138話、目覚めぬ団長にお見舞いを
俺は解体広場の後始末を終わらせた後、『汚染』の感染者であった団長さんの元に向かっていた。
団長さんの体から『汚染』の痣が消えたため、メフィスは療養を理由に早々に、団長さんを用意した屋敷へと移動させていた。
本来なら、痣がなくなった時点で俺が関わるべきじゃないのだろうが、そこは“乗り掛かった船”ということで最後まで見届けたくなるもので……
とりあえず、団長さんの顔を見に行くことにした。
俺の行動にミアとニアの二人が即座に反応した。
「はにゃ! どこに行くにゃ〜? キンザンは今日はニア達と一緒に寝る予定にゃ」
いや、そんな約束はしてないんだが……ただ、嬉しいのは事実なので、そのつもりでいようと思う。
「少し、団長の様子を見てくるよ。すぐに戻るからさ」
「はぁ、オッサンの悪い癖だよな……必要以上の心配性ッて、いうか……本当にお人好しだよなぁ、オッサン」
そんな手厳しい言葉に耳が痛くなりつつも、俺は歩みを進めていく。
メフィスから教えられた屋敷は、住宅街を抜けた先にあり、高台まで続く道を必死に登っていくことになる。
やはり、治療が問題なく進んでいても、もしもの時を考えて、住宅街から離れた屋敷を選んだのだろうと思うと、ハッキリ言って、口は悪いがメフィスは俺以上にお人好しだと思う。
色々な考えが頭に浮かぶ中、しっかりと坂を登り、真っすぐな道に出てからは一気に駆け出していく。
嫁ちゃん達を待たせて見舞いに来ているため、団長さんの様子を確認したら、すぐに戻るつもりだ。
ただ、団長さんがもしも、目覚めていた際には、状態を確認して、消化にいい食事を作るつもりでもある。
本来は料理などもメフィスの部下さん達に任せるべきだろうが、長く絶食状態だった団長さんにこちらの世界の料理はキツいだろう。
そのため、俺はこまめに様子を見にくることに決めたのだった。
屋敷の前に辿り着くと顔見知りの部下さんが2人、門番として立っており、俺の姿を見て軽く挨拶をしてから語りかけられる。
「これは、キンザン殿。どうされましたか?」
「すみません。実は団長さんの見舞い……というか様子を見に来たんだが?」
「分かりました。確認してきますのでお待ちください」
門番の1人が駆け足で屋敷に入ると数分で戻ってくる。
「メフィス様方に確認が取れました。すぐに中へ通すように言われましたので、ご案内いたします!」
案内されるままに、屋敷の中へと入っていく。
屋敷に足を踏み入れると案内はメイドさんに交代する。
すぐに団長さんの容態を確認しようと考えていた俺が案内されたのは屋敷の作りからすれば、中央に位置する部屋であり、左右の部屋との間隔を考えれば、かなり広い部屋のように感じる。
入る前から少し違和感があった……やけに緊張した感じに扉をノックするメイドさんの姿があり、メフィスの部下にしては明らかに落ち着きがない様子だった。
「キンザン様をお連れ致しました」
「うむ。構わぬ。扉を開けて中に通してくれ」
メフィスではない女性の声に俺は少し嫌な予感がしつつ、メイドさんに案内されるまま、開いた扉から中に入る。
「よく来たな。まさかの来訪者に余もびっくりしたぞ。キンザンよ」
その声と口調からすぐに俺は室内にルフレ殿下がいると理解した。
案の定、上座に座るルフレ殿下が俺を嬉しそうに出迎えてくれていた。
「え、ルフレ殿下?」
俺の反応が気に食わなかったのか、ムッとした表情を向けられる。
「余が居るのは不服か? 余と話すのはそんなに不快なのかのぉ!」
ルフレ殿下の背後からは複雑そうな表情の護衛や側近の兵士さん達が困り果てた表情を浮かべている。
当然、その中の一人にメフィスもおり、手で必死に何かを訴えているのが分かる。
「あ、いや、ルフレ殿下がいると知らず、驚いてしまったというか……サプライズですね、ははは……」
「む? サプライズとは、なんじゃ? 誰か余に説明せよ! 知らぬ言葉は分からねば気がすまぬ! キンザンよ。決して、其方から答えを言うでないぞ!」
まさかの展開に文官であろう、髭の男性や騎士の男性達が困り果てた顔をしており、メフィスからは酷く睨まれる形になってしまった。
「あの、答えが分かるまで邪魔したら悪いんで、見舞いを済ませても大丈夫でしょうか?」
「だから! サプライズとはなんなのじゃ! ん? 見舞いとな」
いまだに自身の部下に質問をするルフレ殿下が俺の言葉に反応したので、タイミングを逃さないようにすぐように、質問を口にする。
「はい。『汚染』の被害者であり、治療中の女性に見舞いがしたいと考え、今回は足を運んだので」
敬語を使えば、さらに不機嫌になることを考え、俺は砕け過ぎない口調で質問をしていく。
その問いに対して、メフィスに案内を呼ぶように指示するルフレ殿下。
「はぁ、わかりました。誰かいませんか!」
メフィスの声に姿を現したのはキミであった。
「メフィス様。ただいま参りました」
「キミル、警備兵団の団長アクティの部屋に案内を頼めますか……」
明らかに不機嫌なメフィスの言葉にキミが不思議そうな表情を浮かべるが、室内の雰囲気を察したようで、すぐに俺をアクティと呼ばれている団長さんの元に案内してくれた。
案内の最中にキミが質問をしてきた。
「あの部屋の雰囲気は何があったのですか……メフィス様を始めとする知識人の方々が困った表情を浮かべていましたが?」
俺は質問に対して、話の最中に「サプライズ」という言葉を使って混乱させてしまった事実を話していく。
「その、サプライズ? とは、どんな意味なのですか……私も初めて聞く言葉なのですが?」
「サプライズは、予想外の驚きみたいな、まぁ、すごくびっくりした時に使うんだが、まさか……こんな事になるなんてな……悪いことしたなぁ」
ため息を吐きながら、そうつぶやくとキミが軽く口角を上げる。
「大丈夫ですよ。今の会話ですべて、解決しますから。安心してください。それよりも着きましたよ」
話をしながら歩いていた俺は、キミの言葉に足を止める。
扉をノックすると室内から返事があり、扉が開かれる。
「キミル様、どうかされましたか?」
扉が開かれると世話係であろうメイドが顔を出す。
「アクティに面会だよ。少し部屋に入らせてもらうよ」
そう告げるとメイドさんが頭を下げて俺達と入れ替わるように室外へと出ていく。
「え、あ……キミ、メイドさん行っちまったけどよかったのか?」
「むしろ、今回の一件はかなり厄介ですからね、話をする際には退室が正解だと思います。まぁ、キンザン殿の場合は何かあれば、奥方に報告が一番ですので、心配してませんが」
意味深な言い方をされたが、確かに間違ってないため、それ以上の突っ込みは入れないでおく。
俺はベッドでいまだに眠るアクティと呼ばれている団長さんの傍に歩み寄る。
軽く手足を確認していく。黒い痣が完全に消えていることにホッと息を吐いた。
「キンザン殿。奥方にすべて説明しますが大丈夫ですか?」
「ん? 何がだ」
「アクティ殿の手足をまじまじと見られていたので、報告するか悩みます……」
悪い笑みを浮かべるキミに俺は嫌な汗が背筋を通過する。
「おいおい、マジに変な報告はやめてくれよ……俺は嫁ちゃん達が一番大切なんだからな」
「わかっています。冗談です」
そんな会話をしている最中、部屋の扉がノックされる。
「お話中、失礼します。ルフレ殿下が話があるとのことですので、お越しいただいても宜しいでしょうか」
メイドさんからの声に俺は慌ててきた道を戻っていくことになる。
「あ、もし、アクティさんが目覚めたら、まずは白湯から飲ませてくれ、あとすぐに俺に知らせてください。絶対に食事を勝手に与えないでください。お願いします」
不思議そうに俺を見つめるメイドさんだったが、ぎこちなく頷いたのを確認してから俺は急ぎ部屋から移動した。
ただ、わざわざ呼ばれるなんて、あんまりいい予感はしないなぁ……
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