140話、呼ばれた先で?
朝になり、俺達が寝ずに過ごしたミトの解体場の扉が叩かれる。
「早朝、失礼します! メフィス様の命により、まいりました」
慌てた様子で女性の声が室内に響き、急いで扉を開く。
扉の前で姿勢を正した軍服姿の女性が俺の顔を確認してすぐに目的を話し出した。
「急な訪問失礼いたします! 緊急にて、お許しください! メフィス様より、早急にお越しいただきたいとのこと、どうかご同行をお願いいたします」
解体広場には、既に大型の馬車が停まっており、慌てた迎えの女性の表情に俺は早々に支度を済ませることになる。
当然ながら、今回は嫁ちゃん達が俺だけを行かせる気はないと口にしている。
メフィスはそれも予想して、大型馬車を寄越したのだろうとすぐに理解できた。
迎えに来た女性はすぐに馬車の扉を開き、嫁ちゃん達を乗せていく。
そんな中、蛇人族のナギは馬車に乗れないため、悩んでいるのが分かった。
「みんなは馬車で向かってくれ。俺はナギに連れてってもらうよ」
俺がそう伝えると、ドーナがなぜか馬車から飛び出して俺の影に飛び込んできた。
「な、ドーナ? なにしてんだよ」
影から頭を出したドーナがニンマリと笑う。
「ドーナはマスターと一緒なの〜! さぁ、ナギちゃん! マスターを連れていくの!」
「うん、マイマスターを連れてく。しっかり捕まってマイマスター」
「待て待て、あの、向かう先は昨日の屋敷でいいんですか?」
迎えに来た女性に質問をすると女性は首を横に振った。
「来ていただくのは、元グリド商会代表である罪人──ズナッキー・グリドの屋敷になります」
俺は元グリド商会という言葉とズナッキーに対して、罪人と呼ばれていることに全てが終わったのだろうと考えが巡った。
目的地がわかっても場所が分からないため、ナギには馬車と並走してもらうことにして、俺達は案内されるままに目的地である元ズナッキーの邸へと向かっていく。
馬車が住宅街を抜けると、メフィスが臨時で使っていた屋敷の三倍は大きな作りの立派な屋敷が姿を現す。
まるで西洋の小さな城を思わせるようなデカさに俺は呆気に取られてしまった。
長い塀を通りすぎると立派な門が姿を現し、見張りの兵士達が敬礼しつつ、門を手早く開けていく。
俺の平和な異世界生活がさらに間違った方向に向かっていくのを改めて感じてしまう光景だった。
馬車が停車するとメイド姿をした女性達が俺達を出迎えてくれた。
元ズナッキー邸は既に没収済みであり、メイドさん達は冷静な表情を浮かべているが、どこと無く冷たく、静かな雰囲気を感じさせる。
少しピリつく感じを覚えながら、俺は前に一歩出て挨拶をしてきたメイド長のエリプエールさんがその後の案内をしてくれた。
案内された先には、メフィスとルフレ殿下、他の側近達が待ち構えていた。
そんな緊迫した空気が広がる室内に嫁達を引き連れてやって来た俺は相当場違いに感じてしまう。
素直に帰りたい……胃が痛くなりそうだ。
しかし、予想外にルフレ殿下は一般人枠である俺の到着を歓迎してくれていた。
「よく来た。待ちくたびれたぞ! それと、この前の宴(祭り)の際にいた女子らも、よくぞ参ったな」
ルフレ殿下の発言にメフィスがすぐに耳打ちをする。
「な、なんじゃと! あ、あの者らは……全て、あやつの妻なのか!」
「ですなぁ、あの中の一人が奥方ではなく、あのすべてが奥方ということになりますなぁ」
その言葉にルフレ殿下が少し驚き、さらに顔を少し赤らめていた。
「な、なんと、お主……顔に似合わず、女好きなのじゃな……驚いたぞ」
話がかなり脱線している気がするが、すぐに話は側近達により修正されていく。
ルフレ殿下はすぐに表情を改めると真っすぐに俺を見つめてきた。
「此度、主らを呼んだのは、ちと、こちらに問題が生じたからなのじゃ、実に情けない話になってしまうがな、申し訳ないのだ」
悔しそうな表情を浮かべるルフレ殿下は昨晩、グリド商会で何が起きたかを説明してくれた。
グリド商会を包囲していた王国軍がルフレ殿下の指揮により、総攻撃を開始した。
すぐに正面から攻撃が開始され、グリド商会の雇われ兵達と激しい戦いになって行った。
数に勝る王国軍が圧倒的な戦力で雇われた兵士を拘束していき、すべては順調だと思われたが、肝心のズナッキー・グリドの姿が確認できなかったのだ。
本来、商会の会長室にいるはずだったズナッキーの姿がないことから、すぐに商会内の敷地と建物、隣接する商会の店まですべてが調べられていく。
調査からしばらくして、商会の地下室に作られた酒の貯蔵庫のさらに奥に地下へと続く通路が発見される。
そのことから、すぐに地下通路への調査部隊、並びにズナッキー捕縛命令を受けた部隊が地下通路へと向かわされる。
ただ、地下通路は複雑な作りになっており、しかも、地下水が流れているため、獣人による嗅覚を利用した追跡も難しくなり、その結果、地下の調査は困難を極める結果となっていた。
そして、現在もズナッキー・グリドを拘束するために地下通路を調査している真っ最中のようだ。
説明の最中だが、俺は疑問を感じて片手をあげて質問を口にする。
「あ、あの……今の話を聞いても……なんで呼ばれたか分からないんだけど……」
「なんじゃ、せっかちな奴じゃな、まぁよい。そんな逃げたズナッキー・グリドの部屋からお主に対する強い怨みの籠った内容が書かれた文や証言がいくつかあってなぁ」
確かに、アイツとは色々あって、恨まれてるだろうから、違和感ないな……
1人で頷いていると“ゴホン!”と、咳払いがされる。
「話を続けるぞ? つまり、主らも余の大切な民じゃ、目の届く範囲で民に危害を加えようとする者を取り逃したこと、本当にすまぬな」
内心、祭りで料理を食べたり、ダミオとの一騎打ちがなければ、ワンチャン逃がさなかったかもしれないと思ってしまったが、それを言い出したらズルいだろう。
それにわざわざ、謝ってくれているルフレ殿下の気持ちを踏み躙るような無粋な真似はよくないと思う。
何より、あんなに楽しそうに食べてくれてた姿を思い出したら、ズナッキーの奴を逃がしたことなんか、正直、どうでも良くなってしまう。
「ルフレ殿下? いきなりですが、少し時間をいただいてもよろしいでしょうか?」
「む? 余は多忙な状態であるが、どれほどの時間が必要なのじゃ?」
「そんなに時間はかかりません。許していただければ、厨房もお借りしてよろしいでしょうか?」
「ふむ、構わぬぞ。どちらにしても、地下通路の調査の報告待ちじゃからな」
許しが出たので、すぐに嫁ちゃん達と厨房へと案内してもらうことになった。
メイド長のエリプエールさんに案内され、厨房に到着するとすぐに俺は必要な食材を“買い物袋”から素早く取り出していく。
「異空間魔法で御座いますか?」
今まで凛とした表情で感情が見えなかったエリプエールさんからの突然の質問に俺は軽く笑みを浮かべていた。
「まぁ、簡単な収納魔法のようなものですよ」
最近、普通に“買い物袋”を使ってしまうため、改めて、警戒心が足りないなと感じてしまった瞬間だった。
厨房の棚には、高そうな皿やグラスなどが並んでおりその中から、白い綺麗な皿をいくつか使わせてもらう。
「なぁ、オッサン? 今から何するんだよ」
「そうにゃ、説明するにゃ! みんなでやれば早いにゃ〜」
「ふふ、キンザンさんが何を作るか楽しみね。ミアとニアも張り切ってるわね」
ベリーの言葉にミアとニアが両手を組んでドヤ顔を浮かべている。
「「主様! ペコとグーも手伝う!」」
元気な声でペコとグーが俺を見つめ、その後ろから、ミトも顔をだす。
「チッ、仕方ねぇな、ウチも手伝ってやるから、なんでも言えよな! それに、旦那様の役に、立ちたいし……さ」
ミトは少し捻くれた感じだが、それでも最初の頃を考えれば嬉しい変化だな。
ポワゾンとナギは言われるまでもなく、紅茶の用意を始めている。
フライちゃんとドーナはそんな様子を見て、なぜか、首を縦に振り頷いている。
なんでフライちゃんとドーナが偉そうなのか、分からないが、すぐに調理に取りかかる。
俺は“買い物袋”から取り出したものをテーブルに並べて、役割分担を説明していく。
俺が作る予定の物はプリンアラモードだ。
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