152話、沼と自然の土地【マーシュマレ】
俺はナギを見つめながら、ある事実を思い出して、ハッとした顔をする。
その瞬間、ナギの手の平に乗り、できるだけ大きな声でナギに伝える。
「ナギ! 上に頼む、上に上げてくれ」
ナギがゆっくりと俺を持ち上げると、そのまま、耳元の高さまで手を上げてくれた。
そして、小さな声で質問をする。
「メフィスに聞こえないように喋るから、悪いが、“はい”か“いいえ”で答えてくれ。ナギの故郷から戻った際に使った転送陣は、まだあるのか?」
「──はい。まだある」
ナギがそうつぶやいたのを聞いてから、メフィスに向かって声を張り上げる。
「メフィス、悪い! 俺達も話し合いをするから、一旦、帰るぞ!」
喉が枯れるくらいの音量でメフィスに向けて叫ぶとすぐに笑みが返された。
「構いませんよ。我輩は情報を伝えただけですからなぁ、あと追加として──
貴方が気にかけていた、オアシス都市【ガルド・ゼデール】警備兵団、元団長のアクティは無事に回復してこの屋敷を去りました。感謝の言葉を口にしていましたことをお伝えいたします」
メフィスの言葉を聞いて、軽く頭を下げた後、俺達も屋敷を後にする。
帰り道を急ぐ最中、ナギから転送陣が設置された場所を聞いてみる。
「ナギ、転送はどこにあるんだ?」
「街の隅にあるボロ小屋。誰も使ってないから使うってフライが言ってた」
完全に不法侵入案件なんだが……まぁ、それは後でなんとでもなるから、今はこの問題は放置だな。
俺と嫁ちゃん達が慌てて、ナギに案内されたボロ小屋まで辿り着くとなぜか数人の人集りができていた。
「ん? なんだ、空き家じゃなかったのか?」
俺はそう口にしたと同時に、見慣れた人物の姿が目に入ったので、ナギに近づいてもらうことにした。
ちなみに今は、ジャンケンに勝利したナギの首から胸元までの長さの籠に入れられている。
改めて、籠の鳥が辛いという意味を再確認することができた。
そんな俺がナギに頼み、俺の見慣れた人物に接近する。
見慣れた人物とは立派な髭に鍛えられた体、そして、一度見たら忘れられないヤクザ顔のジンさんだった。
「おーい、ジンさん! 何してるんだ!」
俺の叫び声の方向に視線を向けるジンさんと他数名の男性陣が驚愕の表情を浮かべたのがわかった。
「な、なんだァ! 蛇人族だ!」
「おわっ、待て待て! うわぁぁぁ」
凄まじいスピードで近づいたためだろうか、ジンさん達が腰を抜かすように驚いている。
「ジンさん、大丈夫か? 俺だよ。キンザンだ」
俺の声を聞いて周囲を見渡すジンさんにナギが俺の入った籠を首から外して近づけて見せる。
「な、確かにキンザンじゃねぇか! どうしたんだよ、その姿!」
「いや、色々あってな……はは、それよりジンさんはどうしたんだ?」
俺の質問に慌てて、目的地であったボロ小屋に視線を向ける。
「実は最近、あの小屋に住み着いて、寝泊まりしていたらしい兄妹のことでな。なんでも、今朝から姿が見えないらしくてなぁ、仲のいい兄妹らしくて、心配で一度、様子を見にきたところなんだ」
話を聞けば、この兄妹は毎朝教会で祈りを捧げるのが日課だったそうだ。
そんな兄妹が祈りにこないことを心配したシスターから相談された結果、今に至るらしい。
ここまでの話を聞いて、俺の思考が最悪の展開を描き出していく。
祈りを捧げる信仰心、フライちゃんの臨時の転送陣、消えた兄妹……
間違いなく、ナギのパパさんの支配する土地に行ってる!
「ジンさん、絶対に中には入らないでくれ……これ以上厄介になると本当にやばいことになるからさ」
集まったジンさん達に忠告をしてから、急いでボロ小屋に入って行き、室内を確認する。
狭い室内には小さなベッドと小さな木の板のテーブルがあり、別の部屋には、ボロの敷物が置かれ、さらに大きな穴が壁に空けられた部屋があった。
「な、なんだよ、このすごい穴……」
俺は予想していた最悪と違い、二人の兄妹が人攫いにでもあったのかと疑ったが、予想外にナギが口を開いた。
「ナギ達が来た時、通れなかったから、穴をパピィが開けた。壊さないように気を使った」
なぜか偉いでしょっと言いたげな顔に俺は軽く引きつりながらも無言で首を縦に振った。
忘れていたが、ナギもデカイ女の子だが、ナギのパパさんはさらに巨大なのだ……だから気を使ったというのは事実なのだろう。
俺はそんなことを考えながら、室内を見渡す。
ボロボロの敷物の下に転送陣が隠されており、それはフライちゃんがバレないように引いた敷物だとナギが語った。
フライちゃんの存在を知らなければ、どかせないように術式を上からかけてあり、内容を知らない者は動かせないようになっていた。
ただ、不思議だったのは、その転送陣は布から半分見える形になっており、そばには小さなコップや僅かな木の実が乗ってたであろう木皿が、無造作に床に落ちている。
「やっぱり、転送してそうだな。みんな悪い。今からは少人数であちらに行こうと思うんだ」
俺の発言にミア達が驚きながら声を出して顔を近づける。
「オッサン、なんでだよ! 意味がわからないし」
「ミアの言う通りにゃ! キンザンにかけられたスキルを皆で解除しに行くにゃ!」
俺はミアとニアに優しくも申し訳ない気持ちで声をかける。
「悪いな。今から向かう場所にいる奴はスキルを奪う魔物のドレインワームなんだ。みんながそいつと戦って、もし何かあれば、俺は自分が許せないんだ!」
心からの声をできるだけ大きく口にする。
「はにゃ? だからなんなんだにゃ? ニアは、戦闘技術しかないから、スキルなんてないにゃ〜」
「ナギもない。ナギ達、蛇人族は力と身体で戦う!」
「「私達もその、装備した際に使用可能なスキルしかないので、自分自身のスキルみたいなのはありません……すみません」」
ニア、ナギ、ペコ、グーがそう口にする姿に俺がミア、ミト、ドーナ、ベリーを見つめる。
ベリーは不服そうに頬を膨らませる。
「私とドーナは確かに魔法スキルがあるわね……」
「な! ベリー、ドーナはいいの! マスターと行くの!」
「ダメよ? 私とドーナのスキルが取られたらキンザンさんが悲しむわよ?」
ベリーの説得にむくれたドーナがゆっくりと頷いた。
「わかってくれてありがとうな、ドーナ。ベリーもすまないな」
「いいわよ。ただ、私達も転送陣であちらには行くわ。行方不明になった兄妹を探すのに人手は必要でしょうからね」
「大丈夫なのか? なんかあったら……」
「心配しすぎよ? 私とドーナは強いから大丈夫よ」
ベリーとドーナの言葉にミアが「はぁ」と、溜め息を吐くとなぜかミトの肩を叩いた。
「ん? なんだよ、ミア」
「ミトとボクがベリーとドーナについていくよ。それならオッサンも安心だろ?」
「はぁッ! なんでウチがそっち側なんだよ! ミアの相方はニアだろうが!」
ミトの言葉にミアが落ち着かせながら、説明をしていく。
「今回は探索と魔物の発見がメインなんだよ。ニアは、ボクより嗅覚が鋭いし、ナギは土地勘があるだろ、ペコとグーは魔物討伐に慣れてるし、わかってよ」
「かぁ、アァッ! もう、わかったよ、畜生がァ! これは貸しだからなミア!」
ミアの提案に納得すると話が決まり、俺達はすぐに転送陣に乗り、ナギのパピィさんが支配する地域へと移動することになる。
「あ、ニア……オッサンからもらった【スピードアップ】のスキル、奪われるなよ! わかったな!」
「わかってるにゃ〜 ミアとお揃いだから、無くさないにゃ〜」
ミアとニアが笑いながら互いにガッツリと腕を重ねて会話が終わる。
確かに、また買えば済むが、なんやかんやで、ミアもニアもスキルはあるんだよな……まあ、仕方ないか。
俺達の目指す目的地は沼と自然の土地【マーシュマレ】である。
ナギの説明から、ドレインワームの巣は既に把握している。
フライちゃんとポワゾンが先に向かっているであろう事実もあり、俺は自分自身が即座に動けない事実を情けなく思いつつ、急いで2人の後を追うことになった。
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