135話、ターブルロンド騎士団長・ダミオ
ざわめきが二手に分かれると、視線のその先に、銀色のフルプレートを纏った集団が姿を現す。
先頭に一際輝くフルプレートの鎧を身に纏った一人の人物がいた。
その人物を中心に隊列を組むようにして解体広場の入口にフルプレートの騎士団が威圧感を纏いながら整列していく。
予想だにしていなかった事態に慌てて飛び出した俺の背後から嫁ちゃん達も同様にやってくる。
「なんでしょうか、貴女方は? ご主人様が行う宴に対して、その姿は無粋ではないですか?」
鋭い視線を向けながら、ポワゾンが呟くと相手側の先頭の隊列にいた一人が声を上げる。
「貴様、無礼な! 知らぬと言って、許される発言と思うなよ!」
そう言うと俺を指差した鎧男はあろうことか、腰に装備したロングソードに手を掛けるような仕草をしてみせる。
脅しのつもりだろうことはすぐに理解できたが、その行動は完全に悪手だった。
ポワゾンの表情が豹変し、ミトがキバを剥き出しにして唸り出す。
そして、祭りを邪魔された嫁ちゃん達が戦闘態勢へと入ったのがわかった。
それと同時に、今回、協力してくれていた狼人族とそのまとめ役であるウルグ達も両手を鳴らしながらこちらに向かって歩いてくる。
砂鮫人族の戦士達もミトが怒りを顕にしたことにより一斉に食事を中断して、こちらに集まりだしていく。
今の一瞬で集まりだした亜人種の数に緊張が走る解体広場、そんな様子に俺は待ったをかけようとして、声を張り上げようとした瞬間、俺より先に怒りに満ち溢れたような声が広場に響き渡る。
「──このォォ馬鹿者がぁぁぁッ! いつ発言を許したか? 来る前に話したはずだが、余の話は片耳から片耳に流れ出し、頭に残らなかったか? 答えよ、ダミオ!」
いきなり鳴り響いた女性の声に俺を含むその場の全員が驚かされたが、そんな俺達を気にすることなく、女性とダミオと呼ばれた鎧騎士が会話を続けていく。
「間違いなく、頭の奥に刻まれております!」
「ならば、なぜ……このような状態になる? なぜ、余が貴様の身を案じて話を遮ることになっているか説明してみよ。ダミオ?」
「……も、申し訳あ──」
「説明せよッ!」と謝罪を口にしようとするダミオの言葉を遮ってさらに怒りを顕にする女性。
俺が状況が分からずに見守っているため、怒りを顕にしていたミア達も必死に自分自身を抑えているのがわかる。
そんな緊迫した空気の中で、慌てた様子のメフィスが姿を現すと場の空気が僅かに変化する。
突如現れたメフィスに視線を向けるフルプレート姿の女性というより、少女であろう背丈の人物にメフィスは静かに片膝を地面につけると頭を深く下げる。
「む、メフィスか……色々と苦労をかけてしまったようで、すまなかったな。面を上げよ。ダミオ、もうよい、興が冷めた……」
メフィスの膝をつく姿に俺の中で、今目の前で喋っている相手が誰なのかが容易に想像することができると、慌ててその場の全員に向けて声をあげる。
「みんな! 戦闘はなしだッ! 絶対に手を出すなよ。頼むからな!」
普段よりも力強い言葉にミア達が納得いかないといった表情を浮かべるが、ベリー、ポワゾン、フライちゃんの3人が全員に俺の意思を伝えていく。
しかし、それで収まるミトとミアではなかった。
あろうことか、前に出て拳を鳴らし始めてしまった。
さすがの俺の指示でも、この状況を招いた張本人達を許すことができないらしい。
「お前ら、辞めろ! いいか、「弱い者ほど相手を許すことができない。許すということは強さの証だ」(マハトマ・ガンジー)って、言葉が俺のいた世界にあるんだよ!」
俺の言葉にフルプレート姿の女性が微かに反応したように感じる中、ダミオと呼ばれた男が怒りを顕にするように拳を握り締めるのが見える。
そして、ダミオは人の言葉を聞かない馬鹿たれだと分からされた。
「聞いていればッ! 貴様ッ」と、先ほど、注意されたにも関わらず、大声で俺に怒鳴りつけるように言葉を発した。
それを合図にミトとミアの表情が怒りを物語り、騎士達にも動揺が広がっていく。
両者の緊張感が限界を迎えようとした瞬間だった。
フルプレート姿の女性が一歩前に出ようとした瞬間、メフィスが立ち上がる。
なにをする気かと見ていると、あろうことかダミオに向かって、風魔法を発動させるとダミオが吹き飛ばされていく。
「ぐあぁ、何を! ぐわぁぁぁ!」──ガダンッ!
凄まじい音と共にダミオが後方にいる騎士達に向かって吹き飛ばされていく。
「本当に……何を考えているのですかねぇ! ダミオ……貴方が喧嘩を売ろうとしている相手が誰かを考えなさい!」
メフィスの言葉に対して、立ち上がったダミオが怒りを顕にするとさらに声を上げる。
「メフィス……貴様ッ! この魔術師が! 我に攻撃をするとは、許さぬぞ!」
兜を外し、地面に投げるとダミオと呼ばれた男がメフィスを睨みつける。
それに対して、メフィスが蔑んだような視線を向けると口を開く。
「少なくとも貴方程度で何とかできる相手ではないことを理解しなさい。むしろ、我輩が助けたことに感謝しなさいダミオ……愚かなる騎士は程度がしれますよ」
「言わせておけばァッ! そこの痩せっぽっちに我が負けると抜かすか! メフィス」
俺を指差し、怒りを顕にする姿と発言から、メフィスと同等の貴族であることが理解できる。
ただ、メフィスと違い、冷静な判断は期待できないタイプなのもすぐに理解できた。
ダミオの発言とメフィスの発言を聞いたフルプレート姿の女性が声を上げた。
「黙らぬかッ! 話は理解した……いきなりですまないが、お主、余の頼みを聞いてくれぬか?」
鋭く叱責した女性の視線が、ゆっくりと俺に向く。
兜の奥から覗く微かに見える瞳は冷たくもあり、だが、澄んでいるようにも感じる。
だが、その瞳は、怒りよりも何かを試すかのような期待に満ちたようなそれに変化していくのがわかる。
ただ、周囲の騎士達からすれば、俺の返答次第ですべての流れが変わることを理解しているのだろう。
息を呑み静まり返る空気、砂埃がゆっくりと沈む音すら耳に響くような緊迫した空気が広がる。
突然のことに俺が返事に困り無言になっていると、そのまま、言葉が続けられていく。
「不躾になるが、余も其方の力に興味があるのだ。罪には問わぬ、ダミオと戦ってやってはくれぬか?」
まさかの提案に嫁ちゃん達が一斉にフルプレート姿の女性に視線を向ける。
俺はこれ以上、嫁ちゃん達が興奮しないように仕方なく、提案を受け入れることにする。
「はぁ、わかっ……わかりました。ただし、恨みっこなしで頼みますね……」
俺の言葉に頷いたのを確認してから、ゆっくりとダミオに視線を向ける。
既に話を聞いてやる気満々に鼻息を荒くするその姿に俺は苦笑いを浮かべていた。
俺に対して、メフィスが申し訳なさそうに頭を下げてくる。
「申し訳ありませんなぁ……まさか、こんなことになるとは……我輩としては、本当に不本意です」
「気にすんなよ。それに、立場的に色々あるんだろうからな……」
そんな軽い会話をしている最中にダミオが戦斧を握りしめて俺を睨みつけているのがわかる。
「はぁ、やる気満々って感じだな。とりあえず、用意するから」
溜め息混じりに、【ストレージ】から『調理用ロングエプロン』『調理用ゴーグル』『調理用黒手袋』を取り出して身に付ける。
最後に『コックシューズ』をしっかりと履き直してから俺は調理用ゴーグルをしっかりと装備すると【調理器具マスター】を発動する。
「ふざけた格好をしおって! 武器はどうした。王国騎士団である【ターブルロンド騎士団】団長である我を相手に素手などとふざけたことはあるまいなッ!」
「安心してくれ、これが俺なりの本気のスタイルだ。それに武器はいつも見えるとは限らないだろう、やればすぐに分かるよ」
ダミオからすれば、挑発に聞こえたみたいで、鼻息がさらに荒くなっているのがわかった。
面倒臭いと思いながらも、フルプレート姿の女性が「はじめ!」と口にした瞬間、凄まじい脚力で俺に向けて突撃してくるダミオ。
開始の合図が響いた瞬間、ざわめきが嘘みたいに消え去った。
踏み込まれた足元から巻き上がる砂と戦斧の鉄臭さ、全てを感じた瞬間、早まる心臓の鼓動が耳に響いていく。
そして、次の瞬間──地面を割るような脚音とともに、鎧を纏った巨体が弾丸のようにさらに加速する。
俺は鎧を身につけたままに突進するダミオを見て、嫌なモノを感じていた。
ダミオの全身からは殺気に似た感覚が感じられたからに他ならない。
相手が模擬戦ではなく、殺し合いを行おうとしていることが即座に理解できたからだ。
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