151話、殿下の約束と新たな情報
僅かながら笑顔を取り戻した餃子作りは食事も含め、ギスギスとした嫌な空気を完全に払拭してくれた。
1人1人の食べられる量は僅かだったがその場の皆が満足した表情になっており、俺は素直に喜びを感じる結果となっていた。
そして、片付けが終わる頃、メフィスの部下であるキミルが姿を現した。
餃子を焼いている際や、食事の時も姿を現さなかったので何か別件で動いていたのだろうことが理解できた。
メフィスはキミルに話しかけられた後に、軽く頷いてから、ルフレ殿下の方へと歩き出し、耳元で何かをつぶやくようすが見て取れた。
まぁ、気にすることもないだろうと、俺も何か手伝いが出来ないかと探していると「イヤじゃぁぁぁ!」という凄まじい声が耳に響いてくる。
「なぜじゃ! 余は、もう暫くこの場に居たいのじゃ! 帰るなど嫌じゃ! それに、まだ話し足りぬ、ミトや他の奥方とも話ができておらぬのじゃ!」
困り果てた表情のメフィスと、一歩も引く気がない様子のルフレ殿下の姿があり、どちらも譲れないと言い争いに発展しようとしていた。
「余はもっと話したいのじゃ、皆と語り笑いながら時を過ごしたいのじゃ……」
「はぁ、最近……我輩のため息の回数が増えるばかりですなぁ……で〜すがぁーッ! そんな殿下のために我輩はキンザン殿を、王都に招待してありますので、ご安心ください」
急に方向転換された言葉にルフレ殿下の視線が俺に変化させる。
「そうだったのか! ずっと余との謁見を断っておると聞いてたので、余は嫌われておると思って悲しかったから、此度は無理をしてきたのじゃが……」
嬉しそうな満面の笑みで俺を見るルフレ殿下の眼差し、ヒーローショーや、魔法少女のショーを見る子供達が放つ眩しい笑顔を感じさせる屈託のないそれに俺は静かに頷いていた。
「良かったのじゃ! メフィス、余は嫌われてなかったぞ。嬉しいのじゃ!」
「はい、ですので殿下、殿下は早めに王都に戻り、キンザン殿にかけられた悪意のスキルを解除ができる者を探さねばならないかと存じ上げますなぁ」
「な、だが、余は既に命令をして、探させておるぞ?」
ルフレ殿下が言い終わると同時にメフィスが小声でつぶやいているのがわかる。
「殿下、殿下自身が方法を探すことに意味があるのです。誠意には誠意が返されますからなぁ。キンザン殿は特に感謝の心を忘れませんので、得策かと……」
軽く頷くルフレ殿下。すぐに俺に視線を合わせると口を開いた。
「キンザンよ。余は戻らねばならないのじゃ、絶対にお主を元に戻す方法を見つけるので、そしたら、その、あれじゃ……余の城に遊びに来てくれるか? 奥方も一緒で構わぬしのぉ……」
俺の返事を不安そうに見つめる表情の後ろで、“絶対に断るな!”と身振り手振りで俺に伝えるメフィス。
「分かりました。約束しますね。まぁ、姿が戻らなくても一度、遊びに行かせてもらいます」
「おぉ! 約束じゃぞ! 余は約束を破られるのが嫌いじゃ、本当の本当に約束なのじゃ!」
それから数回の同じような会話を繰り返した後、数時間もしないうちに、ルフレ殿下は側近達とメイド長のエリプエールさんやメイドさん達と、ともに王都へと繋がる転送陣で帰っていった。
それからすぐにメフィスから話があると言われて、警備兵団、団長のアクティが療養している屋敷へと呼び出されることになった。
俺は嫁ちゃん達に説明をすると「私達も話を聞く」と言われ、不在のフライちゃんとポワゾンを除く全員で向かうことになった。
屋敷に繋がる坂を登った先にキミルの姿があり、すぐに屋敷の中に通されると先に戻っていたメフィスが待ち構えていた。
「すみませんなぁ、皆様もソファにお掛けください。今から大切な話をいたしますのでなぁ」
メフィスに言われて腰掛けた嫁ちゃん達、俺もテーブルの上へとゆっくりと下ろされる。
メフィスはキミルから今、フライちゃんとポワゾン、エオナ中佐が必死に解除スキルを探している話を伝えた後、ある方法について語り出した。
「実を言えば、この禁忌のスキルは人が作り出した解除スキルでは解除できそうにありません……
ただ、解除スキルとは別の方法で解決できる可能性があるのです」
俺を含め、嫁ちゃん達がホッとした表情を浮かべるとメフィスは、少し困った様子で言葉を続けた。
「──ただ、その方法が少し問題が多いのが難点でしてなぁ……」
不穏な雰囲気を漂わせるメフィスは軽く息を吐いた後に言葉を続けた。
「実を言えば、スキルを吸収する魔物が存在するのですが、下手をすれば、自身が所持しているスキルが奪われる可能性があるのです」
メフィスの言葉を聞いたミトとミアが同時にテーブルを叩きながら立ち上がる。
「ふざけんなよ! 詐欺師野郎が!」
「そうだよ! オッサンの受けたスキルを解除するって約束が! なんでそんな危ない話になるんだよ!」
怒りを表情に出し、怒鳴る2人にメフィスもテーブルを叩く。
“バンッ!”とテーブルが揺らぐと僅かな沈黙が流れる。
「説明を最後まで聞いてから、反論して頂けると助かるのですが……話を続けてよろしいでしょうか?」
静まり返った空気の中、再開された話の続きを聞いていく。
「今回の討伐対象の魔物ですが、『スキルキャンセラー』と呼ばれています。正式な名前を『ドレインワーム』です。聞いたことのある人はいらっしゃいますか?」
俺は当然、首を横に振る。そして、ミトとミアを初めとする嫁ちゃん達が首を横に振る中、ナギだけは手をあげる。
「ナギ、知ってる……パピィの支配する土地にいる厄介者……やつらは面倒」
怒りを顕にするナギの様子からも、言葉の通り厄介な存在なのだろうと想像がつく。
「ただ、我輩がこの話を持ち出した理由は、他でもなく、それしか方法が存在しないからでしてなぁ、ドレインワームを討伐するには、多くの兵を投入する必要がありますが、今、話に出ましたが──」
メフィスはナギの同種族である蛇人族の支配する地域にドレインワームの生息地が存在する事実を伝えた後、更なる情報を口にした。
「このドレインワームはオスが対象者のスキルを奪い、メスが掛けられたスキル(バフ)を吸収します。まぁ、デバフスキルもバフスキルも関係なく吸収するメスのドレインワームなら、間違いなくキンザン、貴方の姿を元に戻せるでしょうなぁ」
最後ににっこりと笑うメフィスに俺はなんとも言えない感情が込み上げてきていた。
話を聞く限りは確かに救いの一手なのだが、間違いなくリスクの方が高いからだ。
「おい、メフィス? 今は、こんな姿の俺が1人で何とかできると思うか?」
「ふ〜む、無理でしょうなぁ?」
「それなら、なしだ。そんな危険な話を聞いて、俺が嫁を連れて行くと思ったのかよ!」
「いいえ? 間違いなく反対すると確信を持って言えますなぁ」
「なら、何のためにそんな話をするんだよ!」
軽く怒りを感じてしまった俺がメフィスに視線を上げると、メフィスは静かに口を開いた。
「ですから、これは事後報告のようなものです。既にドレインワームのメスを捕獲しに向わかれてしまっているのですよ……我輩の部下も後を追わせていますが、意味がわかりますかな?」
メフィスの言葉に怒りが一瞬で冷め、背筋に冷たい汗が流れる感覚に襲われた。
「おい、メフィス! まさか、向かってるって話!」
「はい、女神フライともう1人の奥方様ですねぇ、キミルの話とエオナ中佐の話からの推測になりますが、資料室の開かれたページがドレインワームについてのモノであり、調べた結果、王都からは既に2人の姿が消えていたそうです」
メフィスは報告を受けてすぐに部下を総動員して、2人を探したが、王都には姿がなく教会から転移した様子もないことを俺達に伝えた。
ただ、メフィスは女神フライならば、転送陣を使わなくとも目的地に行けるだろうと推測しており、俺もメフィスの考えに同意見である。
「くそ、どうしたらいいんだよ!」
苛立つ俺にナギが心配そうに声を掛けてくる。
「大丈夫、2人は強い、安心してマイマスター」
そう言われ、俺はナギを見つめていた。
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