144話、小さな後悔、グリド商会の食材保管庫
一人の犠牲者が出たが、楽しそうに食事を終えたルフレ殿下は満足そうに俺へと微笑みを浮かべた。
本来は緊迫したグリド商会の調査という状況で生まれた僅かながらの休息と言えるだろう。
一時はどうなるかとヒヤヒヤしたが、何事もなかったと……そういうことにしようと思う。
とりあえず、他の兵士達にとってもいい休息時間になっていたらと願うばかりだ。
結局、いまだに逃げたズナッキー・グリドは見つかっておらず、状況はあまりよろしくない。
ルフレ殿下に連れられて、ズナッキーの会長室だった部屋に案内される。
室内には開かれた巨大な金庫があり、壁には空っぽの棚が目立ち、最初から空だったと説明された。
床には本や書類が散らばったままになっている。
ただ、一つ、わかったことがあった。
ズナッキーがグリド商会から逃げる際に金品を持ち出している事実であり、その量は膨大であった。
本来なら、絶対に1人では持ち出せない量であり、俺もその話を聞いて、軽く思考を巡らせていた。
考えるなら、俺みたいに【ストレージ】のようなスキルがある者を仲間として連れているのか、もしくはズナッキー本人がスキルを保持しているのか……
「この金庫の中身ってどれくらい入ってたんだ?」
ポツリと呟いた俺にルフレ殿下は部下に説明するように指示を出す。
「は! 捕縛したグリド商会、職員から話を聞いた結果、金庫内には大量の金貨と金の装飾品、宝石類が入っていたようです!」
「やっぱり、大量の金貨があったんだな。ならどうやって持って行ったんだ?」
少し悩みながら、見落としがないように『調理用ゴーグル』を装着してから、金庫の中を覗き込む。
やはり空っぽの金庫であり……いや、金庫の隅に何か小さな粉のようなものを発見する。
砂金のように見えたそれを指先で掬い、近くで確認する。
俺が見つめる指の先、それがただの砂金じゃないことに気づかされる。
「おい、見てくれ! これ、砂金なんかじゃないぞ」
俺の声に一斉に視線が向くとルフレ殿下達が集まりだし、説明を求められる。
「なんじゃ! 何があったのじゃ、説明せい!」
慌てるルフレ殿下がグイッと顔を前に出してきたので、俺はすぐに指につけていた砂金と思っていたそれを白い布の上に置いていく。
肉眼では見えないそれに対して、“買い物袋”から虫眼鏡を取り出していく。
「なんなのじゃ? へんてこな形じゃのぅ……何ができるんじゃ」
興味深そうに虫眼鏡を見つめるルフレ殿下達に説明をしていく。
虫眼鏡が物を拡大して見るための道具だと説明すると目を輝かせた。
その姿を見た瞬間、本人には言えないが本当に幼い少女にしか見えない。
「余が最初に確認する! 早く見せるのじゃ、何がどう見えるかワクワクするのじゃ!」
虫眼鏡を手に取り、白い布に置かれた砂金サイズの塵を確認したルフレ殿下は驚きを顕にした。
「なんじゃコレは? 誰か! すぐに余の見たものを確認せい!」
慌てた様子で次々に確認していく兵士達。
俺は白い布の横に一枚の金貨を置いた。
虫眼鏡の先にあったそれは紛れもなく、小さくなった金貨であり、砂金と見間違う程のサイズなのにもかかわらず精巧に作られたそれは皆を驚かせた。
「これ、もしかしたら、まだズナッキーの奴、外に出れてない可能性があるんじゃないか?」
俺がそう呟いた瞬間、周囲から視線が再度集まり出す。
「マスター? どういうことなの! 説明するの!」
何となく、自分だけ分かってないと感じたのか、ドーナが元気に質問してきたので、他の全員にもわかるように考えを口に出していく。
「いや、もしも、ズナッキーがものや自分を小さくするスキルなり、魔導具を所持していた場合なんだが──」
俺は金貨のサイズから考えて、もしも、ズナッキー本人が小さくなれるとしたら、5、6センチ程度であろうと推測して話していく。
その言葉にルフレ殿下達が小首を傾げた。
「どうして、そう思うのじゃ? 確かに小さな金貨はあったが大きいまま持って逃げたかもしれんだろうに? 余に分かるように説明せい!」
俺はなるべく分かりやすく説明をしていく。
「俺の考えは単純にまだ近くにズナッキーが潜伏してると思うんだ」
「だから、なんでそう感じるんじゃ!」
「いや、こればかりは俺の考えとしか言えないんだが、もしも、予想外の攻撃をされて包囲された状況でって考えてみてほしいんだ」
仮に俺が逆の立場で包囲されたなら、自分の財産を何とか守りながら逃げる方法はほとんどないだろう。
しかし、憶測になってしまうがものや人を小さくすることができるなら、俺ならどうするだろうか?
そう考えた時、さらにズル賢いズナッキーなら、間違いなく、ほとぼりが冷めるまで身を隠すだろう。
逃げ出せない状態で安全に身を隠すためにって考えるなら、多分……
俺は考えながら、壁に貼られたグリド商会の設計図を見つめる。
わざとらしく開かれた地下通路の入口を無視して、その先にある食材保管庫を指さす。
「この保管庫を調べてもいいですか?」
俺は許可をもらうと早足で地下に向かって歩いていく。
食材保管庫は、既に調べられており、俺に同行してきた案内の兵士達は首を傾げながら、鍵を開けてくれた。
食材保管庫の中はぎっちりと食材が積まれており、人が隠れられる隙間は存在しない。
ただ、それは普通サイズの人間の場合であり、俺の考えが正しいなら、探せば何かが見つかるはずだ。
俺は兵士さん達に入口から一歩後ろで待ってほしいと伝えてから『虫取り用の両面粘着シート』を“買い物袋”から取り出して入口部分の溝に貼り付けていく。
それからすぐ、俺は兵士さんに食材保管庫内にある物品リストを見せてもらうと上から順に【ストレージ】へと収納していく。
食品リストから次々に俺の【ストレージ】へと収納していくと、隅で小さな影が移動していく。
俺がそれに気づき慌てて手を伸ばした瞬間、小さな声が叫ばれた。
「【縮小化】!」と声が聞こえた途端、俺の伸ばした手から、次第に身体が縮んでいく。
「な! おい、うわぁぁぁ……」
視線が次第に低くなり、すべてが巨大化していくような感覚に少なからず恐怖すら感じる。
まるで巨大なビルが並ぶニューヨークの街並みを思わせる視界に俺は慌てて立ち上がる。
俺が前のめりに転倒して、立ち上がった視線の先に小さくなったズナッキーが走っているのが見えた。
「くそ、なんであいつが! ここに来るんだぞい!」
慌てる姿のズナッキーに俺は立ち上がり走り出す。
しかし、かなりの距離があり、次第に距離が縮むも入口付近まで走るズナッキーに追いつけないでいた。
「だははは。ぞいぞいぞい! ざまぁ見やがれ! 貴様なんかに捕まってたまるか!」
そんな言葉を吐き捨てたズナッキーがその場に倒れたのを確認して、俺はゆっくりと走る足を止めて、歩いていく。
「なんだぞい! 離れないぞい……くそ!」
しっかりと粘着シートに身体の自由を奪われたズナッキーに俺は哀れみの視線を向けた。
「さて、このスキルを解除してもらおうか?」
俺の言葉にズナッキーが苛立った声を上げる。
「ふざけるな! スキルを解除してほしいなら先ず、解放しろ!」
「交渉ってのは、有利な方が条件を出すのが基本だろ? なら、俺の方が条件を出せるよな?」
ゆっくりと近づく俺にズナッキーの表情が青ざめていく。
それから、数回の説得も無駄だったため、諦めた俺は最終手段という名の『ワサビ寿司』をズナッキーの口に運ぶ決断をすることになった。
結果、水を飲ませる代わりにスキルを解除させることに成功した。
こんなことに食材を使ってしまった事実に少し後悔しながらも、無事に元のサイズに戻ることができたので本当に良かったと心から思った瞬間だった。
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