154話、ナギの故郷、パピィと息子
3人が投げつけた布袋が破け、塩が飛び散った瞬間、ヒル型の魔物たちは「ギギギギッ!」と耳障りな悲鳴を上げた。
表皮がじゅわっと白く変色し、動きが一気に鈍る。
「よ、よしゃあ! 効いたぞ! もっと投げてくれ!」と俺が伝えると、3人が互いに頷き合い、残った塩を一斉に握りばら投げていく。
その結果、ヒル型の魔物達は動きを鈍らせることになり、しつこいヒルの大群から何とか逃げることができた。
一息入れる俺達の正面の草むらがガサガサと音を出して、揺れていく。
一難去ってまた一難、そんな言葉がよぎる。
俺達は視線を正面に向けて身構えた。
次第に草むらからの音が大きくなり、ペコとグーの手に力が入るのが目に見えて理解できた。
ただ、ニアとナギは、音が近づくにつれて、警戒を緩めているように見えた。
「にゃ? 前に嗅いだことのあるニオイだにゃ〜」
「大丈夫、パピィの仲間、よかった」
会話をしている間に草むらから、「ん? お嬢とお嬢の群れの仲間じゃないか!」「本当だ! ヤバイメイドの仲間だ!」と、2人の蛇人族が姿を現す。
ポワゾンの印象が強いのか、周囲を警戒するように辺りを見回している。
「悪い、今は俺達だけなんだ」と、小さくなった俺が声をかけると2人組の蛇人族が目が飛び出るほどに驚きを顕にしていた。
「オマエ! お嬢の群れの長だよな?」
「顔が一緒だから、長だ! 間違いない。ただ……小さいな?」
互いに確認し合うと少し悩んだように首を傾げた2人は何かを理解したように頷き、ナギに視線を向ける。
「お嬢、おめでとうございます! お子ができたのですな!」
「確かに長殿に似ている! 間違いないぞ! めでたき宴だ! 我らが長に伝えねば」
2人が盛り上がる最中、ナギが拳を握る。
「話を聞け! ナギとマイマスターは子を成していない! 紛れもなくマイマスターだ!」
ナギは大声を上げながら、首元の檻を指さして2人の会話を停止させる。
黙った2人組に向けて、両手を組んだナギが軽く苛立っている雰囲気を察したのか、軽く距離を取ろうとする。
「逃げないで! パピィに会いたいから、先に伝えて来て」
「え、長にか? お嬢、今は良くない!」
「そう、長は今、奥方様と二人の時間過ごしてる……会うのは難しい……かと」
何とも歯切れが悪く、曖昧な話をする2人の姿にナギが両手を広げて雄叫びにも似た大声をあげる。
「だ・ま・れェェエエッ!」
「「はい!」」と固まる2人は、そのままナギの指示に従う。
それからすぐにナギのパパさんの群れから数名の迎えの戦士がやってくるとすんなりと案内してもらうことになった。
迎えに来てくれた蛇人族の戦士さん達も俺の救出作戦に参加してくれていたようで最初は驚かれたが、その後は、なんら問題なくナギのパパさんが支配する沼地の中心へと進んでいく。
ナギのパパさんの支配する沼地は巨木などに囲まれた地域にあり、沼地でありながら、太い幹から伸びた枝が太陽を軽く遮るように広がっている。
俺はスケールの違う巨木というには太すぎるそれを目の前にして圧倒されてしまっていた。
そこで俺は新たな事実に気付かされる。
俺はいまだにナギのパパさんをあろうことか、ナギのパパさんという事実しか知らないのだ。
名前や風習、習わしなど、会う前に知っておくべき事柄などを完全に疎かにしていた事実に直面していた。
「な、なぁ、ナギ? ナギのパパさんの名前って教えてもらえるか?」
それとなく質問をするとナギは不思議そうに首を傾げた。
「ナギのパピィはパピィ。前にも会ってる。忘れた?」
純粋にそう聞かれたら、逆に何にも言えない事実に俺は頭を悩ませてしまった。
悩む俺の姿にミアがナギに質問する。
「ナギ? ニア達はナギのパピィをなんて呼べばいいのにゃ?」
「パピィは皆に長と呼ばれてる。だから、パピィは長って呼ばれてる」
「わかったにゃ。ならキンザンもニア達も長と呼ぶにゃあ!」
俺を見てドヤ顔を浮かべるニア、俺はそれでもかなりグッジョブだった。
分からないまま、話すよりも、僅かでも呼び方が分かっただけで本当に助かるからな、一安心だなと安堵した。
すぐにナギの故郷に辿り着くと村で一番巨大な木の前まで案内される。
巨木には、巨大な扉がつけられており、数名の蛇人族が両開きの扉をゆっくりと開いていく。
巨木の中には階段が地下に向けて繋がっており、階段の至る所に空気の抜け穴が作られているのが分かる。
正直、地下の構造にも驚かされたが、何より、雨とかが降ってきたら大丈夫なのだろうかという疑問が頭によぎっていた。
不思議そうな俺の表情にナギが声をかけてくる。
「どうしたの、何か気になる?」
「あ、すまない。ただ、雨が降ったらどうなるんだろうなって思ってな」
「雨が降ったら、木の上にある家に移動する。雨がない時は下を使う」
予想外の返答に驚かされたが、ナギ達、蛇人族からすれば、それが通常らしく、逆に不思議がる俺の方が不思議そうに見つめられる結果になった。
地下に進み、複数の扉が広がる通路を進むと他の扉よりも頑丈そうな扉が姿を現す。
再度、数名の蛇人族が扉を開いた先には上に繋がるような階段が姿を現す。上がった先には巨大な空間が広がっていた。
床には枯れ草が敷かれ、その上に木材が敷き詰められており、奥に座るナギのパパさんがニッコリと笑みを浮かべているのが視界に入ってくる。
「おぉ! ナギの群れの長殿よ。よく来たな。嬉しいぞ」
「突然の訪問ですみません……」
「いやいや、先に報告に来た者から、小さくなったと聞いて、心配したぞ! それに今回、我らの土地に足を運んだ理由もそれに関係があるのだろう? 話を聞かせてもらおうか?」
ナギのパパはそう口にしてから、俺達を席に座るように言われて座っていく。
奥側から蛇人族の侍女さんが飲み物を運んできてくれる。
レモの実を磨り潰したような清々しい柑橘系の香りにニア達が嬉しそうに飲んでいく。
ちなみに俺には、小さな皿に乗せられた同様の飲み物が目の前に置かれている。
ただ、今の俺から見てたら巨大な水瓶サイズの木の実の殻を半分に割ったものがコップとして置いている感じだ。
「美味いですね。凄くスッキリした味で驚きました」
「ガハハ。気に入ったか! ナギの旦那ならば、息子も同然なのだ、楽に話せ。他の嫁方も繋がれば、我らの家族なのだ。遠慮は要らぬぞ」
ナギのパパさんはそう言うと豪快に笑っていく。
「はは、助かります。お言葉に甘えさせてもらいます。えっと、なんて呼べばよろしいですかね?」
俺は明るい雰囲気に気にしていた質問を口にするとナギの父親は訝しげに首を傾げる。
「以前にナギが呼んでおっただろう……息子よ。忘れたか?」
「え? いえ、依然、ナギはパピィさんと長さんを呼んでたことしか……」
「うむ。群れの長は皆の父となる。だから、皆は長と呼び、家族と親しき者、群れの皆は、パピィか長のどちらかで呼ぶのだ。息子よ。パピィと呼んで構わぬぞ」
ナギの言葉の意味が理解できた瞬間だった。
蛇人族の文化なのだろう、だからナギは「パピィはパピィ」と言っていたのか……
「いや、あの……」と、俺が言葉に詰まるとナギが俺に顔を近づける。
「マイマスターは、大切な家族。パピィもナギも家族、いや?」
ナギさん、今のタイミングでそれはズルいように感じるんだが、パピィさんもなんか、残念そうな顔してるし!
「パピィさん。改めてよろしくお願いします」
覚悟を決めて、口にした瞬間、パピィさんは嬉しそうに微笑むと目の前に置かれた飲み物を一気に飲み干していく。
「ファァ! 嬉しいぞ。息子よ! すっかり話が逸れてしまったが、今回の目的を教えてくれるか」
俺達は、なぜこの沼と自然の土地【マーシュマレ】に足を運んだのかを説明していくことにした。
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