141話、魅惑のプリンアラモード
果物に対しては、こっちの世界にあるものを使うことにしたので、ニアが土産として持ち帰ったものから甘味が強いものを選んで角切りにしてもらう。
俺は皿に『パッチンぷりん』を移し替ていく。
皿に移したプリンにベリー達がホイップクリームをトッピングしていく。
カラフルな果実をデコレーションして、最後に“買い物袋”から取り出したシロップ漬けのさくらんぼをクリームの上に乗せていく。
「よし、完成だな」
最初の数分でプリンアラモードを作り終わるとすぐに複数のプリンアラモードを作っていく。
十数分で大量のプリンアラモードを作り終えると俺はメイド長のエリプエールさんにルフレ殿下の待つ部屋に運ぶのを手伝ってもらう。
運ばれたプリンアラモードを見たルフレ殿下は瞳を輝かせた。
「な、なんじゃ、これは! 黄色くて白いフワフワがのっておるぞ! しかも、果実も面白い形にカットされておるわ!」
ふふ、リンゴをウサギにしたのは正解だな。
「皆も見てみよ! 甘い香りがしておるし、見たことのない果実までフワフワの上に乗っておるわ!」
ワクワクするルフレ殿下のテンションが上がる最中、最初はいなかったはずの1人の側近が増えていた。
見たくなかったその男がルフレ殿下の前に置かれたプリンアラモードを遠ざけるように移動させる。
「な、何をするか! ダミオ、返さぬか!」
「いけません! この男は油断ならぬ卑怯な手を使う策士ですぞ! しかも、見たことも無い果実を使った不気味な食べものなど、毒見なく口にすることは、我は反対です! 国王である以上、ご理解ください!」
突然、ダミオがプリンアラモードを危険視した結果、側近達もその意見に次第に同調していく。
「殿下! すぐに毒見が必要になりましょう、このターブルンド騎士団、団長である我、自らが体を張りましょう! 我はどんな毒も無効化して、入れられた毒を判別することも可能ですからな!」
ダミオが説明を終わらせると、ルフレ殿下の前に出されたプリンアラモードを素早く手を伸ばし、毒味を開始する。
最初にクリームのてっぺんに乗るさくらんぼを食べ始めると、ヘタを取り、ボリボリと種ごと噛み砕いていく。
皿に載せられたプリンとクリームを念入りに調べるようにスプーンで砕き、何も異物がないことを確認し、口に運んでいく。
綺麗な盛り付けもデコレーションもあったものではなかった。
プリンアラモードが原型を失うにつれて、ルフレ殿下の表情が次第に狂気を帯びていく。
「ふん! 毒は無いようだな。さぁ、殿下! 安全確認が終わりましたので、お食べください!」
差し出されたぐしゃぐしゃのプリンアラモードだったものを見て、ルフレ殿下の手が震え出していく。
「メフィスよ……余は、我慢が足りぬか?」
「え、いぇ、そんなことは、決してないかと思いますが?」
「そうか、ならば、心が狭いのかのぉ……」
幾度かの問い掛けにメフィスがすべて、返事を済ますと、ルフレ殿下は満面の笑みを浮かべる。
「うむ、我慢の限界じゃ……」
ルフレ殿下が座っていたはずの椅子が横倒しになったかと思った途端、空を斬るような凄まじい風切り音が耳に響く。
勢いよく飛び上がったルフレ殿下が空中で一回転したかと思った瞬間、ダミオの左頬に回し蹴りを加える。
体格差があるはずのダミオが勢いよく吹き飛ばされて壁に激突する。
壁にめり込んだダミオの姿に俺が顔面を蒼白にしていると、メフィスがルフレ殿下に話しかける。
「殿下、いけませんなぁ……没収した屋敷は一時的な預かり品ですぞ? はぁ……これは壁の修繕をせねばなりませんなぁ」
「む、た、確かに……余としたことが、すまぬ……修繕は、余の個人資産から出すのじゃ……」
少し凹んだ様子のルフレ殿下にメフィスが自身の前に置かれていたプリンアラモードをルフレ殿下の前に置いた。
「我輩は、女性に対してダラしないこと以外は、この者を心より信頼しております……特に食に関しては、絶対の信頼を寄せられる男であると我輩は自信を持って言えますからなぁ」
他の側近達が、再度、何かを言おうと僅かに手を動かした瞬間、メフィスが冷たい表情で目を細める。
笑顔であるが、冷たく不気味なその表情に側近達が視線を逸らしていくとメフィスが口を開く。
「皆様には、少々……耳障りでしょうが、我輩が信頼していると口にした人物を疑うというなら、我輩と個人で話をいたしましょう……理解できるまで、じっくりと……」
メフィスは威圧的な口でそう語ると、手を伸ばそうとしていた側近達は静かに手を下ろした。
「国王陛下、こちらの料理は多分ですが、冷たい方が美味しく食べれる料理なのだと思います。それ故に、お早くお召し上がりください」
その言葉を聞いたルフレ殿下は俺に視線を向けて来る。
「キンザンよ! そうなのか、これは皿が冷たいだけではないのか!」
予想外のメフィスからのパスに慌てながらも俺はすぐに返事をしていく。
「えぇ、まぁ、間違いなく冷たくないと美味しくないですね……ぬるくなると味も食感も死んでしまうと言いますか……好まれない味になると言いますか……」
俺が歯切れの悪い返事をするとルフレ殿下の表情が更に険しくなる。
「つまり、ダミオのバカタレは余のぷりんアリャモードオの美味さを失わせたのか!」
「プリンアラモードです……まぁ、そうなりますね」と口にした時だった。
「失礼します! ルフレ殿下、地下通路の調査が済みました! 並びに禁忌の呪具と思われる複数の品を発見いたしました。持ち出しは危険と現場で判断したため、現物の確認をどうなさるかの指示を伺いに参りました!」
「な、なんじゃと、今なのか……確認には行くが、今すぐなのか!」
「ハッ! 禁忌の品の中には、既に開封された物も発見されており、実際に確認していただき、封印が必要な物を見極めていただきたいのです!」
「ぬぁーーー! わ、わかったのじゃ……さらば、ぷりんアリャモードオ……余は行かねばならぬのじゃ……」
かなり辛そうな表情を浮かべるルフレ殿下は、メフィスと側近達に対して声をかける。
「皆もついて参れ! 余が食べれぬぷりんアリャモードオを皆だけで食べるなんて、食べるなんて、許さぬのじゃ!」
メフィスが軽く頷くと、俺に対して、頭を下げてきた。
「悪いですなぁ、料理人の料理を前に手付かずで席を離れる失礼を心からお詫びします。許してくれますかな?」
これは、メフィスなりのルフレ殿下へのフォローなのだと理解した。
料理人への謝罪を一国、いや、大陸を統べる王にさせるわけにはいかないからだ。
俺はすぐにわざとらしく、大きく手を動かし、胸元に手を当てる。
「いえ、料理人として、国王陛下に料理を振る舞えたことを、心より嬉しく思います。これからも精進させて頂く所存に御座います」
我ながら、恥ずかしい演技だが、これくらい大袈裟なの方がいいよな。
「すまぬな、余も食してみたかったぞ。叶うなら、また作ってもらえたら嬉しいのだが? 可能かのぉ?」
「はい、是非に、ありがたき御言葉に感謝いたします」
「うむ。余も新たな楽しみができた。キンザンよ。約束じゃ、違えること曲がりならんぞ!」
絶対に約束を守らないとならないな……
ルフレ殿下達は急ぎ部屋を出ていった。
俺は置かれたままの手付かずのプリンアラモードを眺めながら、部屋の隅で待機するメイド長のエリプエールさんに声をかける。
「すみません、良かったら皆さんで食べませんか?」
「え、私どもにその様な気遣いは無用で御座います」
「いや、食べてもらえたら助かるんです。さすがにこの数なので」
嫁ちゃん達の分は既にあるため、ただ残ったプリンアラモードが並ぶテーブルに視線を向ける。
「それは、命令と認識してよろしいでしょうか?」
「はい。その方が食べやすいなら」
諦めたように肩の力を抜いたエリプエールさんが他のメイドさん達に声をかけていく。
瞬く間にメイドさん達が集まり出すと、プリンアラモードの食事会が始まり、エリプエールさんを始めとするメイドさん達が美味しそうにプリンアラモードを食べていく。
「なんて、甘いんでしょう、幸せです」
「見てください。スプーンの上で踊ってますわ」
「冷たいですね。不思議な食感です」
メイドさん達が笑いながらプリンアラモードを食べる姿を見ていると嫁ちゃん達からも明るい声がしてくる。
嫁ちゃん達も満面の笑みを浮かべて食べている姿に俺も笑顔を浮かべて見つめていく。
ルフレ殿下には、また色々作ってあげないとな。
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