿に慌てる蛇人族の戦士達、その反応を見て、ニアがすぐに駆け出して行く。
「あの時の! 何してるにゃ? なんでミア達と一緒にいるのにゃぁ」
2人が会話を始めると、どちらともなく構えた得物から手を引き、ホッとしたような表情を浮かべたのが理解できた。
正直なところを言えば、両者共にぶつかりたくなかったのだろうと表情からも感じ取れる。
蛇人族側からすれば、狩りに来たわけで、対人戦を前提にした装備ではない。
装備がないわけではないが、一般的な人間サイズの相手をするのには適さないものばかりであり、今までこんな状況になることがなかったのだろう。
それに対して、リリー達アマゾネスの戦士達の装備はしっかりとした実戦装備だった。
普通に戦えば、蛇人族に軍配が上がるだろうが、戦えば互いに予想以上の被害が出るだろう。
リリーとミアが会話をし始めるとそれを合図にしたようにフライちゃん達も歩み出し、さっきまでの殺伐とした雰囲気は既になかった。
「驚きました。まさか、ニア達が既にこの場所に来ているなんて思いませんでしたからね。本当にわたしはびっくりですよ」
「にゃにゃにゃ? それはニア達もだにゃ、フライ達がミア達と合流して、リリー達といるなんて予想外すぎるにゃ」
女性陣の会話に蚊帳の外になっている俺は無言で状況を見守るパピィさんに視線を向ける。
「……」
「……なんとも、女が集まると場の空気をすべて奪っていくのは種族に関係なく同様のようだな……」
パピィさんから出た言葉に驚きながらも俺は静かに小さな頭をコクリと頷かせた。
状況が一変して、話し合いが終わると同時に、ポワゾンが俺の方に向かって歩いてくる。
「挨拶が遅れて申し訳ございません。ご主人様が普通サイズに戻るまでの間を、この目に焼き付けておきたいと思い、ついつい、話を長引かせてしまいましたことをお許しくださいませ」
少し、謎な発言が混じっていたが、それでも深々と頭を下げるポワゾン。
それと同時に、サンドバッグほどある巨大な袋を俺の目の前に置く。 正式にはナギの前になる。
袋の中を開いて見せてくるポワゾン。
袋には、眠らされた状態のドレインワーム(メス)が押し込まれており、最初に俺達が見つけたそれよりもさらに小さい個体だった。
「これは?」と見つめる俺にポワゾンがニヤリと笑う。
「はい、皆様がドレインワーム達と戦っている間に、ワタシはさらに奥に進み、ドレインワームの女王がいる巣穴まで行かせていただきました。つまり、この個体はクイーンの幼体ですね」
俺は耳を疑って、袋の中身とポワゾンを交互に見つめた。
「落ち着いてください。すべて眠らせてあります。必要な毒を撒き、捕縛のために麻痺させて行きましたので、ワタシは何の問題もありません。ご主人様のためなら、なんでもできるのが妻なのですから……」
頬を赤らめて、視線を軽く逸らしながらもチラチラと再度、俺を見つめている。
「あ、ありがとうな……なんて、言うか、その」
「い、いえ、ワタシは、その……」
「2人で喋りすぎ! ナギもパピィもいる! ペコ、グーも見てる!」
ナギの声に俺やポワゾンがハッとすると、他の嫁ちゃん達からも刺すような視線が向けられている。
慌てて、普段通りに振る舞うとすぐに俺は絶命したドレインワーム達を【ストレージ】へと収納していく。
そして、すぐにドレインワームの巣穴から外に続く通路を進んでいく。
フライちゃん達がリリー達アマゾネスの女戦士達と入ってきた通路からは蛇人族の戦士達は出られないため、リリー達も含めて、蛇人族側の出入口から外へと向かっていく。
巣穴から出てみれば、既に夕暮れになっており、空が壮大な橙色に染まっていた。
大きく伸びをする俺に向かってナギの手が伸びてくると、首飾り型の檻から地面に降ろされる。
目の前には、縛られて動けない状態にされたドレインワーム(メス)の姿があった。
目覚めたドレインワームは未だに体が痺れているようで、動くことはない。
口を開き必死に「ピギャ!」と声を出している。
俺とドレインワームを囲むようにスキルのない蛇人族達からの視線が向けられる。
ちなみにスキル持ちの皆は離れた位置で待機してもらった。もしものことがあれば、厄介だからと話した結果、仕方ないと納得してもらった。
俺は小さくなった自分より何倍か、大きな幼体のドレインワームを前に恐れながらも向き合っていく。
猫の前で固まる子ネズミになったような気分に背筋が凍りつきそうになるが、一歩、一歩、前に進む。
酸弾が飛んでくるんじゃないかと思っていたが、俺の予想とは違い、ポワゾンが離れた位置からニッコリと笑みを浮かべている。
ポワゾンの手には、フラスコのような瓶が指で摘まれており、中には酸弾であろう、緑色をした粘液のような液体が入っているのが俺の目からも明らかだった。
つまり、酸弾を恐れるなってことらしい。本当によくできた嫁だな、ポワゾンも含めて最高の嫁ちゃん達だと思う。
ドレインワームが大きく口を開いて、威嚇するように声を出した瞬間、身体の内側から何かが吸い込まれていくような脱力感が襲われる。数秒の後、身体の内側が焼けるような痛みと共に鼓動が高鳴っていく。
次第に縮まっていた身体が元に戻ると同時に、全身や装備品に掛けられた【縮小化】のスキルが解除されていくと、本来の姿へと戻っていく。
久しぶりに戻る本来の高い視界、俺の目の前で次第に小さくなるドレインワームの姿があり、俺は自分自身が戻ったことを実感することができた。
「や、やったのか……?」
俺の言葉を確認させるように、俺に向かって全力で駆け出してくる嫁ちゃん達、ただ、その顔は笑顔でありながら、少し、いや、かなり、狂気じみた表情になっている。
「え、あの!」
そう口にした瞬間、嫁ちゃん達から全力を思わせるように振りかぶられたパンチが放たれていく。
「オッサン。なんで、あんな危ないことになるんだよ!」
「そうにゃ! 今回は本当にダメかと思ったにゃ!」
そんな、ミアとニアの言葉に痛くない殴り方をする嫁ちゃん達、甘噛みのような行為にすら感じるそれを甘んじて受けながら俺は笑っていた。
事情を知らない人が見たら、かなりのドM野郎に見えるんだろうが、それでも元に戻れた事実と嫁ちゃん達としっかり触れ合えることを全身に感じて喜びを噛み締めていく。
最後は全員を抱きしめてから、笑みを浮かべた。
「喜びの儀式が済んだなら戻るとしよう。新たなる息子よ。初の狩りを成功させたのだから、祝いの宴をせねばならぬからな!」
パピィさんの言葉にナギが嬉しそうに笑みを浮かべると俺は抱き抱えて振り回されてしまった。
俺は生け捕りにしたドレインワームのメスを解放することにした。
散々狩りをしてしまった後になるが、この幼体に罪はないのだ。甘いと言われたら、甘いのだが、それでも、魔物だからと幼い子供を殺めるような真似は俺にはできなかった。
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