139話、目覚めと温かい食事、あがる黒煙
呼ばれるまま、俺は最初に案内された部屋に入っていく。
室内には相変わらず、ルフレ殿下とメフィス、他に数人の配下の皆さんが雁首を並べている。
俺は改めて、ため息をつきたくなるが、それを必死に飲み込み、小さく深呼吸をする。
「早く入るのじゃ、先ほどは取り乱したが本題を忘れていた。すまぬな。座ってくれ」
最初とは違う冷たい表情に、俺は話を聞きたくない気持ちを押し殺し、言われるがまま席につく。
「さて、話を開始しようか。本来、余が自ら出陣した理由は、お主の開いていた宴で話したが、覚えておるだろ?」
「グリド商会の件ですよね? 違いますか」
「うむ。間違いない。そのためにわざわざ、今は猶予を与えている最中だからのぉ」
猶予? わざわざ時間を与える理由が分からないな……
「ふむ、不思議だという表情だな? 余の考えが分からぬと見える。聞きたいか? 余の考えを知りたいであろう!」
顔をグッと前に出すように全身をうずうずさせている。
俺は軽く首を縦に振ると、ルフレ殿下は両手を組み、楽しそうに語り出す。
「ふふふ、グリド商会のズナッキー・グリドなるアホたれは自分がズル賢いと思っておるようだからのぉ、自分が賢いと思っている奴は証拠を隠しにかかるからのぉ」
俺は少しだが、ルフレ殿下の考えを理解した。
まさに泳がせているのだと。ただ、処分されたらどうするのか、そんな質問が頭に過ぎる。
俺が疑問を頭に浮かべると同時に廊下から慌ただしい足音がこちらに向かって駆けてくる。
「失礼いたします。緊急の連絡にて、報告いたします! グリド商会にて動きがありました!」
報告を聞いたルフレ殿下が立ち上がる。
「やっとか……待ちわびたわ、すぐに全軍を向かわせよ! 決して逃がすこと許さぬぞ! すぐに転送陣、並びに門を封鎖、もう一度言うが、誰一人として逃がすことは絶対に許さぬ! よいな!」
先ほどまで、楽しそうに喋っていた表情から真面目な表情に変化させたルフレ殿下は、立ち上がり指示を口にする。
冷たくありつつ、だが怒気を含んだような口調で命令を口にする姿は本当に王なのだと感じさせる。
すぐに室内にいたメフィス達が動き出し、去り際に声をかけられる。
「ここからは我輩達、国王軍側の仕事になりますからなぁ。無理難題な状況になってしまいましたが、感謝いたしますよ。キンザン。では、失礼します」
メフィスもすぐにグリド商会の方角へと向かって飛んでいく。
屋敷に残された俺は少し悩みながらも、メフィス達が向かったグリド商会に向かおうと考え、屋敷から出ようと玄関扉に向かっていく。
しかし、そんな俺の背後から声がかけられる。
「あ、あの、アクティ様が目覚めまして、言われた通り、白湯から飲ませたのですが……すみません、こんな忙しい時に……」
申し訳なさそうに声をかけてきたメイドに俺は向き直ると、急いで調理場に案内してもらう。
調理場に着いてからの俺の様子に、慌てたように声を出すメイドさんは俺がどこから食材を取り出したのか分からないせいで困惑しているようだった。
慌てるメイドさんに俺は食材を取り出しながら、料理の準備をしていると質問を口にされた。
「あ、あの、行かなくてよろしいのですか? 食事の用意でしたら、指示していただければ、私の方でご用意いたしますが?」
俺はにっこりと笑い返してから口を開く。
「俺には俺のやり方があるんで、それに国王軍の仕事だと、メフィスに言われてるんでね、俺は行く必要がないんですよ」
【ストレージ】から手早く必要な物を取り出し、米を研ぐと水を多めに入れた土鍋に火をかけていく。
本来なら、昆布なんかで出汁を取りたいが……時間がないため、“買い物袋”から小分け出汁パックを取り出し、土鍋に入れていく。
カツオと昆布の合わせ出汁の香り、煮詰められるにつれて米が柔らかくなるのを確認してから、ゆっくりと木ベラで米を細かく潰していく。
形が分からなくなるくらい煮詰めてから、土鍋からお粥を器に入れていき、熱を冷ましていく。
さすがに熱々のお粥はやばいからな、しっかり冷ますのに時間がかかるため、あまった出汁を使い、吸い物を作り、それを水で割っていく。
吸い物を吸い飲みに入れてから、冷ましたお粥に僅かに醤油をかけておく。
少し味が濃くなってしまったかもしれないと心配しながら、軽く味見をしていく。
「うん、問題ないな。これなら何とかなるはずだ」
俺はそれでも心配だったので、さらにお粥を手動式ミキサーに入れて細かくドロドロにしていく。
見た目が米のりみたいな形状になってしまったが、今回は仕方ないだろう。
とりあえず、メイドさんに作り方と手動式ミキサーの代わりになるすり鉢などを置いていくことにした。
メイドさんがしっかりとメモを取っている姿に感心しながら、作ったお粥と吸い物を持って、アクティさんの元に向かっていく。
メイドさんと一緒にアクティの部屋に入るとベッドに横になったまま、こちらに視線を向けるアクティさんの姿があった。
「失礼します。大丈夫ですか?」
「……ぁ、す……な、い……す……は、な……い」
何かを必死に訴えられているが、聞き取れないため、とりあえず優しく笑って見せる。
「ゆっくりでいいよ。今はまず、食事をしてほしいんですが……いいですか?」
微かに首が動いたことを確認すると、手すり付きのチェアにクッションを敷いてからアクティさんをお姫様抱っこでチェアに移動するとゆっくり座らせる。
自分自身で立位が取れないため、お姫様抱っこをしてしまったが、アクティさんの顔が少し赤らめたのが分かる。
「すみません、いきなりだったんで、怖かったですかね」
俺はアクティさんの姿勢をしっかりと整えるとすぐに食事を食べさせていく。
僅かに手を動かそうとするアクティさんの姿があったが、俺は真剣な表情で伝えていく。
「いきなりは無理ですよ。ただ、しっかりと身体を動かせば、きっと元通りになりますから」
俺の言葉に涙を流すアクティさんに悲しい気持ちになりながらもゆっくりと食事を口に運んでいく。
それから、しばらくして屋敷の窓が振動すると、突然爆発音が鳴り、真っ黒い煙と炎が遠くに確認できた。
「な、なんだ!」慌てる俺にメイドさんが口を開く。
「多分、商会への攻撃が開始されたのかと、僅かな抵抗でも、反抗行為と見なされれば、殿下は容赦されるような甘い方ではありませんので」
俺はアクティさんに申し訳ない気持ちになりながらも、すぐに戻ることにした。
「すみません。あとを頼みます! 俺は行かないと」
「え、あの? あ、はい。お気をつけて」
「本当にすみません、嫁達が心配なんです!」
嫁ちゃん達が巻き込まれることはないと思いながらも、俺は全力で走り出していた。
下り坂を『コックシューズ』の力で転ぶことなく一気に駆け抜ける。
急ぎ解体広場まで戻ると、すぐにミトの解体場の中に入っていく。
「みんな! 大丈夫か」
息を切らせた俺の姿にベリーが最初に駆けつけてくる。
「どうしたのよ、キンザンさんの方こそ大丈夫なの? 凄い汗じゃない」
それからミア達が集まり出すと、俺は嫁ちゃん達の顔を確認して全員無事なことが分かり、ホッと安堵の声をあげた。
「みんな無事だなぁ。ミアも無事みたいだな、本当によかったよ」
俺は街で起きている騒ぎに嫁ちゃん達が巻き込まれていないかを心配した事実とみんなが無事であったことに喜びながら事の次第を説明していく。
「オッサン、ボクを心配してくれたのかよ! 聞いたか、ニア、やっぱりボクが一番じゃんか」
「ちがうにゃ、よく聞くにゃ……ちゃんと皆って言ってるにゃ、困ったミアだにゃ」
「ミアとニアは喧嘩しないでちょうだい、それよりキンザンさん、グリド商会のことはともかく、これからどうするつもりなの?」
ベリーの言葉に俺は僅かに首を傾げるとベリーが深くため息を吐いた。
「はぁ、まったく、本来の目的はキンザンさんが、グリド商会のやり方がって怒ったんでしょうが……今は国王軍まで来ちゃって私達が入る余地はないみたいよ」
「あ、た、確かに……まぁ明日、もう一回、メフィスの使ってる屋敷に行ってみるよ」
俺は街で上がる嫌な黒い煙を見つめながらも、嫁ちゃん達と朝を待つことにしたのだった。
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