153話、湿地帯は虫だらけ? カエル達にご用心
ボロ小屋の転送陣を通過した先に広がる景色に俺は驚いていた。
俺達からすれば初めての、ナギからすれば見慣れた湿地帯が広がっていた。
初見の印象は、聞いていた沼ばかりの土地とは少し違い、最初に言った通り湿地帯を思わせる風景がどこまでも続いている。
軽く補足するなら、湿地は、常に水を含んだ土地全般を指す。
その中に沼地も含まれる。この沼地は、沼の水そのものが深く中に泥が溜まった土地を指すことが多い。
さらに言えば、湿地の中には樹木が育たない草原状の「湿原」など、育つ植生や種類の違いによって分類される。
「にゃ〜泥んこだにゃ……じめじめだにゃ……」
ニアが足元を気にしながら、そう呟くとナギが直ぐにある方角を指さす。
「あっちがパピィの支配する土地。反対にあっち側が人族達の街がある方向」
俺達は左右別々に移動を開始する。
ミア、ミト、ベリー、ドーナは人が住む村があると言われた方に向かい、居なくなった兄妹の情報を聞きに行くことになる。
俺はナギのネックレス型の籠に入れられたまま湿地帯の奥へと進むことになった。
早く、フライちゃんとポワゾンに合流したい気持ちを抑えながら、まずはナギのパパさんが支配する土地ということもあり、挨拶に向かうことになる。
湿地帯を進むナギのスピードは早く、ニアとペコ、グーもナギの背中に掴まる形になっていた。
「早いにゃ〜快適だにゃ〜♪」
ルンルン気分のニアが鼻歌まじりにナギにしがみ付いている。
「早すぎるよグー!」
「大丈夫だよ、ペコ。うわぁぁぁ!」
ナギの背に必死に掴まるペコとグーの姿があり、楽しむニアと違い、少し怯えているように見える。
湿地帯が沼地に変わり、ナギのスピードがさらに上がる。
順調に進んでいるように感じていると、急にナギがスピードを緩め始める。
「どうしたんだ、ナギ?」と質問するとナギは軽く視線を斜め後ろに向ける。
「皆、しっかり掴まって……魔物がいる」
「にゃ!? 本当かにゃ〜!」
「「沼地だと、足場が……どうしよう」」
ナギの背中側で慌てる3人同様に俺も慌てたが、ナギはいつも通りの声で口を開く。
「足場は大丈夫。すぐに戦える場所に行く。それより落ちないで、落ちるとさすがに助からない……かも?」
「はにゃ! ニアはまだ死にたくないにゃ〜!」
「「私達も死にたくないです!」」
3人が力強く掴まったのを確認したナギが最初よりも速度を上げていく。
沼地を進むナギに向けて、泥玉のような水弾が発射されていく。
最初の一撃が発射された途端、四方八方から泥弾が発射される。
ナギは背後からの泥弾を躱しながら、近くに落ちていた朽ちた木を腕でへし折り、泥弾が発射された方向を確認すると力任せに木を投げ放つ。
長く伸びた草の先に木が投げ込まれた途端、魔物の悲鳴であろう「グエェェッ!」という聞くに絶えないような声が聞こえた。
ナギは俺達が声の主を気にする最中、さらに木々をへし折り同じ行動を繰り返していく。
最初と比べれば泥弾の勢いは弱まっていたが、それでも、まだ十数体の魔物が俺達を追いかけて来ているのが理解できた。
そんな激しい攻撃の中を高速で移動していたナギが突然方向を変更する。
ナギの急な方向転換、ニアは必死にナギの首にしがみ付き、ペコが腕にしっかりと力を入れる。
だが、グーが飛び跳ねた瞬間、ナギの腕に付いていた泥で滑るようにして、ナギから放り出される。
「うわぁぁぁ! ペコぉぉぉぉッ!」
「アァ、グぅぅぅぅぅぅーーーッ!」
そんな2人の声が叫ばれたと同時にナギが素早く手を伸ばして、振り落とされたグーの服を背中から掴み、掴んだまま移動を開始する。
「グぅぅぅぅ! よがったぁぁぁ」
「あ、あは、は、死んだかと思ったよ……」
2人が無事を喜ぶと同時にナギが高くジャンプして、着地すると身体の向きを今まで移動して来た方向に向ける。
「ついた! 足場、ここなら大丈夫」
俺以外のみんながナギの背中から降りると武器を構える。
草むらから泥弾が勢いよく発射されながら、ガサガサと姿を現したのは、巨大なカエル型の魔物だった。
青紫色の表皮に長く赤い舌をだらりと口から出している。
俺達が戦闘スタイルに入っていることに気づいたのか、追跡を止めると頬を大きく膨らませていく。
一番最初に頬を膨らませた巨大カエルの魔物が勢いよく泥弾を発射するとナギがその一体に向かって動き出す。
巨大カエルが泥弾を放つ刹那、ナギは水飛沫を蹴り上げながら一気に間合いを詰める。
ナギの腕が凄まじい速度で巨大カエルに向かったかと思った瞬間──「逃がさない」と低く呟き、宙を舞った巨大カエルの頭を片手で鷲掴みにする。
鎧のように硬い青紫色の皮膚から「ミシ、ミシッ!」と音を立てたと思った次の瞬間、ナギの握力が頭蓋を砕いていた。
「お土産できた。嬉しい」と、そう呟いたナギは容赦なく、巨大カエルの頭を次々にクラッシュさせていく。
そう、文字通り……クラッシュした巨大カエルの動きが止まり、手足が地面に向けて力なくだらんとなったのを確認したナギが平らな場所に放り投げていく。
「カエルはご馳走……オマエ達、逃がさない!」
ナギのさっきに気づいた巨大カエル達は、がむしゃらに攻撃を開始する。
それを合図に今まで追われるだけだったニア達も参戦していく。
「足場がしっかりしてたら負けないにゃ!」
ニアが巨大カエルの泥弾を軽々回避して、容赦なく短剣を突き立てる。
「グえぇェッ!」
「ざまぁみろにゃ! どんどん行くにゃ! ペコ、グーもやるにゃぁ!」
「「はい!」」
「さっきのお返しだぁぁぁッ!」と、グーがガントレッドを装備した拳を全力で突き出していく。
巨大カエルの腹部がグワンと凹むとその場に倒れてピクピクと数回動いた後に絶命する。
同時にペコが槍を構えて、巨大カエルを一突きにしていく。
早い話が戦闘は余裕で行われていく。
最初こそ、巨大カエルの激しい攻撃に驚かされたが、蓋を開けてみれば、何ら問題なかった。
一つ、問題があるとすれば、俺はナギの首元にいるためで、全ての残虐行為を目の当たりにしてしまっている事実だろう……
過去の自分が肉の解体や屠殺場を見ていたからこそ何ともないが、普通なら一生もののトラウマになるレベルだったことは言うまでもない。
手土産という形で、大量の巨大カエルを手にした俺達、運ぶのに荷物になるため、試しに俺は一匹の巨大カエルを【ストレージ】に入れてみることにした。
今の俺から見れば、リアル恐竜サイズと言えば伝わるだろうか、本当にこのサイズのカエルがいたら、人なんて丸呑みだろう……そんな感想を考えずにはいられない。
一匹を【ストレージ】に入れてから、取り出して見ると、入れた際のサイズのまま、巨大カエルを取り出すことができた。
「お、おぉー! 見てくれよ。ちゃんと【ストレージ】に入れたままのサイズだ!」
小さくなってから初めての【ストレージ】使用でハラハラしていたが、無事に入れたサイズのままだった事実に感動しつつ、数回出し入れをした後に【ストレージ】にすべての巨大カエルを入れて移動を再開する。
それからも似たような襲撃があったが、巨大カエル、ワニ型の魔物など、食べられる魔物を多く仕留めることができた。
足場がない場合でも、ナギが即座に移動して戦いやすい場所を見つけるため、俺達は最初こそ苦戦するかと覚悟をしていたが問題なく進むことができていた。
しかし、やはり沼地ということもあり、食べられない魔物も少なからず存在する。
ヒル型の魔物に関しては食べられないだけでなく、皮膚は硬く、炎が弱点という厄介な魔物だった。
ただ、それでも俺なりに知識が役に立つ瞬間でもあった。
ヒル型の魔物と対峙した際の話になるが、大量のヒルに追われることになり、さすがのナギもネズミサイズの大量のヒルを相手にするのは、無理だったようで逃げることになった。
その際、俺は調理に使うための塩を持ってきていたことを思い出して、すぐにナギの背中に掴まる3人に声をかける。
「ニア、ペコ、グー! 3人は食事用の塩をあいつらにぶつけるんだ!」
「はにゃ? 塩、キンザンお馬鹿なのかにゃ! あんなの食べれないにゃ!」
「そうですよ主様、あれは食べたくないよ!」
「グーとニアに賛成だよ。それに逆に食べられちゃうよぉぉぉぉ!」
「いいから、ありったけの塩をぶん投げるんだ! 塩があいつらの弱点かもしれないから!」
俺の言葉にニアがリュックの中から塩の入った布袋を取り出すと3人が後方に向けて投げつけていく。
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